『大丈夫か?』隣にいる男、李凱(リー・カイ)から異国訛りのある日本語で気づかわれた。170cm弱あるから私も日本人女性としては背が高いほうだけど、190cmを超える凱の顔は遥か上にある。だから凱の顔を見るときは首の後ろがキュッとなるのだけど、こうして見上げる角度に慣れているのもは彼も同じくらい背が高かったからだろうか。いや……そうじゃない。いけない。浮かびかけた彼とのいい思い出を頭を振って追い払う。『陽菜、無理ならやめよう』頭を振った理由を凱には無理だと勘違いされた。でも、そうではない。大丈夫。だって、こんなチャンスは次はいつくるか分からない。『大丈夫ですよ、支社長』“支社長”と役職をつけたことがトリガーとなって、凱の表情がやや硬くなった。英国に本社のある世界的に有名な建築事務所キャメロットの日本支社長に相応しい顔だ。凱はこのパーティーに上客として招待されているから、おそらく彼が自ら挨拶にくるだろう。『大丈夫か?』 『うん』 『それなら、行こう』凱の表情は“上等”と言わんばかりに満足気だったけど、その腕は“傍にいる”というように優しくて、私はこの腕に安心させられる。 *『しかし、周りの目が少々鬱陶しいな』凱は不満げだけど、こんな視線に慣れていることを知っている。品の良い顔立ちにアウトローの雰囲気を併せ持つ男。危険な魅力に満ちた凱に老若男女は目を奪われる。特に女性。彼女たちの視線は凱を搦めとらんばかりにギラギラと熱いし、その隣にいる私には鋭利は刃物のように鋭く刺さる。 『視線の主は美女たちよ?』『美女なんてどこにいるんだい?』わざとらしくキョロキョロとフロアを見渡した凱は私にウインクをする。『俺がいまエスコートしている女性以上の美女を連れてきてくれないか?』『馬鹿ね』気障な台詞。 でも、凱にはよく似合っている。『……ありがとう』緊張をほぐしてくれた凱に感謝しながら、私たちはフロアを横断してバンケットホールに向かう。ちらほらと見知った顔が増えてきた。 目的地が近い。 緊張が戻ってくる。『俺を見て、My Dear』凱の優しさと、甘さの籠った声に周囲が騒めく。向けられたのは私なのに、周囲の女性が被弾して顔を真っ赤にしていた。うん、素晴らしい。 今日のパートナーに本当に相応しい。
Last Updated : 2025-11-17 Read more