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第154話
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離婚カウントダウン、クズ夫の世話なんて誰がするか！ 第156話
「ええ」伶は視線を落とし、その漆黒の瞳が悠良の目元をかすめた。「別に。ただ、昔から眠りが浅くて。沈香の香り袋をつけてると少し眠りやすくなるんだ」悠良はふと、以前病院で伶が彼女に歌を歌わせたことを思い出した。なるほど、あれもそういう理由だったのか。あの時は、伶がふざけているのかと思っていた。彼はいつも人をからかうのが好きな性格だから。まさか、こんな無神経そうな人が睡眠に悩んでいたとは思いもしなかった。司会者の声がまた響く。「あと15秒、皆さん頑張ってください！」少し離れたところでは、玉巳が史弥にしがみつき、その様子を見ていた。「史弥、今回悠良さんと寒河江社長、もしかしたら本当に勝てるかも」玉巳の言葉を聞いて、史弥は思わず悠良の方へ目を向けた。視線が伶の手に落ちた瞬間、顔がすっと険しくなる。その視線に気づいた玉巳は、慌てて悠良のことを弁解した。「寒河江社長と悠良さんはきっと、勝つために頑張ってるだけだよ。見てよ、皆ぎゅうぎゅう詰めで、誰だって抱き合ってるじゃない」元々はそこまで機嫌が悪くなさそうだった史弥の顔色が、玉巳の余計な一言でますます険しくなる。唇を引き結び、顎のラインに力が入る。玉巳は彼の腕をポンポンと叩き、なだめるように言った。「もういいでしょ、悠良さんがきっとちゃんと説明してくれるから」隣にいた陸人は、悠良が自分の近くにいるのを見て声をかけた。「悠良さん、支えが必要なら遠慮なく言ってください」悠良は丁寧に断った。「大丈夫です、ありがとうございます」陸人は少し残念そうに見つめたが、結局それ以上は何も言わなかった。他のメンバーたちは、バランスが取れず次々と落ちていった。このゲームは難易度が高く、バランス感覚が問われる。悠良も正直、限界が近かった。こっそりと葉のチームを見てみたが、なぜかあちらのチームにはふくよかな人が多く、一部の人は最初から乗れていなかった。しかし、このゲームのルールでは、誰か一人でも地面にいると負けとなる。葉たちのチームはもう無理だと見た悠良は、ますます勝利への意志を強く持った。司会者が時間を確認し、ついに言った。「時間です！勝ったのは、第2チームです！」悠良はほっとして、伶から離れて下に降りた。第2チームは歓
離婚カウントダウン、クズ夫の世話なんて誰がするか！ 第155話
それは伶だった。途中で横取りされた陸人も、一瞬呆然として手を出したまま固まってしまった。伶はだるそうに顔を上げた。「何だよ、女しか助けないのか？男じゃダメ？」悠良は完全に唖然としていた。伶という男は、本当に一切の損をしないタイプだった。陸人は一瞬ためらったものの、結局は伶の手を取って引き上げた。伶は身体の向きを変えると、今度は悠良に手を差し伸べた。悠良は口をすぼめ、不思議そうな目で伶を見た。この男、やっぱり頭おかしい。彼女はその手を取り上げた。伶の手のひらは大きくてしっかりしており、不思議と安心感を与えてくれる。その瞬間、悠良の心にひとつの考えがよぎった。もしかして、本当に伶となら一位が取れるかもしれない。だが、足場はあまりにも狭く、ただ乗るだけでも一苦労だった。特に足を丸い円盤の上に乗せ、左足を右足の上に乗せなければならなかったため、バランスがとても悪い。左足と右足が喧嘩しているような感覚だった。同僚の中にはすでにふらつき始めている者もいた。「これ、どれくらい持ちこたえなきゃいけないの？」「たぶん1分間じゃないかな」誰かが呻き声を上げた。「ウソでしょ！1分なんて無理。30秒も持たないよ......」その言葉が終わると同時に、その人は落ちてしまった。悠良は腰が砕けそうな感覚を覚え、必死に中に向かって身体を押し込んでいた。呼吸がだんだん苦しくなってきた。人が密集しすぎて、空気が薄くなっている。加えて、もともと呼吸器系が弱かった彼女は、脳がぼんやりしてきた。身体がふらつき、上半身が後ろに倒れそうになったその瞬間、伶が彼女の腰を抱えて前に引き寄せたことで、ようやく体勢を保つことができた。彼は彼女より一頭身ほど高く、顔を傾けたとき、ちょうど耳元で低く響く声が聞こえた。「賞を取りたいなら、遠慮するな。もっとしっかり掴まれ」彼の息が耳元をくすぐり、悠良は背筋にビリッと電流のような感覚が走った。最初は伶の服の裾をつまむ程度で、少し戸惑っていた。何しろこの場にはたくさんの人がいて、しかも以前、伶との間にスキャンダルもあった。また何か噂が立てば、大変なことになる。だがふと顔を上げると、玉巳が史弥にぴったりと身を寄せているのが見えた。身体全体を彼に
離婚カウントダウン、クズ夫の世話なんて誰がするか！ 第154話
「みんなが必死で俺と同じチームになりたがってるのに、君だけわざわざチームを変えようとする。バカか、君は」伶は、相変わらず軽くてふざけたような口調で言った。まるで、彼と同じチームになることがどれほど光栄なことかとでも言いたげだった。悠良は彼に冷たい目線を返すだけだった。「なんでそんな面倒なことを......どのチームにいても同じでしょ」「俺のチームなら、勝たせてやるよ」自信満々の口ぶりに、悠良はつい彼をじっと見てしまった。改めて伶を見て、今日の彼が黒いアウトドアジャケットを着ていて、風に吹かれて髪が少し乱れていることに気づいた。そのラフな感じが黒の持つ鋭さを和らげ、青年らしさすら感じさせた。ポケットに手を突っ込み、立体的な顔立ち、綺麗な唇の形、顔もパーツもまるで欠点がなかった。しばらくして、悠良はわざとらしく皮肉な笑みを浮かべた。「寒河江さん、私たち、そんなに浅い仲でもないでしょう。そういうセリフはうちの会社の若い子たちに言ってあげてください」そう言って、彼女は前にいた花柄のワンピースに黒縁メガネ、前髪ぱっつんで、真面目そうな顔立ちの女子社員を指差した。誰が見ても純粋で、おそらく新卒っぽい印象だった。伶は悠良の指差す方を何気なくチラッと見ただけだったが、それを中西里花（なかにし りか）が完全に勘違いした。彼の視線を感じた里花は、顔を真っ赤にして俯いた。隣の同僚がその様子を見て、思わず聞いた。「どうしたの？顔真っ赤だよ？」里花は小声で答えた。「さっき、寒河江社長が私のこと見たの......」隣の同僚は思わず目を見開いた。「え？」里花はとろけるような表情でうっとりしていた。悠良はその様子をすべて見ていて、思わず背筋にゾクッと寒気が走った。伶の女子への影響力は、本当に強烈だった。たった一瞥で、簡単に心を奪ってしまう。伶は悠良に意味ありげな視線を送り、眉を少し持ち上げた。「まだ俺のこと、自意識過剰だと思ってる？」悠良はもちろん、彼がどれだけ女性に影響を与えるかなんて痛いほどわかっている。ただの冗談だったのに。その時、司会者の声が響いた。「それでは、準備してください。50秒以内に安定した状態で立って、片足でも地面についたら負けです」「おおー！」と皆が声
離婚カウントダウン、クズ夫の世話なんて誰がするか！ 第153話
「さっき、寒河江社長がくじを引いてるの見なかった？」「マジで、ヤバすぎない？寒河江社長って、普段こういうゲームに参加するタイプじゃないと思ったんだけど」「そうそう。聞いた話だと、前にあの会社で一緒に社内イベントがあって、寒河江社長が珍しく参加したら、女の子社員が皆テンション上がったんだって。でも結果、午後ずっとそこで寝てたらしいよ」「それもそうだよね。寒河江社長ってゲーム向きの人には見えないもんな」悠良も不思議に思った、伶がゲームに参加するなんて。その時、誰かがまた叫んだ。「寒河江社長は第2チームだって！」群衆がまたざわめいた。「第2チームの人、めっちゃ羨ましい！」「どうしよう、私も第2チームがいいなぁ」「私も！交換できる？」「できると思うよ、悠良さんにお願いすれば」「私もお願いする！」一気に、悠良の周りには交換希望の人たちが集まった。「悠良さん、交換してくれませんか？」「悠良さん、私も交換！後で必要なデータは全部用意するから！」「私もです、帰ったら全力でサポートします！」「悠良さん、さっき海外で買ってきた美味しいチョコあるから、後で渡しますよ！」悠良は替え票を渡すこと自体には構わなかったが、一つだけ問題があった。手に持っているのは一枚だけのくじ。「皆には譲りたいけど、私にあるのはこの一枚だけなんだ」「ほしい！」「私も！」「何でも言って、ご要望叶えるから！」悠良は誰に渡すか迷ってしまった。その時、葉が悠良の袖を引っ張った。「マジで？みんな寒河江社長のチームになりたがってるのに、なんで交換するの？」悠良は気にせず肩をすくめた。「私はそういうのには別に......」葉は好奇心いっぱいに彼女の顔を覗きこんだ。「いやいや、あんた、イケメンに免疫でもあるの？」悠良は認めた。伶、確かにカッコイイ。でも一言話すだけで人を圧倒する威圧感。そういうタイプのイケメン、彼女には重すぎる。彼女は礼儀正しく口もとにつりがねを作った。「まあまあ、かな」その時、伶が近づいてきて、眉を寄せて言った。「ゲームのルールで、チームの交換はできないよ」「えぇ......」人々は一瞬ショックを受けた。悠良は肩をすくめて手をひらいた。「そういう
離婚カウントダウン、クズ夫の世話なんて誰がするか！ 第152話
葉はそれを聞いて、思わずやる気に満ちた表情になった。「悠良も欲しい？賞品、本当に豪華だね。もし私が取れたら、少なくともこの2ヶ月は生活に困らないわ」悠良は、自分がもうすぐここを離れることを思い出した。去る前に、葉にしてあげられることはもうあまり残っていない。そう考えて、彼女はすぐに決意し、葉に言った。「こうしよう。もし私たちが別々のチームになったら、私が優勝した時は、その賞品を葉にあげる」葉は思わず目を見開いた。「本当に？くれるの？」「うん。スマホもパソコンも持ってるし、今回LSのプロジェクトを手伝ったから、会社からもボーナスが出るはずだし」葉は感極まって悠良を抱きしめた。「悠良、大好き！」チーム分けはくじ引きで行われた。悠良と葉は前後に並んでくじを引く。悠良が紙を開くと、自分が第四チームだと分かった。すぐ隣の葉に聞く。「何チーム？」「第6だよ」葉は紙を悠良に見せる。「私は、第2」「私も第2チームがよかったな......」少し残念そうに言う葉に、悠良は安堵の息をついた。「大丈夫よ。こう考えてみて。私たちが同じチームじゃないから、成功率が半分にならずに済んだじゃない」「それもそうね」葉は目を細めて笑った。その頃、玉巳はくじを引き、紙を見たあとすぐに史弥の方を見た。頬が赤く染まり、期待に満ちた表情で言った。「史弥は何チーム？」「第3だ」「私も！一緒だね！」玉巳の嬉しそうな声が人混みの中でもひときわ響いた。史弥は悠良のところへ歩いてきて、尋ねた。「君は？」「第2チーム」悠良は素直に答えた。すると史弥は提案する。「俺とチームを交換しようか？」「いいえ、大丈夫」悠良は丁寧に断り、完全に史弥の立場を思いやる形で言った。「あなたも仕事なんだし、そんなことしたら、周りから何か言われるかもしれないでしょ。今回はLSとの協力が重要なんだから、後々のプロジェクトの運営にも関わるし」この世界で、こんなにも気配りできる妻を拒める人がいるだろうか。史弥の目にはすぐに優しさが浮かび、顔にあった鋭ささえも少し和らいだようだった。彼は温かい手のひらで悠良の肩を軽く叩いた。「悠良がそう思ってくれて嬉しいよ。正直、君が怒るんじゃないかと心
離婚カウントダウン、クズ夫の世話なんて誰がするか！ 第151話
「彼女がどうして急に来たのか、私もさっぱり......あの時はあまり深く考えていなかたの。ごめんなさい、私、迷惑をかけてしまったのかな......もし悠良さんが誤解してるなら、私が説明しに行くよ。あの人、そんなに器の小さい人じゃないと思う......」史弥は細めた目で悠良を思い浮かべた。彼女は以前と少し違うような気がした。けれど、具体的にどこが違うのか、はっきりとは言えなかった。最近、彼女はずっと自分を避けているようだった。もしかして、何かに気づいたのか......？そう思うと、史弥の瞳に宿る光はますます暗く沈んだ。「心配するな、彼女はそんなにことで怒ったりしないよ。とにかく、中に入ろう。今日何かイベントがあるかもしれないし、気をつけてな」玉巳は甘えるような声で返した。「うん。お腹の赤ちゃんは、ちゃんと私が守るから」その頃、葉はロビーでフルーツを食べていた。ここで出されるものはすべて山荘から提供されており、食べ放題だった。ちょうど振り返った時、悠良が外から入ってくるのが見えた。葉の瞳が一瞬で鋭くなり、すぐに手を振った。「悠良！」悠良も入ってくると彼女を探していて、葉を見つけるとすぐに向かってきた。葉は急いで駆け寄り、彼女の手をつかんだ。「何があったの！？今朝電話しても繋がらなくて、みんなでパニックになりかけてたんだから！どこに行ってたの？白川社長も何度も私に聞いてきて、会社の人たちもずっと待ってたんだから。最初は白川社長が一人であんたを待ってたのに、結局こっちで仕切らなきゃいけなくなって......」悠良の心が一瞬ぎゅっと締め付けられる。史弥が、あの人が、自分のために待ってくれていたなんて。事情を正直に話すと、葉は思わず声を上げそうになった。「ちょ、あんた......！そんな重度のアレルギー体質で、なんで猫なんかを......！」悠良は慌てて口元に指を当てて、静かにするようジェスチャーした。「ちょっと、そんな大きな声出さないで！静かに！」周りに聞かれたら、またいろいろ言われるに決まってる。「聖人ぶってる」とか、「頭おかしい」とか、「猫のために全員待たせるなんて」って。だから、余計なことは避けた方がいい。葉はようやく周りの視線に気づき、無意識に口をつぐんだ。
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