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第495話

Author: ちょうもも
社員が慌てて駆け込んできた。

莉子はもともと気分が悪く、副社長という肩書きを使って悠良に一矢報いるつもりでいた。

ところが、小雪の件を逆手に取られて、結局自分が窮地に立たされる羽目になり、せっかくの計画も台無しだ。

騒がしい社員の声に、苛立ちが募る。

「うるさい!大声を出して、会社をどこだと思ってんの?」

社員はようやく声を落とした。

「ふ、副社長......社内の数名の社員が、不祥事を起こしたとネットに報じられています。

副社長も確認された方が......」

莉子は眉をひそめ、慌ててスマホを取り出し画面をスクロールした。

だが数秒も経たないうちに、勢いよく椅子から立ち上がった。

「一体どういうこと!誰がリークした!」

社員は震えながら答える。

「わ、わかりません。ついさっき報じられたばかりで、詳しいことは......」

悠良は、その狼狽ぶりに首をかしげた。

莉子が社員のことを、ここまで気にかける人だったかしら?

その時、葉がそっと肘で合図し、スマホの画面を見せてきた。

悠良の目に飛び込んできたのは......

数人の社員が会社で不正会計を行い、賄賂を受け取り、さらには会社の金を横領していた記録。

給湯室のコーヒーでさえ勝手に持ち帰っていた。

それだけならまだしも、さらに致命的なのは......

その裏で糸を引いていたのが莉子だということ。

不正の一部は彼女の懐に流れ込み、銀行口座にもしっかり証拠が残っている。

言い逃れは到底できない。

悠良は冷笑を漏らした。

助けてもらう時は威張り散らして、いざ自分に火の粉が降りかかれば慌てふためいて責任逃れ。

どうせ、次はまた誰かに罪を押し付けるつもりなんでしょう。

その隙を突いて口を開く。

「副社長、特にお忙しくないなら、人事部にサインをお願いします」

だが莉子は、まだ自分が優位に立っていると信じていた。

「お姉ちゃん、私を買いかぶりすぎよ。私は副社長であって、会長じゃないの。

この件を私一人で決める権限なんてないわ」

悠良は急がない。

新しく整えたばかりのネイルを見つめながら、淡々と口を開いた。

「そう。じゃあ無理強いはしないわ......でも、副社長は覚えてる?

五年前、病室に薬を替えに来たあの男。今も見つけられていないのかしら」

莉子の顔色がみるみる蒼
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