Share

第448話 顔に笑みを浮かべて

Auteur: 栗田不甘(くりた ふかん)
ここで三井鈴はすぐに理解した。「お兄さん、つまり、すずに帝都グループに入ってもらいたいってこと?」

三井助はうなずきながら言った。

「そういうことだ」

三井鈴は「ああ」と言って、それ以上言葉を続けなかった。

会社にとって、すずのようにすでにデビューして人気も出てきているアーティストを引き抜くのは難しい。だって、アーティストが人気を得て初めてお金が動き始めるから。

でも今、すずは自分から帝都グループに来てくれるなんて……

「三井さん、私、歓迎されてないんですか?」すずは冗談っぽく言った。

「そんなことないよ。渥美さんが帝都グループに加入してくれるのは、うちの会社にとって光栄なことだよ」三井鈴は笑顔で答えた。

「それなら、これからよろしくお願いしますね!」すずは三井助の方をチラっと見て、女性特有の感情がそこに見え隠れしていた。

三井鈴はすぐに気づいた。

あれはただの口実だね。

三井鈴が何か言おうとしたその時、ポケットの中の携帯が鳴った。鈴の注意がそれに引き寄せられ、反射的に携帯を取り出した。画面に表示された番号を見た瞬間、明らかに落胆したような表情が浮かんだ。

数秒間沈黙した後、三井鈴はやっと電話を取った。

「鈴ちゃん、今会社にいるの?」

電話の向こうから田村幸の声が聞こえた。

三井鈴は少し驚いて言った。「田村さん、急にどうしたの?」

そう言いながら、三井鈴は無意識に顔を上げて、目の前にいる三井助とすずを見た。

「聞いたけど、芸能部を立ち上げたんだって? それなら、結構な数のタレントも抱えてるんじゃない? で、スポンサーが足りないんじゃない?」

三井鈴は冗談を交えて言った。「まさか、普段は潜ってるのに、うちの会社の状況にそんなに詳しいとは思わなかったよ?」

「ちょうどベラジュエリーが今年、スポンサーを考えていて、結菜からその話を聞いたんだ。電話だけじゃ伝えきれないから、会って話さないか?」

三井鈴は「ああ、そうなんだ」と言って、「私は会社にいるから、土田蓮に来てもらうようにするよ」と言った。

「いいや、そんなの大丈夫だ。大人だし、道くらい自分でわかる。車はガレージに停めて、そのまま上がるから」

電話を切った三井鈴は、三井助に目を向けた。「お兄さん、田村幸が後で来るよ」

三井助は顔色ひとつ変えず、淡々と「じゃあ、君たち話してお
Continuez à lire ce livre gratuitement
Scanner le code pour télécharger l'application
Chapitre verrouillé

Latest chapter

  • 離婚後、私は世界一の富豪の孫娘になった   第1111話 世間に晒される

    ホールの中では、田中陽大が満面の笑みを浮かべながら次々と客たちの祝辞と乾杯を受けていた。グラスを重ねるたびに、彼の顔には祝福の気配が濃くなっていく。賑やかな宴も最高潮に達したその時、「パチンッ」という音とともに、突然ホールの照明が一斉に落ちた。あたりからどよめきと驚きの声が上がる。「なんだ?どうして真っ暗に!」「いってぇ!踏んだの誰だよ!」「……」突然の出来事に、田中陽大の手が止まる。漆黒のホールに目を凝らしながら、ざわつく音の中で声を荒げた。「何をしている、早く原因を見てこい!」「はい、田中社長!」田中陽大は急いで場を取り繕うように声を張った。「皆さま、どうかご安心を。恐らく電気系統のトラブルかと思われます。すでに点検を手配しておりますので、すぐに復旧いたします」その声に来賓たちもその場に立ち止まり、動揺を抑えていた。だがその時、ホールの一角に設置されたスクリーンが静かに光を灯し始めた。不意に差し込んだ眩しい光に、思わず多くの人が反射的に手をかざして目を庇った。やがて目が慣れてくると、人混みの中から誰かが叫んだ。「な、なんだこれ?」「うわ!目に毒だってば!」すぐにまた別の誰かが叫び、場の視線が一斉にスクリーンに集中した。スクリーンには男女が絡み合う映像がはっきりと映し出されており、それを見た者は誰もが目を丸くし、場内のざわめきは一層激しくなった。「これって……あの人じゃないか?」「な、何してんの、このふたり?」「うわ、目が焼けるわ」「……」騒ぎは収まらず、あちこちで口々に囁き合いながら、皆、開いた口が塞がらない様子だった。田中陽大は状況を把握しきれずにいたが、スピーカーから突然流れてきた声を聞いた瞬間、身体が強張った。「葵、ずっと君がほしかったんだ……」田中陽大の身体がびくりと震え、手に持ったグラスもわずかに揺れた。この声、まさか……子安先生?彼はスクリーンに目を向けた瞬間、血圧が一気に上昇し、瞳孔が大きく見開かれた。スクリーンには、まるで熱烈に愛し合う恋人同士のように抱き合う田中葵と子安健の姿が、はっきりと映し出されていた。田中葵は子安健に弄ばれ、抑えきれずに小さく喘ぎながらも、どこか躊躇うように声を漏らしていた。「ダメ、今はダメ……」田中陽大は足元がふらつき、危うく倒れ

  • 離婚後、私は世界一の富豪の孫娘になった   第1110話 念には念を入れる

    田中葵が廊下の入り口まで来たところで、突然背後から何者かが飛び出し、その体を抱きしめた。「きゃっ……!」田中葵は思わず悲鳴を上げた。子安健が慌てて彼女の口をふさぎ、「俺だよ」と囁いた。聞き慣れた声に動きを止めた田中葵は、彼の手を振りほどいて睨みつけた。「何してるの、バカじゃないの!?」動揺が収まらず、胸を押さえながら周囲をそっと見回し、人目がないことを確認してようやく安堵した。「こんな人目のあるところで、誰かに見られたらどうするのよ」言葉には呆れと怒りが滲んでいた。子安健の視線が彼女に絡む。産後ケアを終えたばかりの田中葵は、柔らかさと色気を纏っていて、彼の中で何かが騒ぎ始めていた。彼は彼女の腕を掴むと、言葉もなくぐいと引き寄せ、隣の部屋へと押し込んだ。ドアを勢いよく閉めると、そのまま壁際に彼女を追い詰めた。「大丈夫だよ、今は誰も気づかないさ。皆ホールにいる」そう言いながら、子安健は彼女の顎をそっと持ち上げ、目と目が重なった。田中葵が妊娠してからというもの、ずっと田中家にいて、ふたりで過ごす時間はなかった。もう長いこと、まともに触れ合えていなかった。子安健の欲はとっくに限界を超えていた。ようやく得たこの機会を、彼が逃すはずもなかった。彼の瞳に熱を帯びた情が滲み、そっと彼女の背中へと手が滑り込む。触れた先からじわじわと火が灯る。「葵、君がずっとほしかったんだ……」田中葵はびくりと震え、思わず目を閉じた。部屋の空気が次第に熱を帯び、官能的な雰囲気が立ち込めていく。子安健はこういう時の手管に長けていた。たちまち田中葵は理性を溶かされ、腕を伸ばして彼の首に抱きついた。だが、すんでのところで、「ダメ、今はダメよ……」理性がかろうじて彼女を現実に引き戻した。田中葵は勢いよく彼を押し返し、乱れた服を整えながら大きく息を吐いた。「外には客がたくさんいるのよ。今ここで見つかったら、すべてが終わりよ」今や感情も衝動も極限に達し、もはや理性の言葉など耳に入らない。子安健は彼女を逃がす気など毛頭なかった。「今の田中陽大は娘が生まれた喜びに酔ってるよ。細かいことなんて気にするわけないだろ」だが田中葵はすっかり冷静さを取り戻していた。本能的に彼から身を引き、普段通りの口調で言った。「用心するに越したことはないの。しかも田中仁も来

  • 離婚後、私は世界一の富豪の孫娘になった   第1109話 贈り物

    思いを巡らせていたその時、玄関のほうからざわめきが起きた。三井鈴が田中仁の腕に手を絡めて現れた瞬間、その場の視線が一気に集中した。男も女も絵になる美しさで、まさにお似合いという言葉がぴったりのふたりだった。「田中会長、やっぱり仁さんは運のいいお方だ。三井家のお嬢さんと結ばれて、おふたりの仲もあんなに良くて、本当に羨ましい限りですな!」その言葉に、田中陽大の機嫌は一気によくなった。群衆の向こうにいる三井鈴と田中仁を見やり、先ほどまでの陰りもすっかり消え、満面の笑みで言った。「若いふたりが想い合っているのなら、我々年長者としては見守るだけですよ」「それはもちろんです。お相手が三井家のお嬢さんとあらば、まさに鬼に金棒ですな」田中陽大は上機嫌だった。やはり長男は、父としての自分にしっかりと面目を立ててくれたのだ。田中葵も我に返り、浮かべていた笑みが徐々に消えていった。そっと顔を向けると、その視線は三井鈴の姿に注がれていた。今日の三井鈴は、整った顔立ちに血色もよく、幸せそのものといった雰囲気をまとっていた。その様子に、田中葵の目がすっと冷たくなる。朱欒希美、あの女、まさか彼女を騙したのか!この間ずっと、三井鈴の様子をうかがっていたのに、何の音沙汰もなく、朱欒希美の姿さえも見えなくなった。田中葵の中ではすでに答えは出ていた。朱欒希美は自分を裏切ったに違いない。あの薬を三井鈴は飲んでいなかったのだ。三井鈴のお腹はもうかなり大きくなっている。三ヶ月を過ぎたら、もうどうにもできない。そんなことを考えているうちに、三井鈴と田中仁はすでに目の前に来ていた。「父さん、葵さん」田中仁の声が、田中葵の思考を遮った。彼女はすぐに表情を整え、にっこりと微笑んで言った。「来てくれてありがとうね」田中陽大も満足そうに頷いた。「仁、鈴ちゃん、来てくれて嬉しいよ」「父さんに娘さんが生まれたと聞いて、当然お祝いに来ないわけにはいきません」田中仁は穏やかな声でそう言いながら、田中葵にひとつのギフトボックスを手渡した。「これは葵さんと赤ちゃんへの贈り物」田中仁からの贈り物?田中葵の中で、ふと好奇心が湧いた。こんなに洒落た箱の中身は、一体何なのか。とはいえ、この場で中を開けるのは礼儀に反する。彼女は丁寧に受け取り、「気を遣ってくれてありがとう

  • 離婚後、私は世界一の富豪の孫娘になった   第1108話 子供の母親

    そう聞かれて、田中葵も期待に満ちた目で田中陽大を見つめた。こんな人目のある場でなら、きっと彼が堂々と自分を皆に紹介してくれるに違いないと信じていた。これでついに、自分は正真正銘の田中夫人になれる。そう思った。「陽大、何か言ってよ?」田中葵が待ちきれずに口を開くと、周囲の視線が一斉に集まった。ここにいるほとんどの者が、田中陽大がかつての愛人を本当に本妻にするつもりかどうか、固唾をのんで見守っていた。田中陽大は微笑みながら、隠すことなくさらりと紹介した。「原野さん、こちらは娘の母親です」娘の母親、その一言に、田中葵はその場で固まった。手にしていたワイングラスが思わず揺れ、中の酒がこぼれそうになる。堪えてきた悔しさが一気に込み上げ、グラスを握る手の甲には力が入り、白く浮かび上がる筋が見えていた。原野社長もすぐに察し、笑ってそれ以上は聞かずに言った。「おめでとうございます!田中会長、相変わらず福に恵まれてますなあ!」田中陽大は丁寧に微笑み、田中葵の肩を軽く抱き寄せて和らげるように言った。「いえいえ、こちらこそ今後ともよろしく。いずれ葵との結婚式の際は、ぜひご出席くださいね」その言葉に、田中葵の目はぱっと輝き、顔を上げた彼女の頬は興奮と喜びで紅潮した。「陽大!」田中陽大は彼女をより強く抱き寄せた。言葉はなかったが、その態度がすべてを物語っていた。周囲の招待客たちも、かつての軽蔑や侮蔑のまなざしを捨て、今はどこか羨望の色を滲ませながら彼女を見ていた。田中陽大の妻という肩書きは、つまり莫大な財産と地位の象徴なのだから。田中葵は心の底から喜びに満たされ、まるで自分がこの場の主役であるかのような視線を一身に浴びるこの瞬間に、酔いしれていた。この日を、彼女はずっと待ち望んできたのだ!「田中会長、おめでとうございます」子安健も祝いの言葉を述べながら近づいてきた。その姿が見えた途端、田中葵は無意識に肩を震わせた。その華やかだった表情は次第に色を失い、やや緊張した面持ちでそっと目を上げる。子安健の視線がちょうど彼女に向けられ、ふと目が合った瞬間、ビリッと電流が走ったかのように、田中葵は慌てて目を逸らした。子安健に対して、田中陽大は感謝の気持ちを隠さなかった。「子安先生、この間は本当にお世話になった。お前のおかげで、母子ともに

  • 離婚後、私は世界一の富豪の孫娘になった   第1107話 百日祝い

    田中家のこのお披露目会は、まさに気合いの入った一席だった。招待された客人はというと、フランスの財界の大物や、長年親交の深い名家の面々がずらりと名を連ねていた。田中家の年長者たちもそれぞれ自ら招待状を送っており、田中陽大がこの娘をいかに溺愛し、重んじているかが手に取るように分かる。あらゆる人脈を総動員して、彼女を世間に紹介しようとしていた。満月の祝い当日、会場はまるで祝祭のような賑わいを見せていた。田中葵は産後の静養を終えたばかりでふっくらしていたが、その姿にはむしろ艶やかな色気が漂っていた。彼女が宴会場に姿を現すやいなや、いつも親しくしている名家の夫人たちが次々に駆け寄り、あたりはすぐに賛辞の声で溢れた。「葵さん、ほんと運がいいわよね。長いこと耐えてきた甲斐があったじゃない」「ほら、田中会長がどれだけあなたを大事にしてるか一目瞭然よ!」「この調子なら、そのうちまた嬉しい報せが聞けるんじゃないかしら」「……」田中葵はその言葉に眉を少し上げ、思わず唇の端を綻ばせた。「絢音は陽大にとって初めての娘よ。当然ながら目に入れても痛くないほど可愛がってるわ。それにね、彼も言ってたの、私たち母娘を決して蔑ろにはしないって」その場にいた夫人たちは一斉に声を上げた。「それは当然よね。これからは田中夫人って呼ばなきゃ!」田中葵は微笑みながらもその言葉を否定せず、むしろどこか満足げに顎を少し持ち上げた。人混みの中で晴れやかな顔を見せる田中陽大を見つめながら、彼女は心の中で静かに呟いた。田中夫人、この呼び名は、彼女にこそふさわしい。「まあまあ皆さん、ご冗談を。今日はわざわざお越しいただいたんですから、うちはもう田中家の客人ですわ。どうぞご遠慮なく、楽しんでいってくださいね」「また改めて、私の方でお食事会でも開きますから、そのときはゆっくりお話しましょうね」一通り挨拶を済ませると、田中葵はゆったりとした足取りで田中陽大のもとへと向かった。今日の田中陽大は黒のスーツに身を包み、見事なまでに隙のない身なりをしていた。歳月は彼の顔に一切の皺すら残しておらず、むしろ重ねた年月が彼に深みと魅力を与えていた。祝いの席ということもあり、全身から精気が漲っていた。このとき彼は宴会場で賓客たちと談笑しながら、和やかなひとときを過ごしていた。「田中会

  • 離婚後、私は世界一の富豪の孫娘になった   第1106話 招待状が届いた

    安野友希は唇をぎゅっと結び、そしてついに心にある本音を口にした。「田中陸は法を無視して好き勝手に振る舞い、人の命を奪った。田中家がそれに加担するなら、世間から袋叩きに遭い、地獄に落ちることになるわ」向かいに座る田中仁は、脚を組んでソファに腰かけていた。遠目に見るその姿は、俗世を離れたような気品すら漂わせていた。彼はその言葉にも微動だにせず、静かに返した。「田中家は常に法を守ってきました。その姿勢はこれからも変わりません。安野さん、その点はご心配なく」そう言って、テーブルに置かれた黒いUSBメモリを指さした。「ここに、あなたの娘さんが残したものがあります」安野友希はテーブルを見つめ、信じられないという表情でかすれた声を漏らした。「いま……なんとおっしゃいました?」安野怜が亡くなったときはあまりに突然で、最期に顔を見ることも、言葉を交わすこともできなかった。「怜、あの子は、何を?」安野友希は口を押さえ、声を上げそうになるのをこらえた。田中仁は立ち上がり、やさしく声をかけた。「安野さん、亡くなった人は戻ってきません。どうか、気を強くお持ちください!」それだけ言うと、彼はゆっくりと部屋を後にし、安野友希に静かな時間を残した。しばらくして、個室の中から抑えきれない嗚咽が響いてきた。田中仁は窓辺に立ち、遠くを見つめながらその泣き声に耳を傾けていた。その胸中は、いつまでも静まることがなかった。……どれだけ仕事が忙しくても、田中仁は毎晩きちんと帰宅し、三井鈴の隣で眠った。彼の腕はいつも彼女の枕となり、その温もりが彼女に何よりの安心を与えていた。このところ、三井鈴のつわりはかなりひどかったが、家の使用人たちが工夫を凝らして妊婦向けの食事を作ってくれたおかげで、少しずつ落ち着いてきていた。そんなある朝、田中仁が三井鈴と一緒に朝食をとっていると、三井陽翔が金色の招待状を手にして部屋へ入ってきた。三井鈴は不思議そうに尋ねた。「兄さん、それ何?」三井陽翔は答えず、田中仁に視線を向けて口を開いた。「田中家に女の子が生まれて、田中様が大喜びだよ。満月の祝いの招待状が三井家にも届いた」三井陽翔の口調は普段と変わらなかったが、どこか皮肉が混じっていた。「この感じだと、相当派手にやるつもりらしい。あの母娘、田中様にずいぶん気に入られてるん

Plus de chapitres
Découvrez et lisez de bons romans gratuitement
Accédez gratuitement à un grand nombre de bons romans sur GoodNovel. Téléchargez les livres que vous aimez et lisez où et quand vous voulez.
Lisez des livres gratuitement sur l'APP
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status