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第47話 三十八億のネックレス

Author: 栗田不甘(くりた ふかん)
夜、鈴は真理子と高級ブランド店へ向かい、予約していた品を受け取ることにした。

店内へ入ると、スタッフは鈴だと知るや否や、すぐに専属のカスタマーマネージャーを呼び出した。

マネージャーは満面の笑みで迎えた。

「三井様、少々お待ちください。ご予約されたジュエリーは非常に高額な品のため、まだ金庫に保管しております。すぐにご用意いたしますので、その間に他の商品もご覧になりませんか?」

鈴は軽く頷いた。

「大丈夫です、自分たちで見て回るので」

二人は店内を一周したが、特に目を引くものはなかった。

真理子は、少し退屈そうに言った。

「鈴ちゃん、一階の服って微妙ね。残り物ばっかりじゃない?二階を見に行きましょ」

そう言って、彼女は鈴の手を引いて二階へ向かおうとした。

しかし、マネージャーは、少し困ったような顔をした。

「大変申し訳ございません。二階は現在、数名のご婦人方により貸切となっております。 そのため、一般のお客様はご案内できかねます」

鈴は、マネージャーに向かって微笑んだ。

「大丈夫です。じゃあ、ジュエリーだけ受け取って帰ります」

マネージャーは、心からの感謝を込めて頭を下げた。こんなにも理解のある富裕層の顧客は、滅多にいない。

鈴と真理子は、ソファに腰を下ろし、スマホでゲームをしながら待つことにした。しかし、吹き抜けの天井を通じて、二人の会話が二階にいた由香里の耳に入ってきた。

由香里は、ガラス越しに下のフロアを見下ろし、そこに鈴の姿を認めた。彼女の顔色が、一瞬で変わった。

隣にいた社交界の貴婦人たちは、口元を手で覆いながら、含み笑いを漏らし、すかさず嫌味を飛ばした。「安田夫人のご家庭って、お嫁さんに厳しいことで有名らしいわね?それって、本当なの?」

「お嬢さんの遥さん、警察に連れて行かれたって聞いたけど、もう釈放されたの?」

社交界とは、所詮「強者に媚び、弱者を叩く」世界だ。由香里が今、安田グループのスキャンダルで「弱者」の立場に立たされている以上、彼女たちは容赦なく痛いところを突いてきた。

由香里は、顔を引きつらせながら、手に持ったグラスをぎゅっと握りしめた。

「そんなこと、あるわけないじゃない。安田グループはすでに公式声明を発表してるわ。ネットの噂なんて、すべて事実無根よ。遥ちゃんは、ただ警察の調査に協力しただけ。今は、海
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