第208話

大翔は少し考えた。

「では、次郎様が今日、風歌様が前当主様を殺したと言っていた件は……あなたは、信じたのですか？」

俊永の眼差しが、わずかに細められた。

黒い瞳に、危険な光が一瞬よぎった。

「信じてもいるし、信じてもいない。次郎のあの古狐は、俺と風歌を争わせて、漁夫の利を得たいだけだ。だが、風歌の素性が簡単でないことも確かだ。だから、すべて調べる必要がある」

「しかし……」

大翔は少し黙ってから、言った。

「もし風歌様が、このすべてを計画的に行っているとしたら、彼女が名家の令嬢である可能性は低いように思います。もしかすると、どこかの組織がボスの行方を突き止め、送り込んできた密偵……という可能性はありませんか？彼女の能力からすれば、恐らく、特殊訓練を受けたエージェントでしょう。潜伏能力が非常に高い」

もし本当にスパイなら、その素性を調べるのは、難しくなる……

俊永はわずかに沈思した。

「だからこそ、両方の準備は必要だ。もし彼女が令嬢なら、おそらくすべては偶然で、俺が疑いすぎただけだ。今夜、機会を見つけて彼女を探ってみる。それと、お前に刑務所である二人に会ってきてもらう……」

大翔は聞き終えると、恭しくうなずいた。

「はっ、ボス」

「うん、行け」

「ボス……」

時間はもうあまりない。

俊永が踵を返して立ち去ろうとした時、大翔が呼び止め、その表情は少し躊躇していた。

「言え」

「あなたは以前、風歌様が、何年も前にあなたを救ってくれた少女ではないかと疑っていませんでしたか？」

俊永は黒い瞳を細め、その口調は冷たかった。

「だが、彼女は否定した。おそらく、本当に彼女ではないのだろう。俺が人違いをしただけだ。とにかく、すべては彼女の素性と過去をはっきりさせてから、結論を下すしかない」

以前、朝日の柚希に対する態度がどこかおかしいと気づいてから、俊永は表向きは朝日に調査させつつ、裏では哲にも調査させていた。

その結果、柚希が当日、確かに松葉通りに行っていたが、それは俊永が少女に救われた後の時間帯だったことが分かった。

柚希は、命の恩という嘘で十数年も俊永を騙し、俊永の男としての責任感を利用して、好き放題に問題を起こしてくれた。

本来なら、俊永も彼女にこの借りを返させるつもりだった。

しかし、彼女がすでに風歌によって牢獄に送られた以