Masuk夫に裏切られ、冤罪で刑務所へ送られた。それが桜庭凜華のすべてを奪った結婚生活の結末だった。 天才外科医として名を馳せていた彼女は、夫・直哉の証言により有罪判決を下され、地位も名誉も、人生そのものを一瞬で失う。 絶望の獄中で、誰にも知られぬまま娘の日葵を出産。 出所した瞬間、彼女は決断する。すべてを捨てると。 「もう二度とあの男には関わらない」 しかし運命は彼女を許さなかった。 「やっと見つけた」 後悔に狂った夫が、再び彼女の前に現れる。 かつて兄のように慕っていた幼なじみまでもが、愛という名の執着で彼女を縛り始める。 逃げたい女と手放せない男たち。 壊れた真実の果てで、再び交わる運命は――救いか、それとも地獄か。
Lihat lebih banyak「……。私にもう二度と関わらないで。直哉にはもう未練も何もない。前にも言ったけど、結婚でもなんでもすれば良いじゃない?」 圧倒的劣勢に陥っている凜華だったが、唯衣が望んでいるものは凜華には不要なものだ。 桜庭直哉という夫は、凜華にとってはすでに必要のない存在。(この間、直哉は何も言ってこなかった。私と離婚して唯衣と結婚するなら、嫌味の一つでも言ってきそうなのに)(直哉は唯衣の行動を把握していないみたいだったから。今日の唯衣の行動も、勝手に一人で私のところへ押しかけてきたのね) 冷静に分析しようとするものの、唯衣がただの言葉だけの暴力で終わるのか、凜華の背中には冷や汗が流れる。「わかっているわ。でも、あなたの存在自体が邪魔なのよ。直哉さんの視界に入らないように」「あと、前々から気になっていたんだけど。その子ども、あなたにとってどんな存在なの?」 くいっと顎でさした方向には、日葵が泣いている。 先ほどの物音に怯えたようで、大声で泣き叫んでいた。「関係ないわ。早くここから出て行って。警察に通報するわよ」 社員寮のドアを壊されたのだ。これは通報しても良い事案。日葵は泣き続け、この異様な光景を見ている人物がいるかもしれない。すでに多くの社員が帰宅をしている時間。 ドアが壊れているのだ。通報されてもおかしくはない。「通報されたとしても、結局、みんな金を積めばなんとかなるのよ。それが警察であってもね」 通報という言葉に使用人が反応した。「お嬢様……」 小声で呟いている。「びびってるんじゃないわよ。私を誰だと思っているの!?」 使用人を一喝したかと思えば「明日からまた楽しい日になると思うわ。毎日の落書き、消すのも楽しかったでしょう?良い運動になったわよね」 ふふふっと唯衣は甲高く笑う。「やっぱり、あなたの仕業だったのね!」 あの日々を思い出した凜華は、一瞬理性を失い、唯衣の胸元を掴もうと近寄った。「お嬢様に近づくな」 使用人の一人が唯衣の前に立ちふさがり、簡単に凜華を突き飛ばす。「っ……」 男性の力には敵わない凜華は、簡単にそのショックで転んでしまった。「バカな女ね。今度私に手を出そうとしたら、大切にしている子どもがどうなっても知らないから。あなた自身のことも考えた方が良いわよ。あなたが急にいなくなっても、誰も心配なんてしない
「解雇……?」 あまりにも急な解雇宣告に、凜華は言葉を失う。 欠勤が理由ならまだ良い。 桜庭直哉をそそのかした女というレッテルを貼られたことが納得できなかった。「私はそんなことしてません!」 反発した凜華だったが「前々からお前に対するクレームも多かったからな。ちょうどよい。今日で解雇だ。社員寮も三日以内に出て行けよ」「待ってください!」「話は終わりだ。すぐ出て行け。じゃないと不審者がいると警察に通報するぞ」 クルリとうしろを向き、何事もなかったかのようにマネージャーはパソコンに向き合っている。(どうしよう。三日以内に出て行けですって。こんなのおかしい) 一方的に解雇宣告をされ、自分の話をまともに聞いてもくれない。 しかも解雇の直接的な理由が夫である、桜庭直哉が原因だ。 悔しくて腹立たしくて、凜華は目頭が熱くなる。(こんなことをしていても、時間は待ってくれない。次の就職先を見つけないと) 社員寮付きで子ども連れを受け入れてくれるような職場が見つかるか不安だったが、動かずにはいられない。(日葵のために、乗り越えなきゃ) 社員寮に帰り、日葵の夕飯の支度をしている時だった。<ドンドンドン> 玄関ドアが勢いよくノックされた。 誰? のぞき穴から相手を確認すると――。「ここにいるのはわかっているわ。出てきなさい!」 玄関前には、唯衣が立っていた。(どうしてここに唯衣が!?いや、唯衣は私の家がここだって知っているんだから、驚くことではないけど)(ここでドアを開けたら、日葵に何かされるかもしれない。危険だわ) 電気もついている。相手には部屋の中にいることが知られているかもしれないが、ドアを開けたら何をされるか、凜華は不安でならない。 一歩、室内へ戻った時だった。<ガタン> 大きな音が鳴り、玄関ドアが壊された。 目の前には、唯衣の使用人と思われる男三人がバールを持って立っている。(まさか、ここまでしなくても……) 唯衣の凶行に立ちすくむしかない凜華を見て「アハハッ。なんて顔をしているの?マヌケな顔ね」 唯衣だけが腹を抱えて笑っていた。 使用人たちの顔色は悪い。 それはそうだ。建物を壊して強引に侵入する行為など、尋常ではない。「私から逃げようとしても無駄よ」 コツっと高いヒールの音をさせ、一歩唯衣は凜華のアパ
「今夜は何もなかったな。唯衣からアクションがあれば、俺に報告するんだ」 あれから直哉は言葉通り、凜華の病室で一夜を過ごした。 涼真と琥珀が凜華の様子を気にしての訪問があったが、結局は<自分は夫だ。裁判で闘っても良い>という言葉にうまく対抗することができず、凜華も「大丈夫よ」という気丈な態度を見せたため、お互いに言い争うこともなかった。 刑務所の時と同じくらい酷い一夜を過ごすことを覚悟した凜華だったが、ただ直哉は「見守る」姿勢を貫き、唯衣からのアクションもないため、直哉は目の下を若干黒くして帰って行く。「直哉も唯衣にも居場所がバレた。どこにいても同じ。元気になったんだから、働かないと……」 何度も<心配しないで、大丈夫だから>という凜華の言葉に、涼真も琥珀も退院について強引に引き留めることはできなかった。 看護師たちの間で悪い噂が広がっているのも、彼らだけでは止められない。「何かあったらすぐに連絡してください」 琥珀が心配だからと久しぶりの自宅まで送ってくれたが、あの悪魔のような毎日が嘘のようだった。 落書きはされていない。ポストも古びたままの姿で、異物を入れられてはいない。「何も変わった様子はないわ」「そうですね。見た感じ、大丈夫そうです」 琥珀も部屋の中まで入り、確認をしたが、以前と特に変化はない。「私がいないっていうのがわかっているから。毎日あった嫌がらせも止まったんでしょうね」(唯衣は私を監視している。私が部屋に帰ったとわかれば、また仕掛けてくるかもだけど……)「犯人はほぼ灰原唯衣だということが確定しています。金で情報操作をしている証拠さえつかめれば勝てます」 琥珀は凜華の背中を優しく叩く。「俺がいるから。本当に何でも相談してください」「ありがとう」 ここで琥珀のことを阻めば、余計に心配されると思った凜華は素直に気持ちを受け取る。 次の日――。 長期間休んだ謝罪をするために、上司がいるはずのスタッフルームへと向かう。 凜華が入室すると、座っていた数人の社員がぎろっと彼女を汚い物を見るような眼をして鋭い視線を向けた。「長いお休みをいただき、大変申し訳ございませんでした」 凜華は頭を下げる。「人事のマネージャーは今不在だ。出ていけ」 手払いをされ、早くここから出て行けと冷たい言葉を投げられた。(これだけ休んでし
「あなた、自分が何を言っているかわかっているの!?」(直哉がここに泊まる!?ありえない!)「そんなことしてもらわなくても結構です」(だいたいあなたがここに来ているのだって、看護師たちの注目の的なんだから)「権利はあるはずだ。宗像に直接申告してもいいが……?」 直哉は上着をイスにかけ、まるで長居することを意識しているかのように足を組み、力の抜けている態勢をとった。 続けて使用人を呼びつけ<俺はここに泊まる>と指示を出し、必要なものと涼真へ直接話を通すように告げている。(うそよ……) 目の前にいる男は、夫だ。しかしこの男と二人きりになるのが精神的負担になる凜華の顔色はだんだんと青白くなっていった。 凜華の様子など全く気にしていない直哉は、長々と一方的に使用人へ指示を出し続けている。 使用人はいつも通り、ただ直哉の指示に頷くだけ。ノーと言えば、何をされるかわからないことを知っているからだ。「では、行って参ります」 深くお辞儀をし、直哉から言いつけられた任務をこなすため、使用人は病室から出て行く。「私、あなたと一緒にいるくらいならここから出る……」「許されないと言っただろう。勤務先に圧力をかけて良いのか?」 とても冷たい目。妻の心身を心配しているようには見えない。「理解できないほど、お前はバカではないはずだ」 直哉の近くにいた凜華だからこそ知っている。彼は<やる>と言ったら、本当に実行する。たとえそれが無情なことだとしても、相手にどう思われようが、自分の意思を貫く。「っ……」 病院から出ようとしていた凜華は諦め、ベッドへと座る。(この人は忙しい。一夜よ。一夜だけ我慢をすれば、満足してどこかに行ってくれるはず) おとなしくベッド上で過ごすことにした彼女だったが、気持ちが休まることはない。 直哉も何かを話すわけではないし、チラッと様子を見ると、スマホを見ている。「ねえ。何を……」「付き添うと言っただろう。ただ見守っているだけだ。何もしない」「はっ?」(見守る?直哉が?) 直哉の口からの聞きなれない言葉は、より一層凜華の心を不安にさせた。 ベッドに横になった彼女は、一粒の涙を流す。(脅してみたり、かといって見守るだけとか。全く理解できない。でも、私はこの人の発言のせいで冤罪にされた。どうしてこんな人と出会ってしまったんだろ
Ulasan-ulasan