LOGIN夫に裏切られ、冤罪で刑務所へ送られた。それが桜庭凜華のすべてを奪った結婚生活の結末だった。 天才外科医として名を馳せていた彼女は、夫・直哉の証言により有罪判決を下され、地位も名誉も、人生そのものを一瞬で失う。 絶望の獄中で、誰にも知られぬまま娘の日葵を出産。 出所した瞬間、彼女は決断する。すべてを捨てると。 「もう二度とあの男には関わらない」 しかし運命は彼女を許さなかった。 「やっと見つけた」 後悔に狂った夫が、再び彼女の前に現れる。 かつて兄のように慕っていた幼なじみまでもが、愛という名の執着で彼女を縛り始める。 逃げたい女と手放せない男たち。 壊れた真実の果てで、再び交わる運命は――救いか、それとも地獄か。
View More直哉の言葉を聞き、皆、絶句している。「離婚したい夫に頼れるわけないじゃない。唯衣と……。妹と結婚したいんじゃないの?」(どういう風の吹き回し?この人は狂っている) 凜華は夫である直哉に隙を見せたくはない。 あくまで自分はもう直哉とやり直すつもりはないのだ。穏便に離婚できるとは考えてはいないが、これ以上、関わりたくない。 自分を離してくれるのであれば、妹である唯衣とくっついてほしいと心から思っている。「誰がそんなことを言った? 俺が一言でも唯衣と結婚したいとお前に伝えたことがあるか?」 ふぅと鼻で息をし、呆れてものが言えない、そんな態度を直哉は見せた。「それは……」 言い返そうとした凜華だったが、直哉からは言われてはいなかった。 しかし唯衣にしか見せない顔、腕を組んでいた姿、出所後、ショッピングモールで遭遇した時の二人の様子、仲睦まじい姿を何度も近くで見ている。「私はこの目で見ている。あなたと唯衣が楽しそうに歩く姿を……」(負けない。負けたくはない。私と日葵の生活をこれ以上邪魔してほしくない)「そんな話、誰が信じると思っているんだ?」 直哉は鼻で笑った。自分の方が優勢だと思っているんだろう。「俺は信じています」 話に割って入ったのは、琥珀だった。「いや、俺も見ている。凜華さんの妹である唯衣さんと仲が良いのは知っています。あの様子じゃ、交際しているんじゃないかと他人が勘違いしてもおかしくはないです」 涼真も琥珀に続く。「そもそも……」 ふぅと息を琥珀は吐いた。「あなたは凜華さんと出所後、会っているんです。自分の妻なのに気がつかないって、有り得ないと思うんですが」「凜華さんは、出所後、顔に傷があります。それにかなり痩せてしまいました。だからって、あんな距離で話をしているのに、気づかないってことは、それほどあなたは凜華さんのことを理解していないんですよ」(琥珀くんは、ショッピングモールで私が唯衣と直哉と会った時のことを言っているのね) 直哉の鋭い矢のような視線が、凜華ではなく琥珀に向けられる。「何を言っているのかわからないのですが。俺と凜華が出所後すぐに会っている? 冗談でしょう?」 出所後、直哉は凜華を刑務所まで迎えに行っていた。しかしそのあと彼女の行方をしばらく掴めなかった。遭遇しているなんて、考えられない。「あな
「まだ自分のことを夫だと思っているの? よくそんなことが言えるわね」 凜華の手は怒りと動揺から震えている。「離婚はしていないだろう。お前こそ、何を言っているんだ」 直哉は首を傾げた。「お前は、俺の妻だろう。俺の指示に従わないから、こうやって体調を崩したんじゃないのか?」(あなたは私をモノだと思っている。それは変わっていないのね)「あなたはそうやっていつも自分の力ばかりを押し付けてきた。それでも、収監される前は尊敬できるところがあったから、一緒にいたのに。私のことを妻だと思っているのなら、どうして信じてくれなかったの?」「あなたは私を一切庇おうともせず、罪を立証するような発言ばかりだった。覚えているわ」 凜華の言葉は止まらない。「夫だったら、妻を信じてくれるのが普通でしょう? なのにあなたはっ!」「落ち着け」 大きな声を出した凜華を涼真は静止する。「体調がまだ万全じゃないんだ。急に身体へ負荷をかけるな」 そんな声をかける涼真も、自分が凜華を冤罪へと追い込んだ人物であり、どのようなかたちで二人の間に入ればいいのか、距離が図れていない。 涼真の様子を見て、直哉はフッと笑う。(涼真を見て、あの直哉が笑った?)「宗像先生。あなたそうやって彼女のことを擁護できる立場なんですか? あなたの発言があって、彼女は捕まったんですよ」「それは……」(くそ。ここで凜華の冤罪をこいつに話してしまうと厄介なことになるな。どうするか)「桜庭さん。それで今日はどうして面会に? 凜華さんに何の用事ですか? 凜華さんは、あなたと離婚をしたがっている。離婚届を提示されていますよね?」 口を割って入ったのは、後ろに座っていた琥珀だった。 琥珀は凜華から直哉へ向けての離婚届を預かり、直哉へ渡している。 凜華から唯一、事情を相談された人物だ。「……。仁王さんですね? その節はお騒がせしました」 口を出した琥珀にぎろっと鋭い眼光を直哉は向けた。(桜庭直哉。俺のことも調査済みってことか。あの時、初めて会った時は、明らかに俺のことを軽視していた。だが、今は仁王財閥であることを理解しているような態度だな)「俺は自分の妻を迎えに来ただけです。今の彼女では、入院費用なんて支払えませんよね。保護する役割にあるのは、夫の務めでしょう?」「直哉……。あなた、本当に正気?
「お世話になっております。宗像先生、お久しぶりです。妻が起こしてしまった事件の際は、いろいろとお世話になりました」 直哉は立ち上がり、まず涼真へ声をかけた。(今、直哉ははっきりと妻と言ったわ。まだ私のことを妻だと本当に思っているの?) 凜華は自分のことを妻だと言われたことに戸惑いを感じている。(私のことを恨んでいるはずなのに) そんな凜華をよそに、直哉と涼真はしっかりと向き合って視線を合わせていた。(この男、感情が入っていない話し方をするな。妻という部分を強調した気がするが。聞き間違いか?) 涼真も直哉の様子を探っている。 直哉が話した内容は至って普通の挨拶だが、声はとても低く、愛想のカケラもない。「お久しぶりです。どうぞ、おかけください」 涼真は返答し、直哉にソファへ座るように促した。 凜華は二人のやり取りを近くで見ながら、緊張からか、身体が硬くなっていった。 空気がとても重く感じる。(二人とも普通に話しているように見えるけれど、敵意がむき出しだわ) ライバルである二人、お互いに隙を見せない。(直哉は私のことを視界に一度入れたけれど、見ようともしない。何がしたいの? 私に面会へ来たんじゃなかったの?) 涼真と凜華は直哉と迎え合わせに座り、そのうしろのイスに琥珀は日葵を抱きかかえながら座った。 その場にいる全員が座り、何秒経っただろう。 凜華にはとても長い時間のように感じた。(私から話をしなきゃ。みんなを巻き込んでいるのは、私なんだから) 凜華はすっと息を吸い「何の用事? 私に面会なんて。どうしてここに入院しているってわかったの?」 直哉へ声をかけた。「何の用事とは……?お前は、どれほど俺に恥をかかせるつもりなんだ」 直哉の言い放った言葉と目つきは、凜華のことを蔑んでいるように見える。「自分の妻が入院しているのに、面会に来ない夫なんているわけがないだろう?」「はっ……?」 彼女は直哉の真意が理解できずにいる。(自分の妻……? 夫……? 何を言っているの? あなたは私を捨てたんじゃなかったの?) 混乱しているのは凜華だけではない。(この男、何を言っているんだ。凜華を信じもせず、擁護もしなかった。それに出所後も凜華と向き合おうともしなかったじゃないか。唯衣と結婚を考えているんじゃないのか?)(凜華さんを大切
「えっ……」「はっ……?」「まさか……」 事務職員の言葉に三人が同時に息を飲んだ。「どうしてあいつが凜華の入院先を知っているんだ。独自で調べたな」 涼真はチッと舌打ちをする。「直哉がここに来ているの……?」 凜華は驚きを隠せない。直哉が面会を求めてきた理由がわからなかった。(ついに、離婚してくれる気になったのかしら。それならいいんだけど)「凜華さん、どうしますか? もし面会するのであれば、俺も付き添います」「いや、俺たちの間違いだろう。誰の病院に入院させたと思っているんだ。もちろん、俺も同席する」 男たちは譲れない。あの桜庭直哉が相手でも彼らは怯まなかった。「直哉と会うわ。目的を聞きたいから」 あの非情な声、冷たい目つき、信じてほしいと懇願した時、強引に突き放された瞬間のことを凜華はもう一度思い出す。(直哉のことを怖くなくなったと言えば、嘘になる。だけど私のとなりには大切な日葵がいる)(それに、今は信頼できる琥珀くんも近くにいるし、涼真のことは信用してはいないけど、ライバルである涼真がいることで、直哉だって変なことはできないはず)「桜庭直哉をVIP対応時の面会室へ呼べ。俺たちも向かう」「承知いたしました」 涼真が指示を出すと、事務職員は、ささっと医事課へ足早に向かった。「凜華さん、無理しないように。歩けそうですか? 車イスとか用意しますか?」 琥珀がベッドから立ち上がろうとする凜華を気にして、手を差し出す。「大丈夫そう。ありがとう。琥珀くん、日葵だけ抱っこお願いしても良い?」「はい。大丈夫です」 凜華は自分の足でしっかりと立ち上がった。 背筋は伸び、まるで何かと戦いに行くような緊張感が彼女の周りに広がっている。 涼真はそんな彼女の姿を一瞬見つめ、すぐに目線を落とした。(医師免許が停止されたのは俺のせいだ。仁王にはそんなにも心を開いているんだな。昔、俺に懐いてくれていたように) 涼真のことを兄のように慕っていた凜華の姿は今はもうない。(俺はどうしたら凜華に近づけるのだろう) 珍しく、涼真の心は弱気になっている。(桜庭直哉には、凜華は渡さないがな) 涼真や琥珀にとっても、桜庭直哉との面会は、一種の戦闘に行くようなものだった。 三人はそれぞれの気持ちを抱えながら、面会室へ歩き出す。 凜華のペースに合
reviews