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第12話

Author: さかなちゃん
朔真は父の腕に噛みつき、必死に放さなかった。

三人の子供たちには理解できなかった。ながパパ突然、都子を殺そうとするのか。

けれど彼女は母親であり、幼いころから「ママは君たちを一番愛している」と言い続けてきた人だ。

三人は涙目で彼女を庇うように立ちはだかり、声を震わせて訴えた。

「パパ、都子おばさんを放して」

「このままだと死んじゃうよ!」

「僕たち、もうひとりのママを失ったんだ。これ以上は嫌だ」

子供たちの必死の叫びに、元治の理性が少しずつ戻っていく。

恐怖と懇願が入り混じった三つの顔を見つめ、彼の表情は複雑に歪んだ。

「こんな女に、ママの資格なんてない。

覚えておけ。君たちのママは奈月ただひとりだ」

死の淵から逃れた都子は、必死に息を吸い込みながら、恐怖と同時に悔しさを隠しきれず元治を睨んだ。

もうすぐ手に入るはずだったのに。婚姻届さえ出せば、奈月が二度と戻らない。

なぜ今になってすべて崩れるのか。

彼女は視線を移すと、三人の子供が目に映った。

そうだ、まだ切り札がある。

元治は地に転がる都子を指差し、使用人たちに怒鳴った。「この女を叩き出せ!二度と屋敷に入れたら、即刻クビだ」

「承知しました、旦那様」

すぐに使用人たちが都子の両腕を取った。

「嫌!行かない」

都子は必死に振りほどき、転がるように元治の足元へすがりついた。

「元治、騙すつもりなんてなかったの。ただあなたを愛しすぎて、愚かなことをしてしまっただけ!

他には何も求めない。ただ、奈月さんが戻ってくるまで、ただ子供たち三人の世話をさせてほしい。彼らにはたくさんの借りがある。償いの機会をください」

都子は涙で顔をぐしゃぐしゃにし、声を張り上げる。その姿に、子供たちは彼女が以前くれた贈り物の数々を思い出し、心が揺らぐ。

三人は同時に父を見上げた。「パパ」

元治は拳を握りしめ、目を閉じた。長い沈黙のあと、淡々と告げる。

「今回だけだ。

都子、その汚らわしい考えはしまえ。次に何か仕掛けたら、生き地獄を味わわせる」

彼は深く息を吸い、怒りを押し殺すと背を向け、歩み去る。

遠ざかる背中を見つめながら、都子の口元にかすかな笑みが浮かんだ。

そして三人の子供に向き直り、声を潜めて手招きする。「朔真、朔矢、朔斗、ママを手伝ってくれるわよね」

計算に満ちた瞳と目が
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