生まれ変わった小泉奈月(こいずみ なつき)は、真っ先に離婚協議書を手に青山元治(あおやま もとはる)のもとを訪れ、口を開けば二言だけだった。「離婚に同意するわ。子どもを一人、私が連れていく」元治は協議書をめくる手を止め、視線を上げると、一瞬だけ驚きが過ったが、すぐにいつもの冷淡さで覆い隠した。「四人の子どもの中で、わざわざあの病弱な子を選ぶのか」彼は指先で机を軽く叩きながら、探るような口調で言う。「奈月、今度はまた何を企んでいる」「信じるかどうかは勝手、署名して」奈月は協議書を彼の前へ押しやった。元治はペンを握ったまま空中で動きを止め、三十秒ほど経った後、いきなり身を乗り出して署名すると、ペンを机に叩きつけるように置いた。「言ったことは必ず守れ」……「奈月、元治が離婚すると言ってるって本当?」電話口から母の切羽詰まった声が聞こえる。「四人の子どもは……どうするつもりなの?」「一人連れて行く」奈月は淡々と答えたが、軽く丸めた指先が心の揺れを隠しきれなかった。「一人でも連れて帰る方がいいわ」母の声は少し和らぎ、続けて言う。「男の子を連れて戻れば、いずれは小泉家の跡継ぎとして支えてくれる」「朔真は落ち着いているし、朔矢は賢い。朔斗はやんちゃだけど愛嬌があるし……どの子にするか、もう決めたの?」「私は朔乃を選ぶ」電話口が突然沈黙した。三秒の間を置き、母の声が一気に鋭くなる。「正気なの?あの子は小さい頃から本家で育って、あなたと親しくもないのよ」奈月は静かに目を閉じた。母の懸念が分からないわけではなかった。青山朔乃(あおやま さくの)は生まれた時わずか1500グラムで、退院したその日から姑に「静養が必要」との理由で抱えられ、先月になってようやく彼女のもとに戻された。情の深さで言えば、当然ながら自分で育ててきた三人の息子には及ばない。だが奈月だけは知っていた。この世で唯一、自分に心から寄り添ってくれるのは、この小さな娘だけだと。前の人生で自分が亡くなった後、墓前で娘は皺だらけの御年玉を握りしめ、しゃくり上げながら泣いていた。「ママ、お金ぜんぶあげるから、死なないでよ……」居間の壁に掛けられた家族写真は、陽射しに晒されて少し色褪せていた。写真の中で元治は三人の息子を抱い
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