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第5話

Author: さかなちゃん
「もちろん、離婚届を出すその日にならなければ分からない」

奈月はわざと悩ましげにため息をついた。

視線の端で、三人の息子の顔が一斉にしょんぼりと落ち、つられて元治と都子の表情も険しくなる。

この光景に、奈月の胸の奥にひそかな愉悦がわき上がった。

前世の彼女は彼らに結託して騙され、家という牢獄に囚われ、命の最後の火を燃やし尽くした。いま彼らが覚えるわずかな不安など、利息にすぎない。

まもなくスタッフが彼女の愛馬「フロスト」を引いてきた。

純白のアラブ馬は首を高く掲げ尾を振り、陽光を浴びた銀のたてがみが輝く。立ち止まると、奈月の手のひらに甘えるように鼻先をすり寄せた。

都子の瞳が一瞬明るくなり、羨ましげに言う。「本当に綺麗。私にもこんなサラブレッドがあったらいいのに」

そう言うなり、彼女は直接手を伸ばし馬の首に触れようとした。

奈月の目が鋭く細まる。

フロストは父が亡くなる前、国外からわざわざ取り寄せた馬。気性が激しく、彼女と長年世話してきたスタッフ以外が近づけば即座に荒れる。

ヒヒーン――

案の定、フロストは前脚を大きく上げ、鼻息を荒く噴きかけた。

「都子、危ない」

元治が素早く腕を伸ばし、彼女を抱き寄せて庇う。その顔は硬い。

奈月は急ぎ馬の頭を押さえ、低く宥める。「フロスト、大丈夫よ。落ち着いて、いい子」

馬のいななきは収まったが、前脚で地を掘りながら、都子を鋭く睨み続ける。

都子は恐怖で顔面蒼白になり、元治の胸に飛び込み震えた。

「畜生め、人を傷つけようとするとは!」元治の怒りが弾け、スタッフに手を振る。「この馬を屠畜場に送れ」

「触ってみろ!」

奈月が振り返って、瞳は血走っていた。

震える手で馬鞭を握りしめる。「元治、これは父が残した最後の形見よ!フロストに手を出すなら、まず私を踏み越えていけ」

空気が一瞬で張り詰める。

元治は初めて彼女のこの姿を見て、胸の奥が妙に締めつけられる。

何か言いかけたその時、都子が袖をそっと引く。

「元治、いいの。怪我してない。私のことで夫婦仲を壊さないで」

「夫婦仲?」

元治は鼻で笑い、奈月の固く結んだ唇を見やって冷たく言い放つ。「こいつに語る資格などあるか」

だが、振り上げていた手はそっと下ろされていた。

すぐさま三人の息子が寄ってくる。

朔斗が拳を握りしめ、フロストを睨みつけた。「君のせいだ。都子おばさんを怖がらせて」

奈月はその義憤ぶった姿を見て、ただただ滑稽に思えた。

ほんの数分前は「ママを一生守る」と言っていたのに、今は外の女のために母を敵視する。

「ママ、パパは怒りすぎただけだよ」

朔真がいち早く取り繕い、裾を引きながら媚びた笑顔を浮かべる。

「スタッフを呼んで、フロストを厩舎に戻そうよ?」

その胸中には計画があった。馬さえ片付けば、ママはパパと喧嘩しなくなるし、都子おばさんがまた最新のトランスフォーマーを買ってくれる。

奈月は三人の息子の思惑に満ちた顔を見て、胸の奥が鋭く突き刺された。

自ら産み落とした子なのに、その瞳に潜む打算は、元治の冷酷さ以上に彼女を凍えさせた。

彼女が自らフロストを引こうとした時、都子が行く手を遮った。

「奈月さん、話があるの」

元治に水を取りにやらせると、都子はたちまち弱々しい仮面を剥ぎ捨て、眼中には傲慢な色が滲む。「この馬、気に入ったわ。値段を言いなさい」

「売らない」

奈月の声は揺れない。

「調子に乗らないで」

都子はポケットから鋭い針を取り出し、指先で弄ぶ。

「元治が本当にあなたを気にかけてるとでも?さっき私を庇ったのは、あなたが分別のない女だからよ。

大人しく馬を渡せばいい。でなきゃ、この馬を肉塊にして、そしてどう誤って私を傷つけるか、じっくり見せてあげる」

奈月の心が深く沈む。

先ほどの「こいつに語る資格などあるか」という言葉、そして子供たちが「都子おばさんが一番」とはしゃぐ姿が脳裏に蘇り、全身を寒気が走った。

返す間もなく、都子は奈月の隙を突き、針をフロストの腹に突き立てた。

ヒヒーン!

フロストが苦痛に狂い、暴れ出す。

「痛い」

都子が蹴られ、地面に転がり悲鳴を上げた。

暴走する馬が踏みつけようとした瞬間、奈月は反射的に飛び乗り、必死に手綱を握る。「フロスト!落ち着いて」

「奈月、気でも違ったか!」

元治の怒声が轟き、鞭を振り下ろした。「都子を殺す気か」

激しい一撃にフロストは完全に制御を失い、跳ね回る。

奈月は振り落とされそうになりながらも、必死に手綱を離さない。

その危うい姿に、元治の瞳に緊張が走った。

思わず駆け出しかけた彼の足を、都子の泣き声が引き止める。

その時ようやくスタッフが駆け寄り、特製の縄で馬を縛り上げ、麻酔を打ち込んだ。

ドスンと鈍い音を立て、フロストは泡を吹きながら倒れ、痙攣を繰り返す。

奈月は転がるように落馬し、立ち上がった瞬間、耳に飛び込んできたのは都子の泣き声だった。

「元治、奈月さんを責めないで……嫉妬しただけよ、私は気にしないから……」

そう言いながら、都子が首を傾けてそのまま気を失う。

元治は呼吸を確かめて安堵した瞬間、再び怒りを燃やした。

彼女を抱きかかえ、冷たい目で奈月を睨む。「都子はこんな状態でも君を庇ってるんだぞ。いい加減にしろ!

誰か、彼女を反省室に閉じ込めろ。俺の命令があるまで……」

言葉を言い切る前に、馬小屋の方から騒がしい音が響いた。

奈月がそちらを振り返ると、その顔色が一気に変わった。
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