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第809話

作者: 花辞樹(かじじゅ)
終わりの見えない、暗く狭い路地の中にいた。

空は今にも雨が降り出しそうな鈍色で、どこまでも重苦しく垂れ込めている。

どれほど彷徨っただろう。

立ち込める薄闇の先、ぽつりと一つの人影が浮かび上がった。

黒い服に、黒い髪。

痛々しいほど痩せこけた背中を丸め、覚束ない足取りでゆっくりと前へ進んでいく。

その姿を視界に捉えた瞬間、景凪の瞳から堰を切ったように涙が溢れ出した。

「渡……!」

間違いなく、彼だ。

心が、魂がそう叫んでいた。

呼びかける声に気づいたのか、その人影はわずかに首を傾げた。

けれど――決して振り返ろうとはしない。

景凪は必死で駆け出した。

すぐ目の前にいる。あと少し手を伸ばせば届くはずなのに、いくら走っても距離は一向に縮まらない。

「渡――っ!お願い、行かないで……!頼むから、私を置いていかないで!」

喉が引き裂けそうになるほど泣き叫び、声が嗄れ果てても。

その人は、ただの一度も振り返ってはくれなかった――

……

しん、と静まり返った病室。

気配を忍ばせて扉が開き、潤一が足を踏み入れてきた。

ベッドの脇へ静かに椅子を引き寄せ、腰を下ろ
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