LOGIN32歳、平凡な会社員ジン・ソハです。 退屈するほどきちんとしていた彼女の日常は、12歳年下の大学生パク・ユゴンと出会ったことで完全にひっくり返ります。 二十歳の男と始まった見知らぬ危険な関係です。 彼を通して初めて知った欲望は、ソハが必死に無視してきた人生の亀裂を一つずつ広げていきます。 そして、二人の関係を中心に絡み合うもう一人の人物たちです。 愛なのか、欲望なのか、それとも単なる衝動なのか。 誰も名前を付けられなかった関係は、ますます熱く複雑になっていきます。 ただ退屈だっただけです。 最初は、本当にそれだけでした。
View Moreけれど、すぐにユゴンは首を横に振った。――いや、違う。自分の知っている父親は、そんな人間ではなかった。パク・ジェヒョクは、一度決めたことをめったに覆さなかった。いや、めったにどころではない。ユゴンの記憶にある限り、一度もなかった。考える時間が長いことはあった。何も言わず、何か月でも考え続ける人だった。けれど、いったん結論を出すと、恐ろしいほど早かった。必要のないものは捨て、終わったことは終わったものとして扱った。刃物で断ち切るように。未練があるからといって、一度下した決断を覆すような人ではなかった。幼いころは、そんな父親を冷たいと思ったこともあった。今は少し、羨ましかった。――俺も、そういうところを少しは似ればよかったのに。そうすれば、今こんな状況にはなっていなかったはずだ。ソハと会い、彼氏のいるチェウォンとも会っている。ソハと一緒にいるときは、ソハのことしか考えられなかった。けれど、ソハと離れていると、チェウォンが気になった。チェウォンがほかの男と一緒にいるのを見ると腹が立ったし、だからといってソハのところへ行かずにいられるわけでもなかった。どちらか一方を手放せば済む話だった。それなのに、その簡単な決断ができなかった。こっちの女のところへ行ったかと思えば、今度はあっちの女のところへ行く。まるでピンポン玉のように。ユゴンは自嘲気味に笑った。「馬鹿みてえ」父親なら、そんなことはしなかっただろう。終わらせるなら終わらせたはずだし、手に入れるなら手に入れたはずだ。少なくとも、二つの選択肢のあいだを行ったり来たりしながら、自分の気持ちさえわからないまま、ずるずると関係を続けたりはしなかっただろう。だからこそ、余計におかしかった。そんな父親が、終わらせると決めた母親と、また済州島へ旅行に行くなんて。『お母さんもすごく若く見えたし』ユゴンの眉間に、ゆっくりと皺が寄った。確かに母親は若く見えた。実年齢より若く見えると、よく言われてもいた。――でも、そもそも前提が間違っていたとしたら?チェウォンが見た女が、母親ではなかったとしたら。父親にも母親にも、別の異性がいておかしくはない。それ自体、不思議なことではなかった。それなのに、何かが引っかかった。ごく小さな棘が一本、頭の中に刺さっているような気がした。
いつしか笑い声は消え、互いを見つめる眼差しだけが残った。ソハがジェヒョクにそっと触れると、彼もまた彼女を抱き寄せた。二人は口づけを交わしながら、互いの温もりを確かめ合った。「……あ、ん」ソハの唇から、短い吐息が漏れた。「すごく……いい」ジェヒョクは彼女をさらに強く抱きしめた。まだ眠気の残っていた身体が、熱に浮かされるように目覚めていく。布団の中で二人は何度も抱き合い、ソハはジェヒョクにいっそう身体を寄せた。肌に伝わる体温。耳元に聞こえる吐息。窓の外で規則正しく響く雨音。それらが一つに溶け合っていた。ソハはジェヒョクの顔のあちこちに口づけた。唇、顎、頬、そしてもう一度、唇。ふと、奇妙な衝動が湧き上がった。――全部、塗り替えてしまいたい。最初は、身体だけのことだと思っていた。けれど、違った。済州島に来て初めて知ったジェヒョクの過去が、どうしても心に引っかかっていた。結婚していた女。二十歳の息子。自分の知らない長い年月。その女がジェヒョクとともに過ごした、数えきれない夜と朝。二人だけが知っている場所と記憶。ソハは、それが嫌になっていた。嫉妬だと認めるには、まだプライドが許さなかった。けれど、何でもないこととして片づけるには、もう気になりすぎていた。だからだろうか。ジェヒョクの泥にまみれたような記憶を、自分の存在ですっかり洗い流してしまいたかった。広安里も、済州島も。彼がこれから目にする海も。いつかパク・ジェヒョクがどこかの場所を思い浮かべたとき、真っ先に思い出すのが自分であってほしかった。ソハはそんなことを考えた自分に驚いた。――いつからだろう。この男の身体を求めることと、この男の心からほかの女の居場所を追い出したいと思うことが、同じ欲望になってしまったのは。雨音と、二人の重なる息遣いだけが、部屋の中を満たしていた。ソウルへ戻る飛行機でも、ソハは窓際に座った。滑走路は雨に濡れていた。ジェヒョクは隣の席でメッセージを確認していた。ソハはそっと彼の横顔を眺め、それから再び窓の外へ視線を戻した。済州島に来たときも、帰るときも、確かに同じ二人だった。それなのに、何かが変わっていた。初めてここへ来たとき、ジェヒョクは自分が欲望する男だった。けれど、今は違った。欲望だけでは説明できないほど、彼は
「怪しいな」「何が?」「ジェヒョクさん」「俺がどうしたの?」「昔の女の人と来た店でしょう?」ジェヒョクが答えないので、ソハは笑った。「やっぱり」「それが重要?」「いいえ」ソハは水を一口飲んだ。本当なら、気にすることではないはずだった。結婚までしていた男に、過去がないほうがおかしい。けれど、さっきの店員の言葉が耳に残っていた。――いつもこちらのお席がお好きでしたからね。いつも。一度ではなかったということだ。ソハは窓の外を眺めながら、できるだけ何気ない口調で尋ねた。「元奥さんと?」今度はジェヒョクがすぐに答えた。「うん」ソハの指が、水の入ったグラスをゆっくりと回した。「何度も来たんですか?」「何度か」「旅行で?」「うん」「仲がよかったんですね」ジェヒョクの視線がソハに向いた。「どうしてそんなこと聞くの?」「別に」「またそれ?」ソハが笑った。「今日の私、質問が多いですよね?」「多いね」「嫌ですか?」ジェヒョクはしばらくソハを見つめた。「いや」その答えに、かえってソハの言葉が止まった。料理が運ばれてきて、二人はしばらく静かに食事をした。やがてソハが尋ねた。「綺麗な人でした?」ジェヒョクの箸が止まった。「誰が?」「元奥さん」「……」「何ですか。それも答えたくないんですか?」ジェヒョクが呆れたように笑った。「今日の君、どうしたの?」「気になるんですってば」「綺麗だったよ」あまりにもあっさりした答えだったので、ソハのほうが戸惑った。「すごく?」「うん」「私より?」ジェヒョクがじっとソハを見つめた。ソハは口にしてから、自分が何を聞いてしまったのか気づいた。「あ、今のなし」ジェヒョクの口元が上がった。「どうして取り消すの?」「なんか、私がすごくみっともないから」「もう遅いけど」「忘れてください」ソハは酒のグラスを持ち上げた。ジェヒョクが笑った。「嫉妬してるんだ」「違います」「してるでしょう」「違うってば」「じゃあ、どうして比べるの?」ソハは答えられなかった。ジェヒョクはしばらく彼女を見つめてから言った。「違うよ」「何がですか?」「二人は」ソハが顔を上げた。ジェヒョクはそれ以上説明しなかった。それが妙に気になった。「何が違うんですか?
翌朝、先に目を覚ましたのはソハだった。カーテンをきちんと閉めずに眠ったせいで、部屋の中は眩しいほど明るかった。ソハは目をしかめながら寝返りを打った。隣は空いていた。しばらくぼんやりと見つめてから、上体を起こした。ジェヒョクは窓際にいた。ホテルのバスローブを適当に羽織り、テーブルに座ってノートパソコンを見ている。傍らにはコーヒーが置かれていた。ソハは枕を抱きしめた。「仕事してるんですか?」ジェヒョクが振り返った。「起きた?」「休むために済州島に来たんじゃなかったんですか?」「そうだよ」「なのに?」「俺にとっては、これが休みなんだよ」ソハは枕を投げつけた。ジェヒョクが片手で受け止めた。「朝から本性が出てるね」「休暇にまでノートパソコンを開いてる人に言われたくないですけど」ジェヒョクはノートパソコンを閉じた。「これでいい?」「最初からそうすればいいのに」ソハは再びベッドに倒れ込んだ。その姿をしばらく眺めていたジェヒョクが尋ねた。「朝食、食べる?」「何時ですか?」「九時」「嫌です」「じゃあ?」ソハは布団の中から顔だけを出した。「ラーメン」ジェヒョクはしばらく何も言わなかった。「何ですか?」「五つ星ホテルに来て、ラーメン?」「済州島ですから」「それと何の関係があるの?」「知りません。ただ食べたいんです」ジェヒョクがふっと笑った。「出かけよう」「どこへ?」「ラーメンを食べに」ソハは目を丸くした。「本当に?」「食べたいんでしょう?」「ルームサービスで頼めばいいじゃないですか」「せっかくだから、本場の済州島のラーメンを食べないと」ジェヒョクはバスローブを脱ぎながら言った。「シャワー浴びて。海を見ながら食べよう」ソハはベッドの上から、じっと彼を見つめた。この男は、ときどき妙だった。たった一時間ほどのフライトのためにプレステージクラスを予約し、運転手つきの車を手配し、スイートルームを何でもないことのように押さえる。それなのに、ラーメンが食べたいと言えば、わざわざ車で食べに行こうと言い出すのだ。ジェヒョクがソハを連れていったのは、海辺に近い小さな軽食堂だった。ジェヒョクは昨日とはまるで違う格好をしていた。黒いウインドブレーカーの下にボーダー柄のポロシャツ、コットンパンツにサング