程なくして、恵子皇太妃は案の定、怒りを隠そうともせずに慈安殿へと戻ってきた。内藤勘解由がその場にいるのもお構いなしに、彼女は憤慨して言い放った。「なんて狭量な連中なのかしら。井の中の蛙よろしく、心の器が針の穴ほども小さくて、人の幸せが妬ましくて仕方がないのね。うちのさくらが功績を立てて陛下にお認めいただき、常にお傍で政務にお仕えしているというのに、あの女たちときたら、嫌味ったらしく男女の別がどうのこうのと……いつも御書院でお二人きりでいらっしゃるのはよろしくない、ですって。馬鹿げているわ。さくらは朝廷の官職にあるお方よ?御書院で政務に励まれるのが当然でしょう。まさか後宮で寵愛を競えとでも言うの?」太后はゆっくりと茶を口に運びながら呟いた。「あの方たちが、そんなことを……?」恵子皇太妃は怒りで目を見開いて、まくし立てた。「最初は気づかなかったのよ。みんなでさくらを褒めちぎって、今は以前とは違う、しょっちゅう御書院でお側仕えをしている、なんて言うものだから、私も有頂天になっていたの。ところが聞いているうちにおかしなことを……何か聞こえの悪い噂でも立つのではないか、さくらが身分不相応な野心を抱いているのではないか、ですって……あああ、腹が立つ!口元を押さえてくすくす笑うなんて、まるで下町の井戸端会議みたいじゃない」内藤が茶を差し出しながら慰めるように言った。「皇太妃様、お怒りになりませんよう。あの方々は嫉妬なのでございます。皇太妃様にこのような優秀なお嫁様がいらっしゃることが羨ましくて、つい口が滑ってしまうのでしょう」「当然よ、あの女どもをきつく叱りつけてやったわ」恵子皇太妃は茶を一口すすり、まだ怒りが収まらない様子で続ける。「ところが、叱った後でまた何て言うと思う?『よくお考えになった方がよろしいのでは』『玄武様がお気の毒に』なんて言うのよ。まるで玄武が何も知らずに騙されているみたいな言い草じゃない」太后がくすりと笑う。その目の奥に冷たい光が宿った。「それは誰が申したの?」「斎藤貴太妃よ」恵子皇太妃の告発は、まるで子供の告げ口のように響いた。太后は「ふーん」と相槌を打ち、ゆっくりと茶を飲み干してから内藤に向き直る。「今日、恵子と御話しなさった方々は、随分とお暇をお持ちのようね。懿旨を下しなさい。金剛経を十回写経させること。年内に仕上げるよ
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