Semua Bab 桜華、戦場に舞う: Bab 1401 - Bab 1410

1541 Bab

第1401話

刑部の取調室で、斎藤帝師と秋本蒙雨が向かい合って座っていた。二人の間には古ぼけた机が一つ、そして少し離れた記録係の机の後ろにさくらが控えている。どんなに小声で話されても、この距離なら彼女の耳にははっきりと届くはずだった。呼吸音、心臓の鼓動、時折漏れるかすかなため息。だが、会話は一切なかった。視線すら数回しか交わらない。まるで無理やり同席させられた他人同士のように、距離を置き、無関心を装っている。さくらは自分がここにいるせいかもしれないと思ったが、退席するわけにもいかず、この気まずい空気に付き合うしかなかった。長い沈黙の後、ようやく帝師が口を開いた。「……なぜじゃ?」本当に困惑していた。理解できずにいた。目の前にいる男が、記憶の中のあの人物と同一人物だとは思えない。どれだけ見つめても、二つの像を重ね合わせることができなかった。蒙雨は両手を組み、首を振った。「詮索しても無駄だ。勝者と敗者、それだけのことさ」「何事にも理由があるはずじゃろう?」帝師の声はかすれていた。蒙雨はしばし考えてから答えた。「どのみち、この人生で一番やりたかったことは、もうできやしない。先帝もおっしゃっただろう?俺は狂った男だと。なら、そんな俺の考えが本当の狂気じゃないというなら……いっそ真の狂気に身を委ねてみるのも悪くない。そうすれば、他のことなど些細なものになる」帝師の眼光が鋭く彼を見据えた。「今回のお前たちの反乱で、何千何万という人々が命を落とした。血の匂いは今もまだ消えておらぬ。これがお前のやることだとは、わしには信じられん。いつから人の命をそれほど軽んずるようになったのじゃ?」蒙雨は唇を引き結び、何も答えなかった。その表情は感情を失ったかのように無表情だった。「蒙雨……お前はそんな男ではないはずじゃ。何か言えぬ事情があるのではないか?」帝師の声には哀願にも似た響きがあった。「俺はこんな男さ」蒙雨の口調に皮肉が滲んだ。「あんたが知ってる俺なんて、あんたが勝手に作り上げた幻想だ。俺をあんたの理想通りの人間だと、盲目的に信じ込んでただけのことだろう」帝師は長い間彼を見つめていたが、やがて苦々しく呟いた。「わしらは三人とも、あれほど良い友であったのに……」蒙雨はまるで滑稽な話でも聞いたかのように、声を上げて笑った。「あんた、天皇を友達だと
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第1402話

蒙雨の瞳に鋭い光が宿った。「いいだろう。道徳ぶった綺麗事を聞かせてもらおうか」清和天皇は生来疑い深く、常に北冥親王家を警戒している。今日彼女に女子のために立ち上がるかと問うたのも、たとえ彼女が否定したとしても、天皇は用心を怠らないだろう。さくらは彼の思惑など見抜いていた。問いかけられた瞬間から、これが罠だと分かっていた。だがさくらがまだ答えぬうちに、蒙雨が冷笑を浮かべて付け加えた。「まずは媚びへつらいから始めたらどうだ?清和天皇がいかに女子を厚遇しているか褒めそやすんだ。良心が痛まないなら、存分におべっかを使えばいい」さくらは呆れて笑った。皮肉と挑発に満ちた彼の眼差しを真っ直ぐ見返して言う。「勝手な憶測はやめなさい。それは全く別の話です。あなたは世間が愚昧で自分の好みを理解できないと思い込み、こんな極端な手段で世の理解を得ようとした。それはあなた個人の問題であって、あなたと同じような人々を代表することすらできない。あなたは彼らのために幸福を図ったのではなく、逆に恨みと憎しみを招いた。世間が彼らを理解しないばかりか、さらに嫌悪と排斥を深めてしまった。もし彼らがそれを知ったなら、あなたを激しく非難するでしょう」蒙雨の顔が一瞬にして血の気を失った。だが次の瞬間、歪んだ笑みを浮かべる。「結局、お前は答えていない。もし女が圧迫されて生きていけなくなったら、お前は俺と同じことをするのか、しないのか」「もしというのは仮定です」さくらは冷静に答えた。「事実ではありませんから、考える必要もありません」「詰まるところ、答える勇気がないということだ」蒙雨が冷笑した。「生きていけないことと、大多数の人に理解されないことを一緒くたにするなんて、滑稽ではありませんか?」さくらは蒙雨の陰険な瞳を見据えた。「世の大半があなたを理解しなくても、あなたは何十年も堂々と生きてきた。生活に困ることもなく、自由気ままに過ごしてきた。なぜそれでも大仰に全ての人から認められ、理解され、崇められなければ満足できないのですか?」「自分の心と向き合い、自分の選択に確信を持てばいい。十分な勇気と自信があれば、他人の視線など気にする必要はない。なのにあなたは問題を同類のための崇高な戦いにまで押し上げた。結局のところ、叶わぬ恋への怨恨に過ぎません」少し間を置いて、さくらは続けた。
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第1403話

関係者が揃い、ついに大詰めの処分が始まった。刑部と禁衛府が連携して調査を重ねた結果、燕良親王と寧世王を首謀とする謀反は確実なものとなった。罪状そのものに疑いはない。これまで時間をかけたのは、彼らの全ての罪を一つ一つ明らかにして天下に知らしめるためだった。燕良親王一族は、影森哉年が情報提供で功を立てた以外は、全員が天牢の人となった。哉年も皇室の血筋から除名されたが、刑部の司獄としての職は残された。ただし、この十年は昇進の見込みはないだろう。今中は彼を一時停職とし、処分が済んでから復帰させることにした。今中は親切心から、もしこの職を続けたいなら天牢には近づかず、家で静かに反省していろと忠告した。今中の見るところ、哉年は愚鈍ではあるが素直で教えを聞く耳を持っている。最近では以前ほど主体性がないわけでもなく、物事を考えて行動するようになった。だからこそ今中も面倒を見てやろうという気になったのだ。今中はさくらに哉年の話をしたことがある。さくらは彼が幼い頃から臆病な性格に育ったと語った。何事にも逆らえずにいたが、幸い嫡母の元で育てられ、その教育が良かったからこそ根性が歪まずに済んだのだという。さくらは今中に、哉年を特別扱いしないよう忠告した。彼が都で平凡に暮らしていれば、陛下も安心するだろうと。今中にもその理屈は分かっていた。今回哉年が難を逃れたのも、燕良親王の私兵について情報を提供したおかげだった。だが事が済んだ後、陛下が彼を思い出せば、やはり心に引っかかるものを感じるだろう。帝が哉年の職を剥奪しなかったのは、目の届く場所で監視するためだ。もし彼が都を離れる気を起こせば、生きて帰れる可能性はない。早朝の廷議で、清和天皇は寧世王と燕良親王らの罪状を発表した。数名の罪状を合わせると百を超える――朝廷への謀反、御衣の密造、私兵の養成、武器甲冑の隠匿、民衆の扇動、朝廷への流言、税銀の横領、野盗の庇護と騒乱、民衆への略奪……これらの罪状は、重大なものから極悪非道なものまで、どれ一つとして許し難いものばかりだった。謀反などの大罪は一般の民には遠い話かもしれないが、野盗を使って民を襲わせたとなれば話は別だ。民衆の怒りが沸騰し、一刻も早く処刑してほしいと声が上がった。民の憤激は頂点に達し、八つ裂きにしても飽き足らぬという勢いだっ
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第1404話

都中引き回しの間、寧世王は完全に破綻し錯乱状態となり、民衆を愚昧無知と罵り散らした。朝廷に騙され、暗君を賢君と間違えている、自分こそが真の明君になるはずだったのだと喚いた。その嗄れた声は民衆の罵声にかき消された。群衆は彼に死ねと叫び、腰斬でも生ぬるい、細切れにして肉片一つ残らず削ぎ落とすのがふさわしい報いだと口々に叫んだ。燕良親王は終始一言も発しなかったが、胸中は悔恨と影森風馬への憎悪で満ちていた。風馬が自分の手下を寝返らせなければ、きっと成功していたはずだと信じて疑わなかった。影森風馬は毒蛇だった。暗闇に潜み、気づかぬ間に頭をもたげて致命的な一噬みを食らわせる。風馬のせいで、自分は単なる逆賊ではなく愚かな逆賊となった。苦心惨憺して築き上げたものをすべて他人に明け渡し、裏切り者に縛り上げられて朝廷軍に引き渡される始末。後世の史書には、憎まれるだけでなく嘲笑の的として記されるだろう。この生涯をかけて求めたもの——権勢と名声、そのすべてが水泡に帰した。処刑台に引きずり上げられた時、全身が制御不能に震えていた。この世への最後の眼差しを向けると、そこにあるのは憎悪と嘲笑の視線ばかり。突然、彼は子供のように泣き崩れた。この半生、いったい何のために駆け回ったのか。大業などと称して、心の赴くままに生きた瞬間など一度もなかった。恋愛に溺れることも許さず、妻も妾も利用のためだけに娶った。心惹かれる女性に出会い、一度だけでも思うままに振る舞おうとした途端、無相や部下の裏切りに遭った。結局、何一つ手に入れることはできなかった。涙に霞む視界の中、群衆の間に沢村紫乃の姿を認めた。紫の衣に身を包み、美しくも凛々しい立ち姿。さくらと似た気品を纏いながらも、彼女の方がより明朗で奔放だった。だが、彼女が向ける眼差しもまた、嫌悪と憎悪に満ちていた。鮮血が刑台を真っ赤に染めた。上半身だけになってもなお、凄まじい悲鳴が響く。這いずり回る度に、捻れた血の筋が幾本も刻まれていく。深秋の冷気に追い打ちをかけるように雨が降り始めた。雨脚は次第に強まり、刑台の血痕を洗い流して小川のように台下へと滴り落ちる。一雨ごとに寒さが増すというが、この日は本当に身を切るような冷たさだった。包囲戦の際、敗走した乱兵が民家に押し入り、略奪や殺戮を働いて罪もない人々を傷つけ
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第1405話

陽雲は都にもうしばらく留まっていた。これまでは神火器の研究に没頭して暇がなかったが、今は手が空いている。都の商売が気になると言い訳をしながら、もう少し滞在するつもりだった。実のところ、気がかりなのはさくらのことだった。神火器の研究を始めたのも、わざわざ北森まで人を派遣して技術と処方を手に入れたのも、邪馬台のため、上原洋平のため、そして最終的には玄武とさくらのためだった。師匠として、弟子たちには歩むべき道があることを理解している。それを止めることはできない。ただ全力で支援し、後ろ盾となることしかできないのだ。陽雲はいつも自分は師匠向きではないと言うが、門下の弟子は皆優秀で人格も申し分ない。誰一人として手を焼く者はいない。ただ一人、末弟子のさくらを除いては。彼女は奔放で遊び好きだったが、武芸は神妙の域まで極めた。その天賦は計り知れない。毎日彼女の顔に浮かぶ屈託のない明るい笑顔を見ているだけで、陽雲も心から嬉しくなったものだった。だがその後、彼女は急激な成長と成熟を強いられた。心の奥の糸は常に張り詰めたまま、一時も緩むことがない。あの純真で明るい笑顔を見ることは、もうほとんどなくなってしまった。心が痛む。だがそんな傷は時間でしか癒せないものだ。他人にできることは限られている。玄武は彼女に幸せと喜びを与えられるだろう。それでも失われたものは、誰にも埋めることはできないのだ。陽雲は一晩酒を飲み明かし、昼過ぎまで眠ってから参内した。かつて栄華を誇った菅原家も、今は彼一人が残るのみ。弟子はいても子はなく、当然子孫もいない。昔の菅原親王・菅原義信も重兵を握る身だったが、その功績が主君を脅かすほどだと弾劾された。その間にどのような確執があったのか、清和天皇にも定かではない。すべてを置いても、菅原家が影森王朝に果たした功績は軽んじ得ない。史書にも菅原義信の名は大書特筆されるであろう。清和天皇が陽雲を極めて丁重に遇したのは、一つには菅原親王の功績ゆえ、もう一つは陽雲が改良した六眼銃、そして運び込まれながらまだ使われていない巨砲が、いずれも大和国の利器となるからだった。陽雲は御書院に半時間ほど留まり、吉田内侍自らが宮門まで送り出した。彼は何の恩賞も受けず、ただ菅原家の昔語りをし、君臣の間に生じるべきでない誤解はすべて不信か
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第1406話

清和天皇は沢村家当主をも参内せしめた。沢村家当主も覚悟を決めていた。今回護衛と商会を率いて乱を平定したとはいえ、沢村の傍流が寧世王と結託していた事実は重い。天皇が表向き功罪相殺と言おうとも、そう簡単に水に流せるものではない。清和天皇の態度は案外穏やかで、沢村家当主の忠君愛国ぶりを褒め、亡父の気風を受け継いでいると賞賛さえした。先代当主は朝廷に対して非常に気前がよく、戦があるたびに多額の銀子を寄進していた。沢村家当主は察しよく、邪馬台と関ヶ原で戦が続いているのを理由に、沢村家としてささやかながら力になりたいと申し出た。三十万両の銀子を寄進し、将兵の冬着調達と食事の改善に充てていただきたいと。清和天皇は満足げに微笑んだ。「よろしい。沢村家当主の三十万両の寄進により、我が辺境の将兵も必ずや外敵を撃退し、一日も早く戦を終えることができよう」沢村家当主は即座に調子を合わせた。「陛下の聖明なるご仁徳により、天もきっと我が大和国を千秋万代にわたってお守りくださいましょう」清和天皇は笑みを深めると、しばし雑談に興じてから退下を許した。三十万両で一家の安泰と教訓を買ったのだ。安いものである。皇商は誰にでもできる商売ではないが、沢村家でなければならないというものでもない。朝廷相手の商いは実のところ利は薄い。だが皇商の看板があれば、他の商売は面白いほど順調に運ぶ。家に戻ると、沢村家当主は紫乃に告げた。「お前が都に残るなら、これまでのように好き勝手は許されぬ。沢村家は大きな一族だが、中には腐った者もいる。わしも帰ったら大いに整理せねばならん。この件を機に、目立たぬよう控えめに振る舞うことを覚えよ。財を見せびらかすのも慎め。今後お前の衣食住もある程度削る」紫乃は意に介さなかった。自分なりの蓄えもあるし、親王家で食住の世話になっている。四季の装いも質素で十分、金銀の装身具など滅多に身につけない。「父上、ご安心を。私も分別がつきました。ただ、三十万両というのは我が家にとって痛手ではありませんか?」「まあ、何とかなる」沢村家当主は娘を見詰めながら答えた。本当にずいぶんと成熟し落ち着いたものだ。沢村家の若い男どもよりもよほど肝が据わっている。心中嬉しくもあり、感慨深くもあった。この末娘は甘やかして育てるつもりだった。武芸を好むなら武芸集団に資金
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第1407話

天方十一郎と相良玉葉の婚儀は、何度も延期を重ねた末、ようやく吉日を選んで執り行われることとなった。盛大な祝宴というわけではなかったが、左大臣が孫娘を嫁がせるのだ——相応の格式は整えられていた。太后が先頭に立ち、後宮の妃嬪たちも次々と下賜品を贈り、玉葉の嫁入り道具を充実させた。雅君女学の生徒たちも一丸となって、玉葉のために手作りの婚礼の品々を数多く贈った。女学院の生徒といえば今やほとんどが庶民の娘たちで、高価な品など持ち合わせてはいない。けれど自分の手で刺繍し、心を込めて作り上げた品には、何物にも代えがたい真心が込められていた。玉葉の婚礼衣装は、早くから工房の清原澄代に依頼していたものだった。この婚礼衣装はかつて工房の刺繍品店で展示されたことがあり、多くの花嫁候補の娘たちの心を奪った。誰もがこんな美しい衣装に身を包み、想い人のもとへ嫁いでいく日を夢見たものだった。清原澄代はもとより名の知れた職人だったが、左大臣の孫娘が彼女の手がけた婚礼衣装を身にまとったとなれば、もはや誰が彼女の過去を気に病むというのだろう?たちまち工房の刺繍品店は門前市をなす有様となり、婚礼衣装や祝い着を求める客もあれば、普段着を注文する者もあった。祝言の当日、さくらは紫乃たちを伴って天方家へ祝宴に向かった。天方家は兄弟が多く、しかも十一郎自身が武将とあって、当然ながら騒ぎ好きの連中が寝所で花嫁をからかおうと息巻いていた。皆、恥じらう花嫁の姿を見物しようと意気込んでいたのだが、なんと花嫁は堂々と前に進み出て、こう宣言したのである。「寝所でのお戯れは結構なことでございますが、まずは詩をお詠みください。夫婦の契りを題として一つお作りいただき、見事な出来でしたら祝儀をお渡しいたします。そうでなければ……この中庭で剣舞や拳法をご披露いただきましょう」かくして十一郎と玉葉は廊下に腰を据え、次から次へと繰り出される拳法の型を眺め、幾度となく演じられる剣術を鑑賞することとなった。祝儀袋はさほど減ることもなかった。客が新夫婦をからかうつもりが、新夫婦に客がからかわれる——こんなことは前代未聞であった。一方、左大臣邸では、左大臣の孫娘の婚礼を祝う客の大半が文官だったため、左大臣が「今日はこれほど目出度い日なのだから、文官の皆も剣舞や拳法で場を盛り上げてくれたまえ」と
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第1408話

賑やかな祝宴から親王家に戻ると、さくらは急に梅の館がひどく寂しく感じられた。玄武のことが恋しくなったが、彼は遥か邪馬台の地にいる。二人が離れている日数を数えたことはないが、とても長く感じられた。以前のように出かけて都景楼で師匠に会いに行こうかと思ったが、師匠はもう梅月山に帰ってしまっていることを思い出した。心の中にぽっかりと穴が開いたような寂しさが込み上げてきた。今夜の玉葉のことを思い返すと、女性が嫁ぐときというのは、あれほど心が弾み、あれほど期待に胸を膨らませ、あれほど恥じらいながらも、幸せが溢れ出るほどなのだということが分かった。自分の二度の結婚は、どちらもあまりに淡々としたものだった。お珠が化粧を落としてくれた後、湯浴みの支度をしようとしたが、さくらは首を振ってお珠を座らせ、こう切り出した。「お珠、前にも話したことがあるけれど、そろそろあなたの縁談を考えなければならない時期よ。心に決めた人はいるの?」お珠はちらりとさくらを見て言った。「お嬢様、祝言に出かけて味を占めてしまわれたのですか?そんなに急いでもう一度お祝いの席にお呼ばれしたいのですか?」さくらは思わず笑い声を上げた。「私はそんなに食いしん坊に見える?あなたのことを思って言っているのよ。このままではいけない年頃になってしまうわ。まさか紫乃に影響されて、一生結婚しないつもりじゃないでしょうね?」お珠は首を振った。「そんなことはございません。私は結婚いたします。でも結婚した後も、お嬢様のお側を離れるつもりはございません」さくらはお珠の鼻先を軽く指でつついた。「結婚しておいて夫の家で暮らさず、実家にいるなんて、そんなことがあるものかしら?」「実家」という言葉に、お珠の目に急に涙が浮かび、声も震えだした。「お嬢様、私にはあなた様以外に身寄りがございません。どうしてもお側を離れるわけにはまいりません。もしも適当な家来や小姓、護衛の中に、他のことはともかく、人柄が良く親王家に忠実な方がいらっしゃいましたら、私はその方と結婚いたします」そう言い終わると、涙がぽろぽろと頬を伝って落ちた。さくらは手を伸ばしてお珠の涙を拭き取り、優しく言った。「いえ、一番大切なのはあなたが心から好きになれる人かどうかよ。今日玉葉の喜びと幸せを見て、結婚の一番の意味は自分が愛する人のもとへ嫁ぐ
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第1409話

シャーブが城内に入ったときの供は十数名ほどで、皆逞しく屈強な体躯をしており、腰には三日月刀を帯び、一見すると鬼のような形相をしていた。しかし酒肉を囲んで座を共にすると、日に焼けた黒い顔に格別に輝かしい笑みを浮かべるのだった。狼主シャーブは五十歳を過ぎており、部下たちと同様に肌は黒く艶やかで、眼光は鋭く光っていた。彼は特に知恵に長け、思慮深い男であった——というより、常に警戒を怠らず、北冥親王に完全な信頼を寄せることはしなかった。シャーブの要求はただ一つ。今回限りの協力であり、羅刹国を撃退した暁には速やかに草原から撤退すること。許可なく草原の中核地域に再び足を踏み入れることは許さない、というものだった。玄武は快諾し、その場で協定書に署名した。協定締結後、彼らは一刻も留まることなく、すぐさま立ち去った。草原部族は大和国に対してさほど好感を抱いてはいない。この地は連年戦火に見舞われ、多かれ少なかれ必ず巻き込まれるからだ。しかし草原には多くの部族がいながら団結していないため、大和国や羅刹国と対立することもできずにいた。天方許夫が彼らを城外まで見送った後、すぐさま元帥邸に戻って、この追撃戦をいかに戦うべきかを協議した。草原部族が道を貸してくれれば、縦深追撃が可能となる。だが追撃戦と守城戦は別物だ。後方支援、兵糧、弓矢武器すべてが随伴せねばならず、軍医や傷薬、担架なども欠かすことはできない。大部隊での出撃となれば冬の厳寒にも対処せねばならず、危険は大きいが、成果も大きい。少なくとも十年は羅刹国が再び侵攻する気を失わせることができよう。将たちは一晩中協議を重ね、基本戦略を固めた後、軍令を下達した。当然ながら天皇にも急報を送ったが、いつものように、さくらへの手紙も同封されていた。戦地にある将軍ともなれば、夫婦間の手紙といえども御前に秘密はない。面倒事を少しでも減らすためだった。朝廷に急報が届くと、一部の朝臣たちは玄武のこの行動があまりに功を急ぎ過ぎた軽率な判断だと考えた。厳寒の季節を迎えようというこの時期に、軽々しく大部隊を率いて追撃に出るなど、しかも草原の民が隙に乗じて薩摩を攻めてくる可能性もある。彼らは清和天皇に上奏し、北冥親王に軍を率いて薩摩に退くよう勅命を下すべきだと進言した。薩摩さえ死守していれば、羅刹国の者どもなど
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第1410話

宮中の御書院では、まだ床暖房に火が入っておらず、ひんやりとした冷気がじわじわと忍び込んでいた。上奏文はとうに読み終わっているというのに、清和天皇は今夜の伽の相手を決めることもなく、ただ眼前の薄暗い灯火を見つめてぼんやりとしていた。玄武がさくらに宛てた手紙を読んだのだ。手紙には尽きることのない想い、語り尽くせぬ真情が綴られており、まるで新婚ほやほやの夫婦のように、蜜のように甘く、離れがたい様子であった。彼らの手紙を読むのは初めてではない。以前にも恋しく思うと書いてはいたが、これほど「奔放で軽々しい」ものではなかった。このような言葉は、口に出すのも気恥ずかしく、ましてや文字にするなど更に恥ずかしいことではないか。弟のこのような振る舞いは実に不適切で、あまりに軽薄だと彼は思った。女を口説く手段などいくらでもあるのに、なぜこのような真似を?そう考えてはいたものの、心には小石を投げ込まれたような波紋が広がり、心の湖に幾重にも波が立って、どうしても鎮まらなかった。この天皇という立場で、一体どれほど多くのものを失ったのか、彼には分からなかった。男女の契りのようなものは、考えることすら許されない。心ときめいたことがなかったわけではないが、熟慮の末、心の動きなど一時の感情に過ぎず、やがて消え去るものだと思うに至ったのだ。かつてさくらに心を奪われたことがあった。あれほど凛々しい女性に心動かされぬ者がいるだろうか?しかし心動かされることと、それを活かすことは別だった。彼女は格好の駒であり、弟に嫁がせることで軍権を削ぐことができる。帝王の感情は常に犠牲とされ、何らかの目的を果たすために使われるものなのだ。「陛下、今夜はどちらの妃殿下のもとへ?」吉田内侍は天皇が上奏文を読み終えて長い間無言でいるのを見て、そっと尋ねた。清和天皇は視線を戻し、徐々に焦点を合わせて問うた。「皇后の宮で最近何か問題でも起きているか?」吉田内侍は恭しく答えた。「陛下にお答えいたします。皇后様はこの数日、お湯やお茶を差し上げるよう人を遣わされ、毎日慈安殿へ人を送って大皇子様のご機嫌を伺い、お菓子などをお届けになっております。春長殿の者たちが申すには、皇后様は大皇子様を恋しくお思いになり、夜毎にお一人で涙を流されているとのことでございます」清和天皇は珍しく夫
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