だが、車に乗った後――紀香は意識を取り戻した。だが、病院には行きたがらなかった。ホテルに行こうかとも考えたが、やはり不便だ。人の出入りが多くて落ち着かないし、どんなに掃除が行き届いていても、自宅ほど安心感はない。だから――楓は、彼女に相談もせず、自宅に連れて帰ることを決めた。紀香は、自分が今どこにいるか知らなかった。ただ、ふかふかのベッドに触れた瞬間、楽な姿勢を見つけ、そのまま眠りについた。楓は、彼女の靴を脱がせ、ブランケットを掛けてあげた。それから家庭医を呼ぶため、電話をかけに行った。針谷はというと――高級マンションのゲート前で足止めをくらっていた。さすが楓、バックも実力もある。セキュリティの厳しい高級住宅地に住んでいた。針谷は多少のコネを使って、なんとか敷地内には入れたが、部屋までは入れず、玄関前で張り込みをする羽目に。その間にも頭をフル回転させていた。――奥様が他の男に抱きかかえられた件を、どうやって旦那様に報告すれば「小事」扱いにできるか……そのとき――清孝から電話がかかってきた。まるで死刑宣告の音だった。……どうせいつかバレる。今だ。覚悟を決めて電話に出る。「旦那様」「まだ着かないのか?」病中のせいで声にかすれが混じっていたが、それでも押し隠せない圧の強さがあった。電話越しでも、背筋が冷たくなるほどだった。「い、いえ……もう着いております」だが清孝は、すぐに違和感を察知した。声のトーンが一段低くなり、圧力がさらに増す。「俺は、随時報告しろと命じたはずだが?」「は……はい……」針谷は一瞬言葉を詰まらせた後、意を決して言った。「旦那様、今は手術に備えてゆっくり療養することが大事です。奥様のことは私が全力で守ります。決して、誰にも傷つけさせません」「本当のことを言え」――終わった。針谷は、もう言い訳できないと悟り、正直に報告した。言い終わった瞬間、電話の向こうからバリバリと何かを破壊するような音が聞こえた。……きっと病室の何かをぶっ壊したに違いない。針谷はすぐに追加でフォロー。「でも安心してください、見てました!変なことは何もしてません!奥様はまだ病み上がりで倒れたんです!彼はただ善意で……他の人だったとしても、空港で倒れていた
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