「お兄ちゃん、大丈夫?」動画の中で、春香の背景には、果てしなく広がる砂漠が映っていた。その黄色い砂の中に、ひときわ目を引く淡いピンクの姿があった。カメラを構えて、夢中でシャッターを切っている。「お兄ちゃん、安心して。全部、私に任せて」「ちゃんと療養しないと、あの病気……将来、お坊さんになるしかないって聞いたよ?」「そしたら、妹として離婚を勧めるしかないよね。だって、私は紀香ちゃんと姉妹みたいな関係だし、彼女が幸せになれないなんて、見てられないもん」その「幸せ」をわざと強調して言った。清孝は思わず額に黒い線が浮かぶような気分になったが、それでも動画を閉じることはできなかった。音を消し、ただ画面に映る、真剣でちょっとお茶目なその姿をじっと見つめていた。病室のドアの外で、ウルフは中から声が聞こえてこないのを確認し、安堵の息を吐いた。藤屋家の三女なら、なんとかしてくれるだろう。……鳥取、砂漠。春香は紀香にカシャカシャと何枚も写真を撮った。誰に送っているか、紀香にはわかっていたが、何も聞かなかった。春香は一口ラクダミルクを飲んで、顔をしかめた。どうにも口に合わなかった。それを紀香に差し出した。来たとき、彼女が喜んで飲んでいたから、両頬をふくらませて美味しそうに見えた。「ちょっと休憩しよ」紀香はこの地のラクダミルクが結構好きだった。礼を言って受け取り、ストローをくわえて飲んだ。春香は唐突に聞いた。「本当は、うちの兄のこと心配してるんでしょ?」「げほっ……」紀香はむせた。少し落ち着いてから、こう言った。「別に。ただ、未亡人になれば、離婚する手間が省けるなって思ってただけ」春香は知っていた。紀香が清孝にどれだけ思いを寄せていたか。だからこそ、今の冷めた言葉に驚いた。酔わせようとしてた時、彼女は大声で言ってきたんだ。「もう清孝なんて愛してない。離婚する!」それが今や、まるで天気の話のように「未亡人でもいい」と言えるのだから——もう、本当に愛が尽きたのだろう。「紀香ちゃん、離婚したい気持ちはわかる。でも、ちょっとは手加減してよ。藤屋家には今、権力を握ってる人が必要なの」紀香は何も言わず、ラクダミルクを飲み終えてから口を開いた。「春香さん、ちょっと一人で歩きたい
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