唇が触れた。ひんやりとしていたはずなのに、彼女の瞳は一気に見開かれた。全身の力を使って彼を突き飛ばした。「何するのよ!」「君が言っただろう?チャラって」清孝は落ち着き払った声で答えた。「さっき君が俺にキスした。今、俺が君にキスした。これでイーブンだろ?」??????……!!!!紀香は、もはやどんな表情で、どんな言葉で今の気持ちを表せばいいのか分からなかった。だから——その平手打ちが清孝の頬をはじいた時、彼女自身すら何が起きたのか分からなかった。男の顔はわずかに横にずれた。清孝自身も予想していなかったようで、一瞬だけ呆気に取られ、舌先で自分の左頬を押した。顔には感情がなく、それどころか瞳にはまだ笑みの余韻が残っていた。その様子に、紀香は背筋がぞくりとした。笑わない方が、まだマシだった。「その、あれは……あなたが先に……私も別にわざとじゃなくて……あなたがあまりにも酷いから、だから……」彼女が口ごもりながら言い終えると、清孝は短く笑い、手をゆっくりと上げた。紀香は思わず身を引いたが、すぐに顔を差し出した。「叩いて。そうすればこれでお互い様。これを理由に、離婚を誤魔化すようなことしないで」そう言って、彼女はぎゅっと目をつぶった。まるで死を覚悟するかのように。だが——平手はいつまで経っても落ちてこなかった。代わりに、男の大きな掌が彼女の頬を包み込み、顔を上向かせた。その直後、荒々しく熱いキスが落ちてきた。頭が真っ白になった。呼吸が乱れ、気づけばベッドに倒されていた。かろうじて息継ぎの合間に、彼女は抗議するように声を上げた。「なにしてるのよ!叩いてくれって言っただけで、こんな……」「君を叩くなんて、俺にはできない」その言葉が、彼の深く優しい声で響いた。紀香は言葉を失った。「でも、それでも……」「君が言ったんだ、清算したいって。俺には、この方法しか思いつかない」「……」口を開こうとしたその瞬間、またもキスが落ちてきた。彼女はまんまとその隙を与えてしまった。部屋の静寂の中、水音のような湿った音だけが響いた。次第に、空気が熱を帯びていく。これはまずい、と気づいた頃には、彼のリズムに巻き込まれていた。手のひらは熱く火照り、
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