輝明は病室の入り口で足を止め、中に入ることはなかった。綿も彼を呼び止めることなく、院長に従って病室に入った。病室の中、嬌は目を腫らし、顔には涙の痕が残っていた。口は布で塞がれ、声を上げることも許されない。だが、綿の姿を目にした瞬間、彼女の脳が激しく刺激されたかのように、目玉が飛び出すほど見開かれた。その視線は綿を殺さんばかりの憎悪に満ちている。嬌は手足を狂ったように動かし始めたが、ベッドに縛り付けられたロープをどうすることもできない。手首は擦り切れて血が滲み、全身を震わせながら綿を睨みつける。その姿は見る者に緊張感を与えた。憎い。痛い。しかし、今の彼女には何もできない。涙を流すことすら自分でコントロールできないのだ。彼女は泣きたくなかった。それでも涙が止まらない。綿はベッドの傍らに立ち、嬌を見下ろして複雑な感情が胸に湧き上がる。嬌はもはや美しさを失い、傷だらけの体、引っ掻き傷のついた顔、そして自慢だった長い髪も無残に切り落とされていた。かつて愛した男はすぐ外にいるのに、中に入ることさえしない。そして、彼女が憎む女が目の前に立っている。彼女ははっきりと意識があるのに──そのまま狂いそうだった!「苦しい?」綿の静かな問いかけが響く。嬌の目が綿を睨む。苦しくないわけがない。彼女は生きている、ちゃんとした人間だ。優しい、いい人なんだ。──狂ってなんか、ない!!彼女の目は綿に向けて怒りと警告を送る。自分を解放しなければ、死ぬときに綿も道連れにしてやるとでも言わんばかりだ。「綿」輝明が控えめな声で呼びかけた。綿に軽く目をやり、「そろそろ行こう」と無言で伝えた。こんな場所、一秒たりともいたくなかった。もともと情緒が不安定だった嬌は、あの聞き慣れた男の声を耳にした瞬間、心の堤防が決壊した。体を狂ったようにのたうち回り、ベッドシーツを血で染めながらも、涙を止めることはできない。呼吸を荒げ、何かを叫ぼうとするが、声が出せない。輝明の声だ。彼が自分を見に来た?彼を見たかった。彼がどれほど冷酷なのか、自分が正常だと分かっていながら、なぜこんな苦しみを与えるのかを問いただしたかった。綿はちらりとドアの方を見た。嬌の過剰な反応を見るに、輝明のこの一言は意図的なものだとしか思え
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