「彼女はいつも他人を第一に、自分を第二に置いています」そのために、嬌が医大に入学することも叶え、何年も争うことなく過ごしてきたのだ。輝明が語るほど、天河の胸には次第に切なさが広がっていく。綿とはそういう人間だ。責任感が強く、自分のことは後回しにする。そういう人ほど、苦労が多く、神に試されやすい。天河は溜息をつき、静かに口を開いた。「もう一つある。綿はとても頑固なんだ。何事にも、ぶつかってみなければ気が済まないタイプだ。壁にぶつかっても、その壁が壊れるまで何度も挑む。壊れないと分かった時になって、ようやく引き返すんだ」輝明は再び深い自己嫌悪に陥った。その言葉の意味を十分に理解したからだ。叔父は言葉にこそしなかったが、彼には分かる。自分こそが、その「壁」なのだと。「高杉くん、実は俺だって綿ちゃんに他の相手を紹介したことがないわけじゃない。でも、彼女は君に固執してるんだ。ただ君だけが好きなんだよ」天河は苦笑いを浮かべた。「正直、俺には分からない。君のどこがそんなに良いのか、あの子が何年も君を思い続ける理由が」輝明の胸が僅かに震える。自分でも分からない。自分の何が彼女にそんなにも愛されているのか。「綿ちゃんは素晴らしい女性です。全然『ダメ』なんかじゃない。ダメなのは俺です。俺が彼女には釣り合わないんです」輝明の声には卑下の色が滲んでいた。そんな彼の姿を、天河は思わず何度も見直す。数えきれないほど華やかな輝明の姿を見てきたが、こんなに卑屈な彼を見るのは初めてだった。「君が桜井家の婿になること、俺は嬉しく思ってたよ」天河は心からそう語ったが、同時に彼を娘の夫として迎えたくない気持ちも本音だった。それでも一度思ったことがある。もしかしたら、娘の選択が正しいのかもしれない。結婚して、二人で向き合えば、全て乗り越えられるかもしれない。だが、それは自分の考えすぎだった。結婚してから、一度も輝明が桜井家を訪れることはなかったのだ。結婚したばかりの頃、桜井家は世間から笑われることも少なくなかった。「叔父さん、僕が桜井家に背負わせたものは、これから必ず返していきます。もし許されるなら、もう一度チャンスをいただけませんか?」輝明は誠実な声でそう言った。天河は首を横に振った。「君にチャンスを与えるのは俺じゃない。綿ちゃんだよ。俺
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