何かが違う。そう思えるのは、彼女の計画がもはや実行できなくなったことだった。もちろん、そんなことは口が裂けても言えない。「とにかく、余計な波風は立てたくないの。あなたが飛行機を手配してくれたんだもの、このまま行きましょう」舞子は淡々と言い切った。賢司の漆黒の瞳が、深い湖面のように彼女を射抜いた。しかし、それ以上この話題を追及しようとはしない。彼女もまた、これ以上は触れてほしくないと全身で示していた。やがてエレベーターの扉が開き、二人は並んで外へ出た。入口には車がすでに待機しており、賢司は無言のままドアを開け、舞子を先に乗せた。瀬名グループのビルを離れると、賢司が問いかける。「何を食べに行く?」スマホを手に連絡を取っていた舞子は、軽く目を上げて言った。「いいお店を知ってるわ」それは、彼女が友人たちとよく訪れるお気に入りの居酒屋だった。賢司は軽く頷き、すぐにスマホを取り出してメールの返信に取りかかる。仕事をあらかじめ圧縮してはいたが、それでもこなすべき案件は山積みだ。舞子がスマホをしまい、ふと隣を見ると、彼は変わらぬ冷静さを湛えた表情で画面を見つめていた。端正な輪郭、整った眉目。だが全体に漂う冷ややかな空気が、彼を簡単には近づけさせない。本当は悪い人じゃないのに。そんな思いとともに、舞子の視線は無意識に彼の顔へと吸い寄せられ、やがてぼんやりと見惚れてしまう。賢司はその視線に気づいていたが、止めることはしなかった。どれほど彼女が見続けるのか、少し興味があったのだ。驚いたことに、彼女は道中ずっと視線を逸らさなかった。目的地が近づいた頃、賢司はスマホをしまい、ふと顔を上げた。そこで、きらきらと澄んだ瞳と視線が交わった。「俺の顔、そんなに好きか?」「えっ?」不意に声をかけられ、舞子ははっと我に返る。自分がずっと彼を見つめていたことに気づき、思わず頬に薄い紅が差した。「まあ、確かにいい顔はしてるわね」もしこれが知らない相手だったら、惚れてしまっていたかもしれない。賢司の瞳がふっと深い色を帯び、唐突に尋ねる。「舞子、どうして急に俺の告白を受け入れた?」あまりに唐突な質問に、舞子は言葉を失った。今を楽しみたいから、と答えるべきだろうか。いや、それは言えない。まだ彼を十分に理解し
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