Semua Bab 離婚後、恋の始まり: Bab 1301 - Bab 1309

1309 Bab

第1301話

由佳:「……」めちゃくちゃ気まずい。何の関係もないのに、同じベッドで寝ているうえに、しかも抱きしめられているなんて。これ……さすがにまずいんじゃない?由佳はそっと身じろぎして、離れようとした。「動くな」景司の腕の力が強まる。呼吸もどこか荒い。近すぎる距離。彼の体の変化が手に取るように分かって、由佳の顔は一層赤く染まった。「じゃあ、離してよ」「男の正常な反応だ。知らないのか?」低く、喉の奥でくぐもった声だった。「なんで私がそんなこと知らなきゃいけないのよ」景司は彼女を一瞥し、ふっと小さく笑った。「説明は?」由佳は唇を噛み、胸の奥が熱くて言葉にならなかった。ただ、逃げ出したい一心だった。「景司、私たち……こういうの、ちょっとまずいと思うんだけど。先に離してくれない?」景司は静かに言った。「お前が昔、俺にキスしたときは、まずいかどうか考えなかったのか?」「……」まさか、そんな昔のことを持ち出されるなんて。由佳は息をのんで黙り込む。体に伝わる妙な感触を必死に無視して、しぼり出すように言った。「なんで私がここにいるのか分からないけど……でも約束する、わざとじゃないの。信じてよ」「その説明、何も言ってないのと同じだな」「私だって、したくてしてるわけじゃないし……本当にわけが分からないのよ」景司は目を閉じて低く息を吐いた。「ふむ……じゃあ俺が寝てる間に、お前は何か企んでたって解釈していいのか?」「そんなの絶対ありえない!」由佳は即座に否定した。濡れ衣を着せられるなんて、たまったものじゃない。「じゃあ、なんで俺のベッドにいた?」「……」ったく、また話が戻るなんて。どう説明しても納得されそうにない。景司に企みなんてないことを証明する方法も思いつかない。八方ふさがり。「なんか言えよ」沈黙する由佳に、景司は不意に手を伸ばし、彼女の腰の柔らかい肉を軽くつねった。「ひゃっ……!あなた、なにすんのよ!」由佳はびくりと体を震わせ、思わず身をよじった。その瞬間、景司は身を翻して彼女を押し倒した。片手で彼女の頭の横を支え、半身の重みが由佳の上にのしかかる。「な、何してるの……?」震える声。景司は由佳の怯えと羞恥を映した瞳を見つめ、
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第1302話

勢いよく振り向くと、景司が部屋の入り口に立っていた。その姿はどこか余裕を感じさせ、まるでこの状況を楽しんでいるかのように、悠然とこちらを見つめている。由佳は驚きのあまり、目を大きく見開いた。か、彼の服は……?今の景司は上半身裸で、腰に巻かれているのはバスタオル一枚だけ。それもどう見ても無造作に巻かれており、今にもずり落ちそうなほどゆるい。由佳の視線は、意志とは関係なく彼の胸筋と腹筋の上を何度も行き来した。整いすぎたその肉体に、思わず喉が鳴る。「そんなに気に入った?触ってみるか」景司は、ますます露骨になっていく彼女の視線に気づき、口の端を上げてからかうように言った。——いや、何言ってるの、この人!?待って……今はまだ電話中だった!はっとしてスマホに目をやる。風早がいつから黙ってしまったのかは分からないが、通話は切れていない。つまり、さっきのやり取りは全部……彼に丸聞こえ。まさに公開処刑。おそるおそる再び景司を見ると、彼の口元には明らかな笑みが浮かび、その表情はどこまでも愉快そうだった。……こいつ、絶対わざとだ。由佳は一度深呼吸し、震える声を抑えて電話の向こうに話しかけた。「……あの、準備しておくから。ちょっと用事ができちゃって……また後でね」「わかった」風早の声は穏やかで、まるで何も気づいていないかのように平然としていた。通話を切ると、由佳はすぐに彼を睨んだ。「わざとでしょ?」「……ああ」景司は眉を上げ、あっさりと認めた。そう。わざとやったんだ。お前ら、いったい何をする気だ?流星群を見に行く?日の出を拝む?ふーん、まるで自分をいないものとして扱っているじゃないか。一方、由佳の胸中には、言葉にできないもやが渦巻いていた。複雑な感情が混ざり合い、視線まで曖昧になる。「景司、あなたはいったい何がしたいの?」その問いに、景司はゆっくりと彼女に歩み寄った。漆黒の切れ長の瞳がまっすぐに彼女を捉え、距離を詰めてくる。由佳は思わず顔をそらし、かわりに目の前にある均整の取れた胸板を見つめた。その滑らかな曲線に、ぱちくりと瞬きをする。な、なに……?手が勝手に伸びそうになる。由佳はきゅっと拳を握りしめ、その衝動を必死に抑えた。だ
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第1303話

景司は冷たく言い放つと、くるりと背を向けて立ち去った。由佳はその場に立ち尽くし、足の裏からじわじわと冷気が這い上がってくるのを感じた。嘘つきって……どうしていつも、私のことを嘘つきって言うの?私が景司を騙したことなんて、一度でもあった?胸の奥に小さな不満と理不尽さが渦巻く。由佳は勢いよく外へ出ると、ちょうど服を着ている景司の姿が目に入った。彼女はまっすぐに景司の前へ立ち塞がり、澄んだ瞳に怒りの光を宿して彼を見据えた。「何度も『嘘つき』って言われたけど、すごく心外よ。私が何を騙したっていうの?あなたのお金?それとも心?」今日こそ、はっきり説明してもらう。でなければ、絶対にこのまま帰すつもりはない。誰だって『嘘つき』なんてレッテルを貼られたら、いい気分なわけがない。何も得ていないのに、こんなふうに言われ続けて、平気でいられる人間なんているはずがない。景司はすでにシャツを着ていて、ボタンを一つずつ留めていた。襟元は少し緩み、全身から気怠くも奔放な空気が漂っている。由佳の悔しさに滲む赤い目を見て、景司は口元を歪め、冷笑を浮かべた。「俺のことが好きだって、しつこく言ってたのはお前だろう。そのくせ、いつの間にか男の親友が増えて、今度は見合い相手までいる。俺がお前を嘘つきだって言って、間違ってるか?」景司は一歩、由佳に近づいた。呆然とする彼女の顔を見つめ、さらに言葉を重ねる。「お前の言う『好き』なんて、ずいぶん軽いな。誰にでも言えるんだろ。なら、俺が嘘つきだって言って何が悪い?」「あなた……」由佳は口を開いたものの、言葉が喉に詰まった。まさか、そんな理由だったなんて……そして次の瞬間、ふっと笑いがこみ上げた。怒りと同時に、呆れと哀しみが混じった笑いだった。景司の表情が曇る。「何を笑ってる?」由佳は深く息を吸い、静かに言った。「辰一くんはただの友達よ。風早さんは確かに見合い相手だけど、まだ友達の段階。ねえ景司、もしかして、嫉妬してるの?」その澄んだ瞳が真っ直ぐに景司を射抜く。彼の言葉も、怒りも、抑えきれない感情も、すべてを見透かすように。景司の端正な顔が一瞬強ばり、低く吐き捨てた。「馬鹿なこと言うな。お前なんかに嫉妬するわけないだろ。好きでもないんだから」「へえ」由佳は淡
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第1304話

由佳は景司に抱きしめられ、まだ体の力が抜けたままだった。潤んだ瞳で彼を見上げ、かすれた声で尋ねる。「……どうして、キスを?」景司は薄い唇を引き結び、喉仏が上下する。視線は無意識のうちに、由佳の唇へと落ちた。もともと赤みを帯びていたその唇は、先ほどのキスによってさらにふっくらと腫れ、まるで熟したさくらんぼのように艶を帯びている。摘み取られるのを静かに待つように、微かに震えていた。景司の瞳の色が深く沈み、何も言わぬまま再び身を屈める。だが、由佳はとっさに自分の口を手で覆った。「……何も言わないなら、もうキスさせない」景司は一瞬だけ目を細め、それから不意に口角を上げて笑う。由佳を抱いたままくるりと体を翻し、そのままベッドに押し倒した。「お前が好きだからだ。あんなことを言うのも、他の男と親しくしてるのを見るのも、全部嫌だ。由佳、ちゃんと聞いたか?俺はお前が好きだ」ずっと胸の奥で形にならずにいた苛立ちが、今、言葉として放たれた瞬間に輪郭を得た。声に出してしまえば、あれほど絡まっていた心のもつれが嘘のように解けていく。景司の漆黒の瞳が、真っ直ぐに由佳を見つめる。その深い眼差しを受けながら、由佳の瞳にも笑みが滲み、光が広がっていく。彼の首にそっと腕を回し、由佳は囁いた。「ええ、聞こえたわ。私もあなたが好き。嘘じゃないの、ずっと前から……」こんなの、誰が我慢できる?次の瞬間、景司はまるで獲物を逃すまいとする狼のように彼女を抱き寄せ、唇を重ねた。そのキスは荒々しく、力づくで奪い取るようで、由佳には抗うすべもなかった。「ちょっ……ちょっと、落ち着いて……」息を乱しながら、由佳は彼の胸を押し返す。彼の呼吸が熱く、体の変化が明らかに伝わってくる。景司は目を細め、低く囁いた。「なんで落ち着かなきゃいけないんだ?お前、ずっと俺のこと狙ってただろ」由佳は思わず息を呑む。それは事実ではある。けれど、面と向かってそう言われると、恥ずかしさで顔が熱くなった。瞬きをひとつして、由佳は小さく言う。「でも……風早さんと流星群を見に行って、日の出を見る約束しちゃったの」「じゃあ、断れ」「でも、もう約束しちゃったし、急に断るのは……ちょっとまずいんじゃない?」それに、ちゃんと理由を説明しな
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第1305話

舞子は目を大きく見開いた。「いつの話?」「今朝よ」舞子は何か言いたげに口を開きかけたが、結局、親指を立てて笑った。「さすがだね」由佳の胸の奥にも、その瞬間、まるで雲の上を歩いているような、ふわふわと現実味のない感覚が広がっていた。だが出かける直前、景司は彼女のうなじを軽く掴み、唇を寄せて言った。「流星群、見に行くんだろ。俺も一緒に行くよ」由佳は思わず両手で顔を覆い、その頬はさらに真っ赤に染まった。舞子は驚きながらも、心の底から由佳の幸せを喜んでいた。なにしろ、彼女は由佳と景司がどんな道のりを経て、今この場所にたどり着いたのかをずっと見てきたのだ。誤解はそう大きくなかった。けれど、景司があまりに口下手だったのが惜しかった。舞子はスマホを取り出しながら言った。「このこと、里香に教えなきゃ。前のことでまだ自分を責めてるんだから」由佳は黙って頷いた。今、彼女の頭を占めているのは、風早にどう話を切り出すかということだった。実のところ、胸の内には申し訳なさがあった。最初から、少し不純な気持ちで近づいてしまった。だが幸運にも、もうすぐ会う約束がある。やがて約束の時間が訪れた。由佳は南山でのキャンプの準備をしていたが、風早から電話がかかってきた。「由佳、ごめん。急に仕事で海外出張になってさ。流星群、一緒に見に行けなくなっちゃった」風早の穏やかな声には、どこか申し訳なさがにじんでいた。由佳は手を止め、少し目を伏せてから静かに言った。「謝るのは私の方よ。あなたに話したいことがあるの」風早は小さく息をついた。「実は、君が何を言いたいのか、だいたい分かってるよ」由佳は深く息を吸い、言葉を選ぶように口を開いた。「本当にごめんなさい。やっぱり……彼のことを諦められなかった。あなたの時間を無駄にしてしまって、申し訳ないわ」風早は微かに笑った。「大丈夫だよ。あの日、君と話した時に分かったんだ。彼も君のことが好きなんだって。由佳、君の幸せを願ってる」短い言葉を交わしたあと、電話は静かに切れた。由佳はスマホを握りしめ、胸の奥のつかえがふっとほどけていくのを感じた。風早と恋人にならずとも、こうしてきちんと向き合えたことが、何よりの救いだった。由佳は荷物を片付け、元の場所
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第1306話

「むりむりむり……!」麓に立った由佳は、悲鳴に近い声を上げた。「山登りなんてしたことないよ。初めての山登りで、私、死んじゃったりしないかな」景司は苦笑しながら、伸ばした手で由佳の頬を軽くつまむ。「これも『山登り』に入るのか?」南山は錦山市の市内にある小さな山で、標高も低い。早朝には散歩がてら登る老人たちの姿がよく見られるほどだ。由佳はその手をぴしゃりと叩き落とし、唇を尖らせて言った。「だって、登ったことないんだもん。怖いんだもん」その言葉に、景司の目がわずかに鋭くなった。「上目遣いしても無駄だぞ」「え?してないよ?」由佳はぱちぱちと瞬きをする。景司は答えず、くるりと背を向けて歩き出した。大きなザックにはすべての装備が詰め込まれており、由佳は手ぶらのまま彼の背を追うしかなかった。自分の話し方を思い返してみても、あんな上目遣いをした覚えはない。由佳は首を傾げ、頬を掻きながらその背中を追った。幸い、南山の登山道は緩やかで、石段も整備されている。息を切らしながらも、何とかついていける程度の傾斜だった。夕日がゆっくりと西に沈み、森の中は薄い霧に包まれていく。空はだんだんと群青に変わり、あたりは輪郭を失って、ぼんやりと闇に溶けていった。登山自体は思っていたほど怖くなかった。けれど、あたりが暗くなるにつれて、森の静けさと影が、次第に心細さを増していく。由佳は思わず歩みを速め、そっと景司の手を握った。景司は指先をぴくりと動かすと、すぐに手を返して、その手を包み込むように握り返した。振り返った彼は、白く美しい由佳の顔にうっすらと汗が浮かんでいるのを見て、口を開いた。「お前、運動不足だな」由佳は睨み上げながら息を整えた。「言ったでしょ、山登りは初めてだって」景司は口の端を上げ、からかうように笑った。「この程度でへばってたら、将来、俺の精力についてこられるか心配だな」その言葉に、由佳は一瞬目を見開いた。「な、なにそれ……」「何か不満か?」景司は眉を上げ、歩く速度を落としながら、にやにやと彼女の反応を楽しむように見た。山登りの疲れと恥ずかしさが入り混じって、由佳の頬は火照り、真っ赤になっていた。「もうっ……何、エッチなこと考えてるの!」景司は喉の奥で低く笑い、すぐ
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第1307話

景司はゆっくりと歩み寄った。手を貸そうと思ったが、由佳がそれを拒んだため、ただ静かに見守ることにした。本当に困っている様子を見せたときこそ、助けに行けばいい。そして今、由佳はやり遂げた。三人は余裕で入れるほどの広いテント。二人が並んで横たわっても十分な広さがあり、外の気配を完全に遮断するその空間は、不思議なほどの静寂と親密さを孕んでいた。景司は由佳の隣に腰を下ろし、彼女の手を握ると、その柔らかさを確かめるように指先でそっと揉みながら呟いた。「すごいな」由佳はたちまち目を細めて笑い、薄闇の中でわずかにぼやけて見える景司の端正な顔をじっと見つめた。もっとはっきり見たくて、そっと顔を近づける。景司は動かず、ただ彼女を見返すだけだった。由佳の瞳は深い夜のように黒く澄み、そこに星のような光が瞬いていた。景司の顔立ちは賢司によく似ていたが、彼のような冷たさはない。代わりに、その目元にはどこか気怠げな色気が漂い、長い睫毛と通った鼻筋、薄く弧を描いた唇が、すべてを余裕の笑みに変えていた。ドキドキと、心臓の音が自分でも制御できないほど高鳴っていく。それでも由佳は目を逸らさなかった。むしろ惹きつけられるように、さらに顔を近づける。視線は自然と、彼の唇へと落ちていった。「景司……」名を呼び、由佳は小さく息を呑む。「キスしたい」景司は喉の奥でくすっと笑い、低い声で言った。「お前がキスしたいと思って、できなかったことなんてあったか?」初めて出会った夜、薬を盛られた由佳は、衝動のまま彼にキスをした。だが二度目は違った。彼女の意志で、何のためらいもなく。本当に、大胆な娘だと彼は思う。由佳は小さく笑い、「そうだよ」と言って身を寄せ、景司の唇に軽く触れた。「昔、あなたと付き合ってなかったときでも、キスしたいと思ったらしてたんだから。今なら……もっと自由にできるでしょ?」景司は片手を上げ、彼女のうなじをそっと押さえた。「これだけで足りるのか?」その言葉を終えるや否や、彼は由佳が返事をする前に唇を奪った。由佳の羽のように軽いキスとは違い、景司のそれは、まるで彼女の息ごと飲み込もうとするほど激しかった。由佳は反射的に顔を仰け反らせ、しばらくの間、彼のリズムに追いつけなかった。激し
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第1308話

景司はふ、と息で笑った。「誕生日の願い事でもあるまいし」由佳は瞳をきらめかせ、唇を真一文字に結び、頑として明かそうとしない。景司は彼女の腰を抱き寄せると、くすぐったがりなその場所を軽くつまんだ。「ほら、言ってみろ」「あははは……っ」由佳は彼の腕の中で笑い崩れながらも、かぶりを振った。「言わないったら、言わない。もし叶ったら、その時に教えてあげる」その言葉に、景司は目を細め、ふと問いかけた。「その願い、俺に関することか?」由佳は息を呑んだ。どうして、この人には何もかもお見通しなのだろう。しかし、おくびにも出さず、由佳は唇を固く結んだまま首を横に振った。「言わない」由佳の頑なな様子に、景司もそれ以上は追及しなかった。鋭い眼差しで遠くの闇に浮かぶ巨岩を一瞥すると、彼はそのままの勢いで由佳の体を捕え、唇を塞いだ。「んん……」すでに彼の腕の中で脱力していた由佳は、不意の口づけに、抗う気力さえも奪われてしまう。空にはまだ流星の余韻が尾を引き、漆黒の夜空に無数の星々が瞬いていた。テントのジッパーを引き上げる音がして、外の冷気がぴたりと遮断される。由佳は暖かい寝袋にくるまり、ぱちぱちと瞬きを繰り返しながら、なかなか寝付けずにいた。テントの中は一寸先の闇で、隣からは景司の穏やかな寝息が聞こえてくる。由佳はそろりと顔を向け、闇に慣れた目に浮かび上がる彼の輪郭を見つめた。私の願い、きっと叶うよね?「眠れないのか?」彼の寝顔に見惚れていると、不意に声が降ってきた。由佳はどきりとして、狼狽気味に問い返す。「……寝てなかったの?」すっかり眠っているものとばかり思っていた。景司は寝返りを打って由佳と向き合う。その漆黒の瞳に読めない光を宿し、手を伸ばして彼女の頬を柔らかくつねった。「今すぐ寝ないと、明日の日の出、見られないぞ」「だって、今ぜんぜん眠くないんだもん」と、由佳は唇を尖らせた。目が冴えてしまって、どうしようもない。見慣れない環境のせいか、それとも、景司と二人で流星群を見上げた高揚感が続いているからか。いずれにせよ、由佳の心は昂ぶり、鎮まりそうになかった。その耳元で、景司が囁く。「眠れないなら、何か楽しいことでもするか?」由佳はびくりと体を強張らせ、暗闇の中、顔がカッと熱くなるのを感じた
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第1309話

もし時間を巻き戻せるのなら、景司に「眠れないのか」と尋ねられたあのとき、由佳はきっと目を閉じ、眠ったふりを貫いただろう。だが今となっては、どんなに悔やんでも、もう遅い。狭いテントの中は、むせ返るような熱気に満ちていた。景司の唇が雨のように由佳の顔に降り注ぎ、大きな手が彼女の手を包み込み、その動きを導いていく。由佳の頬は火がついたように真っ赤に染まり、唇を噛みしめることしかできず、見ることも、考えることもできなかった。こんなの、今までの自分じゃない。いざ本気になってしまうと、由佳はどうしようもなく怯えてしまったのだ。景司は彼女の耳元でくすくすと笑う。「お前、前はもっと大胆だったじゃないか」由佳は唇を噛んだまま、言葉を失う。「唇より、俺を噛め」囁く声は甘く、熱を帯びた息が肌を撫でた。もう、耐えられなかった。由佳の手に、思わず力がこもる。次の瞬間、景司が軽く鼻を鳴らし、容赦なく彼女の唇を甘く噛んだ。「わざとか?」「ち、違うわ……!」慌てて否定する。本当に、わざとじゃない。「よし、一度だけ許してやる。次があったら、許さないからな」低く押さえた声は脅しのようでいて、どこか艶めいていた。その響きに、由佳の全身は痺れたように震える。山頂の風がテントを揺らす。いつの間にか、由佳は眠りに落ちていた。手のひらの痺れを感じながら……景司は彼女をそっと抱き寄せ、胸の奥から満たされていくものを感じていた。由佳はキスで目を覚ました。朦朧とした意識のまま目を開けると、テントの中には淡い明かりが灯っている。彼女は軽く鼻を鳴らし、低く問う。「何やってるの?」「日の出を見るんだ」その言葉に、由佳はハッと目を見開き、慌てて起き上がった。時計を見ると、もうすぐだった。急いで服を身に着け、テントのファスナーを開ける。外の空は魚の腹のように白く、朝焼けはまだ顔を出していない。だが、この様子なら間もなくだろう。服を整えると、景司が差し出した水筒を受け取った。魔法瓶の中の水はまだ温かく、由佳の喉をやさしく潤した。彼女はまばたきもせず、東の空を見つめる。隣では、景司がカメラをいじっていた。その姿を見て、由佳はスマホを取り出し、彼に向けてシャッターを切った。空
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