「いつの間に?」舞子はドアを開け、訝しげに問いかけた。「上の階だから。シャワーを浴びていただけだ」と賢司は応じた。彼も着替えを済ませたのだろう、白い半袖シャツというシンプルな部屋着姿は、彼を何歳も若く見せていた。舞子の視線が彼の全身をなぞるように行き来し、やがて気まずそうに目を逸らすとドアを閉めた。そのまま寝室へ向かう彼女の背中に、賢司が問いかける。「主寝室ではないのか?」舞子は振り返りもせずに言い放つ。「後でシーツを替えるのが面倒だから」賢司の旺盛な精力は、舞子もよく知るところだった。一度火が点けば、何もかもが乱れ尽くすまで終わらない。だからこそ舞子は、後始末の手間が省ける客室を選んだのだ。そうすれば、翌朝は心ゆくまで惰眠を貪れる。だが、賢司は「俺は主寝室がいい」と言った。その言葉に、舞子はたちまち眉をひそめて振り返る。「我儘が過ぎるんじゃない?ここは私の家よ」賢司は冷静に彼女を見つめ返す。「嫌なら俺の家に来ればいい」そして、少し間を置いて付け加えた。「遠くはない。真上だ」舞子:「……」まったく、敵わないわ!「わかったわ。あなたの家に行く」舞子は不満を露わに踵を返し、玄関へと向かった。賢司の薄い唇が微かに弧を描いたが、すぐに真一文字に結ばれた。エレベーターの中で、舞子は少し後悔していた。どうして彼の家に行くなどと言ってしまったのだろう。自ら虎の穴に入るようなものではないか。だが、そんなことを考えている間もなく、エレベーターは目的の階に到着した。ほんの数分の出来事だった。先に降りた賢司がドアを開け、舞子を振り返った。長い睫毛が微かに震えたが、舞子は彼と視線を合わせることなく室内へと足を踏み入れた。部屋には間接照明がいくつか灯され、薄明かりが辺りを照らしている。舞子は部屋を見渡す気にもなれず、ただ、早く始めて早く終わらせることだけを考えていた。背後でドアの閉まる重い音がして、舞子の全身がこわばった。次の瞬間、その体は不意に抱え上げられた。「きゃっ」舞子は短い悲鳴をあげ、落ちまいと無意識に彼の首へ腕を回した。落ちるはずなどなかった。賢司の逞しい腕は、舞子の体を軽々と支えている。何度も肌を重ねた仲だというのに、今更ながら羞恥心がこみ上げてきた。慌てて賢司を見
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