「姉さん、入金確認できた?昨日の夜に手続きしたから、今頃には着いてるはずなんだけど」太郎が尋ねた。紗枝は通帳の新しい数字を見つめながら答えた。「ええ、確かに入ってるわ」「よかった。これからは何か困ったことがあったら、いつでも言ってくれよ。俺たち実の兄妹なんだから。血は水よりも濃いってやつさ」太郎の声には、今までにない大人びた思いやりが滲んでいた。これまでの太郎からは想像もできない態度だった。紗枝は戸惑いを感じていた。本当に太郎は変わったのだろうか?大人になったのだろうか?血の繋がった家族との絆を、紗枝ほど求めている人間はいなかった。実の弟が本気で更生する気があるなら、もう一度関係を築き直すことも考えられた。「本当に変わってくれたらいいけど」紗枝は電話を切った。もちろん、今すぐ太郎を許すつもりはなかった。あの弟は以前、金のために自分を年配の男に売り飛ばそうとしたのだから。物思いに耽っていた紗枝の前に、啓司の大きな背格好が現れた。気付かないうちに、テーブルの上に菓子の包みが置かれていた。我に返った紗枝は啓司を見上げ、テーブルの上の菓子に目を移した。どれも自分の大好物ばかり。でも、あの店は一日限られた量しか作らず、予約も受け付けていない。早朝から並ばないと手に入らないはずだった。「あなたが買いに行ったの?」「部下に頼んだ」啓司は素直に答えた。金なら有り余るほどある。必要なものは何でも手に入る。誰かに早朝から並んでもらえば、すぐに買えるのだから。「あぁ、私ったら」紗枝は自分の頭を軽く叩いた。「本当に妊婦バカね、そんな当たり前のこと聞くなんて」啓司は紗枝の言葉に、彼女の意図とは違う意味を感じ取ってしまった。自分で買わなかったことを非難されているのかと思ったのだ。実際は紗枝が自分の愚かさを呟いただけだった。啓司の財力を知っているのに、わざわざ本人が買いに行くはずがないと、そう思えばよかったのに。次は自分で買いに行こうと言いかけた啓司の言葉を遮るように、紗枝が潤んだ瞳で問いかけた。「ねぇ、人って本当に変われるのかしら?」啓司の心臓が締め付けられるような感覚に襲われた。「もちろん、変われる」紗枝の掠れた声に過去の記憶を感じ取った啓司は、身を屈めて彼女を抱き寄せた。コートの布地に包まれるよ
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