「……え?万霆、桜子は?姿が見えないじゃないか」達也はまだ諦めきれず、首を伸ばして廊下を覗いた。万霆は席に着くなり、淡々と言い切る。「見ても無駄だ。桜子は怪我してる。人前に出して座らせるわけにはいかない。しばらく家で静養させてる。今夜は来ない」「万霆、お前らしくないぞ!この前、桜子を連れてくるって約束しただろう!なんで反故にするんだ。だいたい俺たちが客って柄か?これからは家族になる仲なんだぞ!」達也はぶつぶつ言いながらも、心の中では引っかかっていた。競馬大会の前夜、彼はすでに万霆と内々に会っていた。そのときは話も弾み、万霆は隆一をえらく気に入り、「桜子を白石家の嫁にする」とまで大見得を切っていた。達也はその勢いで、健一の縁談まで頭に入れていた。喜びに喜びを重ねるために、万霆と愛子の間に生まれた娘・綾子を、健一に――そう考えたのだ。もともと綾子の生い立ちでは、健一の相手として釣り合わないと思っていた。だが今の健一は片脚を失い、贅沢を言える立場ではない。これまで見向きもしなかった綾子も、今では悪くないと思えるようになっていた。だからこそ今夜、わざわざ健一まで連れて来て、綾子と引き合わせようとしている。――それなのに。万霆は桜子を連れてこない。しかも、前よりどこかよそよそしい。隆一も興ざめしたように、暗い顔のまま黙って酒をあおった。一方、事情など知りようもない綾子は、清楚な白いレースのワンピースに身を包み、雪のように柔らかな肌が照明を受けてきらりと光っていた。ダンス専攻の彼女の、細身の体つきはすっと伸び、立ち居振る舞いも驚くほど美しい。露わになったすねは白くまっすぐで、まるで磨き上げられた彫刻みたいだった。普段は桜子の存在感が圧倒的で、綾子はどうしても霞みがちだ。だがこうして見れば、この姉妹は違う方向の美しさをそれぞれ持っているのだと分かる。健一は長く病院にいて、看護師以外の女性をほとんど見ていなかった。そんな彼が、蓮の花みたいに凛と座る綾子を目にした途端、視線が吸い寄せられた。隆一は、その健一の下心を一瞬で見抜き、口の端をつり上げて冷ややかに笑う。ご馳走と酒が並んでも、万霆はほとんど箸をつけない。食欲がないのがはっきり分かった。綾子は健一の隣に座らされた。健一は料理を取り
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