霜村冷司は電話に出なかった。和泉夕子はスマホを握りしめ、運転手にスピードを上げるよう促した。帝都の別荘では、専門医がソファに倒れ込んだ霜村冷司の頭部を診察していた。「先生、どうですか?」そばに立っていた相川涼介は、霜村冷司が帰宅した際にひどい頭痛を訴えていたため、慌てて医師を呼んだのだった。医師は診察を終えると、器具を置き、滅菌手袋を外しながら相川涼介に答えた。「霜村社長の様子から見るに、何らかの強い刺激を受けたか、ストレスによる頭痛だと考えられます」相川涼介は眉間に皺を寄せている霜村冷司を一瞥した。自分の妻を元恋人に会わせに行かせたのだ。刺激を受けないはずがない。「脳腫瘍の再発の可能性は?」「今のところ、そのような兆候は見られません。しかし、持ち込んだ医療機器では限界がありますので、念のため病院で再検査を受けることをお勧めします」そう言うと、医師は医療箱か2種類の薬を取り出し、相川涼介に渡した。「これは鎮痛剤です。痛む時に、それぞれ2錠ずつ服用してください」相川涼介は薬を受け取ると、心配そうに顔を上げた。「他に何か注意することはありますか?」「脳の手術を受けたばかりですので、食事は淡白なものにすることに加え、ストレスを与えず、そして刺激しないようにしてくださいね」霜村冷司は、和泉夕子が桐生志越の額を拭っているのを見てしまい、まさに医師の言う刺激と、それによるストレスの両方に当てはまってしまっていた。「霜村社長は、まず心穏やかに過ごすことが重要です。今は頭痛だけで済んでいますが、もしそうでなければ、今後は血圧上昇を引き起こし、脳内出血の再発リスクが高まります」相川涼介は医師の言葉を一つ一つメモした後、医師を見送り、薬と水を用意して霜村冷司に渡した。彼が飲み終えるのを見てから、相川涼介は恐る恐る口を開いた。「霜村社長、桐生さんもお身体を壊されてはいますが、社長自身も今ご病気なのですよ?奥様に桐生さんの看病に行かせるのは良いのですが、そうしたら社長のことは誰が看てくれるんですか。やはり、奥様に行くのはやめていただいたほうがいいかと......」ずっと目を閉じていた霜村冷司は、ゆっくりと目を開け、冷徹な視線を相川涼介に向けた。「少しばかりの不調だ。病気と言うほどではない」相川涼介が何か言おうと
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