翌日。小早川がオフィスに到着すると、入口の数人の清掃員のおばさんたちに呼び止められた。「小早川さん!」「どうしました?」小早川は足を止め、清掃用具を手に持っているおばさんを見て思わず口にした。「掃除がまだ終わってないんですか?」「社長が中にいるんです。私たち、怖いから入れなくて......」「社長が中に?!」小早川は自分の耳を疑った。こういうことは、北米にいた頃はよくあった。だが、時也様が華恋と結婚してからは、めったになかった。みんなで残業しているときくらいだ。「ええ、下の警備員の話では、社長は昨夜ひとりで戻ってきて、一晩中ここにいたそうです。それに、顔に傷があるみたいで......」この言葉を聞いて、小早川の心臓は一気に喉元までせり上がった。まさか......また夫婦喧嘩をしたんじゃ......?小早川はおそるおそるドアを押し開け、ソファに横たわり目を閉じている時也の姿を見つけた。よく見ると、彼の顔にはいくつかのひっかき傷や擦り傷があり、それは女性がつけたものとは思えない。「出て行け!」時也が突然声を上げ、小早川は驚いて飛び上がった。「時也様......ご無事ですか?」時也は立ち上がり、冷たい目で小早川を見つめた。小早川は思わず首をすくめた。時也がなぜ急にそんなに怒っているのか、まったく見当がつかなかった。華恋に関する出来事を思い出しながら、小早川は恐る恐る訊いた。「若奥様のことでしょうか?時也様、安心してください。あの明るい性格の若奥様なら、きっと立ち直れますよ......」時也から鋭い視線を投げかけられた小早川は、それ以上話すことができず、慌てて外に出て、商治に電話をかけた。この状況では、医者でもあり友人でもある商治に頼るのが最善だった。時也が怪我をしていると聞き、商治も驚いた。すぐに医療バッグを持ってSY支部へ向かった。商治を見るや否や、時也は横目で小早川を見た。小早川はその視線に気づかないふりをするしかなかった。商治もまた、時也の目にある拒絶を無視し、小早川を下がらせると、消毒用アルコールとガーゼを取り出して時也の傷を消毒し始めた。「その顔の傷、どうしたんだ?」時也は唇を引き結び、黙っていた。仕方なく、商治は華恋の名前を持ち出した。
Baca selengkapnya