だが、その考えが形になる前に、エレベーターが途中の階で止まり、また数人が乗り込んできた。人が増えると、当然中はさらにぎゅうぎゅう詰めになる。瑛介は軽く押されて前へと二歩進み、弥生もつられるようによろけた。次の瞬間、彼女は反射的に瑛介の腰に腕を回し、ぎゅっと抱き寄せた。二人の体はぴたりと密着し、呼吸すら感じる。頭の上から、低い笑い声が聞こえた。「最初からこうしてればよかったのにな」その調子に、弥生は思わず頬をふくらませ、彼の腰をつねた。「いったい......」瑛介は息を呑み、彼女のいたずらな手を捕まえながら、声を落とした。「やめろ。エレベーターの中だぞ」確かに、エレベーターの中は人でいっぱいだ。もうすぐ彼女の会社の階に着くというのに、これ以上騒がれたら恥ずかしい。しかも、さっきつねったときに、弥生も彼の体の反応をはっきり感じてしまった。彼女は目を瞬かせ、内心で小さく毒づいたそれ以上何も言わず、ただ静かに彼の腰に手を回したままじっとしていた。エレベーターが上へ上がる振動の中で、瑛介は小さくため息をついた。「......会社の場所を変えるか?」弥生の会社は他社と同じビルに入っており、エレベーターも一基しかない。出勤時にはいつもこうして混み合うのだ。弥生はぱちぱちと瞬きをして言った。「やめとくわ。もし変えられる余裕があったなら、きっと前にもう移転してるでしょ」記憶はなくても、当時の自分が資金の都合でこの場所を選んだことくらいは想像がつく。誰だって、本当はもっと広くて、専用エレベーターのあるオフィスを望むに決まっているのだ。すると瑛介は、当然のように言った。「でも今は僕がいるだろ。引っ越しなら手伝ってやるよ」一見、優しい申し出だが、弥生の耳には違って聞こえた。「どういう意味?」瑛介の目が一瞬だけ揺れ、唇の笑みがわずかに薄れた。彼は自分の不用意な言葉に気づいたらしい。けれど反応が速いのが彼の長所だった。数秒の沈黙のあと、軽く笑って言い直した。「つまり、お願いしてくれたら、新しいオフィスを用意してやるってことだよ」弥生は呆れたように小さく吐き捨てた。「調子いいことばかり言って」ちょうどそのとき、扉が開き、大勢の人が降りていった。一気に空間
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