もし弥生がまだ独身だったら、「うちに泊まっていきなよ」と言われた瞬間、由奈は何のためらいもなく「行く!」と即答していただろう。でも、今の弥生は既婚者で、もう一人暮らしではない。夫がいる家に気軽に泊まりに行くなんて、少しでも常識や遠慮があれば、簡単に「うん」とは言えないことだ。だから由奈は思わず視線を瑛介の方へ向けた。その様子を見た弥生が首をかしげた。「なに?なんで彼の顔を見るの?」そう言いながら、自分もつられて瑛介のほうを見やった。「もしかして、あなた反対なの?」不意に振られた瑛介は、少し困ったように眉を下げた。「......いいよ。使用人に客室を準備させとく」由奈は思わず目を瞬いた。まさか彼があっさり承諾するとは思わなかった。一方、弥生は嬉しそうに彼女に抱きつき、「じゃあ今夜、一緒に寝よ!」と笑った。由奈は苦笑しながら頷くしかなかった。「......うん」車に乗ると、弥生が由奈の隣の後部座席に、瑛介は追い出されるようにして助手席へ。彼は一人、沈んだ表情でフロントガラスの向こうを見つめていた。その瞳の奥には、押し殺したような黒い感情がちらつく。でも、弥生にとって、由奈は唯一無二の親友。それを分かっているから、文句ひとつ言えなかった。その夜、由奈は弥生の家に泊まることになった。使用人が常に掃除している客間は綺麗で、寝具もすべて新しいものに替えられていた。由奈は長旅の疲れを癒すように熱いシャワーを浴びた。お風呂から出た時、思わず固まった。自分のベッドの上に、すでに誰かが寝転んでいたのだ。「......弥生?」弥生はすでにパジャマ姿で、枕元から顔をのぞかせた。「お風呂上がった?こっち来て、一緒に寝よ」「......え?」てっきり「一緒に寝よう」は社交辞令だと思っていた。それに、さすがに瑛介が止めるだろうと思っていたのに。まさか、本当に来るとは。「どうしたの?」じっと立ち尽くす由奈に、弥生が首をかしげた。「ううん、なんでもない」少し戸惑いながらも、由奈はベッドに近づいた。彼女自身も、こんなふうに親友と寝るのは何年ぶりだろうと、心のどこかで少し嬉しさすら感じていた。ただ一つ、気になったことを口にした。「ねえ、あなたがここに来てくれ
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