大谷部長は正直に答えた。「私は藤井さんのおっしゃる通りだと思います」鈴木不動産の担当者は予想外の展開に戸惑いを隠せなかった。景一は唇の端に薄く笑みを浮かべ、穏やかな口調で続けた。「そうだな、確かに悪くない」その言葉が智美自身を褒めているのか、それとも設計のことを指しているのか、明確には分からなかった。ただ、これは小さなエピソードに過ぎず、その後の会議は順調に進んだ。設計図の修正についても問題はなく、気がつけばちょうど昼食の時間になっていた。景一が時計に目をやると、芳樹が即座に察して口を開いた。「皆さんお疲れ様でした。森社長のお誘いで、昼食をご一緒しませんか?すでにレストランの予約は取ってありますので、このまま向かいましょう」鈴木不動産の担当者は思いがけない厚遇に感激し、智美ももちろん異存はなかった。しかし大谷部長は、この昼食会が鈴木不動産や今回のプロジェクトのためではなく、特定の誰かを意識してのものだと、なんとなく感じ取っていた。それでも、森社長と一緒に食事ができることは大変な栄誉であり、誰もがすぐに荷物をまとめてエレベーターで階下へ向かった。森雄一商事のビル前で一同が運転手を待っていた。景一がふいに智美に言った。「藤井さんは私と一緒の車に乗りませんか?設計について少しご相談したいことがありますので」「はい、構いませんよ」智美は淡々と微笑みながら快く引き受けた。男女が二人だけで行動すると、どうしても周囲は微妙な空気を感じ取ってしまうものだ。しかし、当事者である二人が全く動じない様子だったため、かえって周囲の好奇心は一層膨らんでいった。ちょうどその時、智美の携帯にメッセージの通知が届いた。送信者は杉山博だった。【仕事は終わりました?】【うん、ちょうど終わったところ。これからみんなでご飯に行くから、会社に戻るのちょっと遅くなるかも】【了解。何かあったら連絡してね】【はい】智美は短いやり取りを終えて携帯をしまった。ふと視線を感じ、横目で見ると、景一がじっと自分を見つめているのに気づいた。表情は淡々としていて、何を考えているのかは読めない。智美は視線をそらすことなく、まっすぐ彼の目を見返した。二人の視線は静かに絡み合った。そのまま一、二分ほど互いを見つめ続け、運転手が車を回してき
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