「ありがとう、爺さん。本当に......ありがとう」智美は泣くような人間じゃなかった。けれど森お爺さんの無条件の優しさは、彼女の感情の堤防を崩した。ちょうどそのとき、病室のドアが外から開いた。朝食を買ってきた紀子と正孝が戻ってきたが、一緒にいたのは、森景一だった。彼も......来たのだ。三人は、うつむいて涙を拭っている智美を見つけた。そして、その隣で穏やかな目をしている森お爺さんの姿も。紀子が真っ先に声をかけた。「どうしたの、これ?」智美は慌てて涙を拭い、にっこりと微笑んだ。「大丈夫です。ただ、爺さんと昔話をしていて......」自然に話題を逸らす智美。しかし景一の視線はずっと彼女に注がれていた。男の顔は穏やかだったが、その奥の瞳には探るような色が宿っていた。彼女は、なぜ泣いていた?その考えを深める暇もなく、紀子が呼びかける。「智美、朝ごはん食べましょ」智美は立ち上がり、景一のそばを通り過ぎるとき、無意識のうちに視線の端が彼に落ちた。同じ家に住んでいるのに、病院には別々に来る。彼女は自嘲気味に心の中で笑った。こんな妻、失格だよね?智美が朝食を取るなか、森お爺さんは景一を一切見ようとせず、わざと窓の外を眺めていた。正孝が咳払いすると、ようやく景一が前へ出た。「爺さん、体調はいかがですか?」と言った。「ふん」森お爺さんは明らかに不機嫌な声で睨みつけ、挨拶どころか一切の感情を見せなかった。景一は苦笑しながら、「爺さん、怒らないで。せっかく元気になってきたんだから......」「怒らせたくないなら、今すぐ出ていけ。お前の顔を見なければ少しは落ち着く」森お爺さんは顔色一つ変えずにそう言い放ち、その表情にははっきりとした不快感がにじんでいた。景一はお爺さんにあからさまに嫌われていたが、誰も景一を庇おうとはしない。普段なら、智美が間に入ってかばっていたかもしれない。だが今日は、紀子の差し出した朝食に口を塞がれていた。「いいのよ。甘やかしちゃダメ。ちょっと痛い目を見なきゃ、反省しないんだから」智美は本当に、何も言わなかった。朝食を食べ終わると、森お爺さんは言った。「ほら、お前らはもう自分の用事に戻りなさい。こいつが『孝行したい』って言うなら、望み通り付き合わせてやるさ」智美が森お爺さんを見ると、お
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