翌日、美羽はいつものように出勤した。保温ボトルを手に給湯室へ向かい、お湯を注ぎながら一息ついた。この日はまだ業務が正式に始まる前で、美羽はキャビネットにもたれながら携帯を取り出し、電話をかけた。翔太が彼女の母親について触れた日から、美羽は落ち着かない気持ちで過ごしていた。そして、2日間かけて家族の昔の隣人の連絡先を探し出し、思い切って電話をかけた。「もしもし、どちら様ですか?」電話の向こうで声がした。美羽は答えた。「千歳おばさん、私、美羽です」「あら、美羽じゃない!どうして私の番号を知っているの?」「以前、メモしていたんです」「それで、今日はどうしたの?何か用事かしら?」「おばさん、まだ私の両親とお隣同士ですか?最近の様子をご存じですか?」千歳おばさんは少し驚いたように言った。「いや、もう引っ越して随分経つわよ。今は息子夫婦と一緒に住んでいるの。だから、最近のことは全然知らないの。最後に会ったときは元気そうだったけどね」美羽はがっかりした。「そうなんですね」「美羽、彼らのことを知りたいなら、どうして直接電話しないの?確か遠くで働いているって聞いたけど、ずっと帰っていないの?」「電話したんです。でも、番号が変わったみたいで繋がらなくて……」「え?番号を変えるなら、普通は娘には知らせるでしょうに……じゃあ、今の番号を教えるから、直接かけてみたら?」美羽は感謝の意を込めて言った。「ありがとうございます、おばさん」番号をメモし、美羽はすぐにその番号にかけた。2コール目で電話が繋がり、聞き慣れた女性の声がした。「もしもし?」その瞬間、美羽は思わず電話を切った。「……」それは紛れもなく、彼女の母親の声だった。美羽は唇を強く結び、携帯をしまった。そして、キャビネットの上からティーバッグを取り出し、保温ボトルに入れた。自動給湯機のボタンを押すと、熱いお湯が注がれ、お茶の香りが立ち上がった。その香りとともに、彼女の記憶も揺れ動いた。3年前のことだった。翔太に従うことを決めた美羽は、彼から6000万円を手渡され、それを家の借金返済に充てるよう指示された。さらに、翔太が手配した車で実家に送り届けられた。両親が美羽を見た最初の反応は、「昨晩どこに行っていたのか?」や「何があったのか?」と尋ねることではなく、彼女
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