九条薫はなんも言わなかった。父親の話を聞いても、藤堂群は気にしなかった。今は陣内蛍がいる。子供の母親も自分と一緒だ。あとは時間の問題だけだ。......午前9時半、藤堂群は会社へ向かった。定例会議の後、藤堂群はオフィスに戻り、溜まった仕事を片付けた。昼近くになると、スマホを手に取り、しばらく弄んでから、陣内皐月に電話をかけた。陣内皐月はすぐに電話に出たが、電話が繋がっても互いに沈黙した。しばらくして、藤堂群が静かに言った。「明日のお昼、迎えに行く。家で食事をしよう」向こうが口を開く前に、彼は続けた。「親戚も来る」陣内皐月は黙っていた。実は彼女は、自分がどんな立場で行くのか、小林冴和も来るのか聞きたかった。しかし、藤堂群に何度も失望させられた陣内皐月は、そんな質問をする勇気がなかった。藤堂群は彼女が何も聞かないので、特に説明もしなかった。電話はすぐに切れた。昨夜はお互いに熱い抱擁を交わし、深く見つめ合ったのに、今はまるで他人同士のようだった。陣内皐月が電話を切ると、秘書の松本志音が深刻な顔でノックして入ってきた。「社長、大成グループは依然として、わが社の買収を狙っています。どうやら、強硬手段に出る可能性もあるようです」陣内皐月は椅子に深く座り、松本志音を見上げた。「大成グループの横山社長に連絡して。今夜7時に食事に誘うと伝えて」松本志音は頷いて出て行った。松本志音が出て行くと、陣内皐月は額に手を当てた。頭が痛かった。ここ2年、彼女の会社は新エネルギー分野に進出し、重要な国際特許をいくつか取得していた。大手企業である大成グループもこの分野に進出したいと考えていたが、新しい部門を立ち上げるには莫大な費用と時間がかかる。このような企業にとっての最善策は合併と買収だった。陣内皐月は買収されたくなかった。彼女は大成グループの社長・横山成一(よこやま せいいち)と話がしたかった。......夜になり、街に灯りがともり始めた。藤堂群は夕方6時に退社し、車で藤堂邸へ戻る途中、九条薫から電話を受けた。陣内蛍にミルクを買ってきてほしい、陣内蛍は夜、特定の銘柄のミルクじゃないと飲まないと言っている、とのことだった。藤堂群は快諾した。彼は快諾しただけでなく、父親としての喜びを感じていた。6時半、藤堂群はシ
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