All Chapters of はじめまして、期間限定のお飾り妻です: Chapter 141 - Chapter 146

146 Chapters

141話 焦るルシアン

――翌朝7時「ルシアン様! 起きてらっしゃいますか!」リカルドがノックもせずにルシアンの寝室に飛び込んできた。「あぁ、勿論起きている」既にルシアンは着替えを済ませていた。「大変です! 今朝の新聞ですが……!」リカルドの手には新聞が握りしめられている。「分かっている。俺とベアトリスのゴシップネタが記事に載っているのだろう?」苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべるルシアン。「そ、それだけではこんなに驚きませんよ! ご覧下さい!」リカルドは手に丸めて持っていた新聞をルシアンに差し出した。「他に何が書かれているんだ?」新聞を広げたルシアンの顔がみるみる内に青ざめ……震え始めた。「な、な、何なんだ……! 歌姫、ベアトリスの秘密の恋人。マイスター伯爵。2年の遠距離恋愛の末……ついに婚約だと……!? くそっ!! 何処の新聞社だ! こんないい加減な記事を載せるなんて!」ルシアンは新聞を破り捨てようとして、リカルドに止められた。「落ち着いて下さいルシアン様! この新聞社だけでは無いのですよ! 他に5社の新聞社が同様の記事を載せているのですから!」「な、何だって!?」「しかも、ベアトリス様のインタビューまで掲載されています。今年中には結婚予定だと書かれていましたよ。……お読みになりますか?」「いや、いい。心臓に悪そうだ。くそっ……! ベアトリスが後悔することになると言ったのは……このことだったのか」青ざめた顔で頭を抑えるルシアン。「た、大変です! ルシアン様!」そこへフットマンが部屋に飛び込んできた。「今度は何だ!?」「マ、マイスター前当主様から……お電話が入っております……その、大変激怒されているようなのですが……」「まさか……もう、『ヴァルト』にまで情報がいっていたのか……?」ルシアンは呆然と立ち尽くすのだった――****同時刻。既に起床していたイレーネは用意された服に着替え終え、髪をとかしていた。その時……。――コンコンイレーネのいる客室の扉がノックされて、声が聞こえてきた。『イレーネさん、お目覚めでしょうか?』「ケヴィンさんの声だわ」イレーネは立ち上がると、すぐに扉を開けに向かった。「おはようございます、イレーネさん」扉を開けると、すぐにケヴィンが挨拶してきた。「おはようございます。ケヴィンさん」「その洋
last updateLast Updated : 2025-05-09
Read more

142話 その頃のイレーネ

「おはようございます。昨夜はお世話になりました。伯爵様、奥様」ダイニングルームに入ると、イレーネはケヴィンの両親に丁寧に挨拶をした。「良く眠れましたかな?」「まぁ、イレーネさん。その服、良く似合っていらっしゃるわ」ケヴィンの両親が穏やかに話しかけてくる。「はい、素敵なお部屋でした。それにお洋服を用意して頂き、大変感謝しております。本当にありがとうございます」「どうぞ、イレーネさん」ケヴィンが椅子を引いてイレーネに勧める。「ご親切にありがとうございます」そんな様子を微笑ましげに見つめるケヴィンの両親。ケヴィンもイレーネの隣に座ると穏やかな朝食が始まった。2人はイレーネについて根掘り葉掘り尋ねてくることはなく、それがとてもありがたかった。(きっと、ケヴィンさんが事前に何か御両親に話されていたのかもしれないわね)イレーネは隣で食事をするケヴィンに心の中で感謝する。やがて食事が終わると、イレーネはケヴィンに尋ねた。「ケヴィンさん、本日もお仕事があるのですか?」「ええ、ありますよ。今日は9時から駅前交番に勤務です」「そうですか……駅まではどのようにして行かれますか?」「馬に乗っていきますけど?」「それなら、私も乗せていただけないでしょうか?」その言葉に夫人が会話に加わってきた。「イレーネさん。駅に行かれるの?」「はい、汽車に乗るつもりです」何処にも行くあてが無かったイレーネは『コルト』に戻るつもりでいた。ベアトリスが『デリア』にいる以上、もうここにいてはいけないと思ったからだ。(最後に……直接、皆さんの顔を見て挨拶をしたかったけど、それは無理ね。私はもうマイスター家とは無関係になってしまったのだもの。リカルド様との契約書は後で郵送にしましょう)「イレーネさん。本気ですか?」イレーネの言葉にケヴィンが真剣な眼差しを向ける。「汽車に乗って何処へ行くつもりなのだい?」「自分の故郷に帰るつもりです。……待っている人がいるので」本当はそんな人はいない。イレーネはひとりぼっちなのだから。けれど、親切なケヴィンと彼の両親を心配させたくは無かったのだ。「待っている人というのは誰かね?」伯爵が尋ねてくる。「はい、私の祖父です」(お祖父様のお墓は『デリア』にあるもの。待っている人と答えても大丈夫よね……)「そう。お祖父様が待
last updateLast Updated : 2025-05-10
Read more

143話 お別れ

 ケヴィンに連れられて、家に到着したイレーネは持ち物整理を行っていた。「これは、私の私物だったわね……」結局イレーネが『コルト』からこの家に持参してきた持ち物は1着の着替えと、祖父からの誕生プレゼントの本一冊のみだった。「後は全てマイスター家で買っていただいたものだから……私の物ではないものね」小さくため息をつくと、イレーネは改めて周囲を見渡した。カーテンにテーブルクロス、クッションカバー……家の中は全てイレーネの好きなもので溢れていた。この家を自分のお気に入りの場所にするために、足繁く通ってインテリアを整えていた日々が今では夢のように感じられる。それだけではない。この町で新しく出来た女友達を招いてお茶会を開いたことや、リカルドと一緒に部屋の片付けをしたことも楽しい思い出だった。そして……。「ルシアン様……」ルシアンはこの家にあまり寄りたがらなかったが、それでもほんのわずかでも一緒に過ごした出来事が脳裏に浮かぶ。特に、嵐の夜……。怖くて怖くて泣きながら震えていたイレーネのもとに、びしょ濡れになりながら駆けつけてくれたルシアン。大きな腕で抱きしめてくれた、あの夜の記憶は今も鮮明に残っている。あんなに安心感を得られたのは、あの日が初めてだった。ずっと、この腕の中にいられたらと密かに願う自分がいた。けれど、いつかはルシアンの元を離れなければならない。だからあえてこれは契約だと今まで、イレーネは自分に言い聞かせてきたのだ。「駄目ね。私って……本当に欲が深くなってしまったのね……これでは天国のお祖父様に叱られてしまうわね」イレーネの目から、ポロリと大粒の涙が落ちる。その時。「イレーネさん……」外で待っていたはずのケヴィンの声が背後で聞こえてきた。「あ、は、はい! ケヴィンさん」慌ててイレーネはゴシゴシと目を擦ると、笑顔で振り返った。「すみません……外で待っているつもりだったのですが、イレーネさんのことが心配で……入ってきてしまいました」申し訳なさそうに俯くケヴィン。「い、いえ。大丈夫です。すみません、もう終わりました。お待たせして申し訳ございません」イレーネは足元に置かれた小さなボストンバッグを手にした。「イレーネさん。もしかして荷物は……それだけですか?」「はい、そうですけど?」「でも、まだ沢山荷物が残ってい
last updateLast Updated : 2025-05-11
Read more

144話 それぞれの思い

 8時半――イレーネとケヴィンは『デリア』の駅前に到着した。ケヴィンに馬から降ろしてもらい、荷物を手渡されるとイレーネは笑顔でお礼を述べた。「ケヴィンさん、短い間でしたが本当に色々お世話になりました。どうか、お元気で。警察官のお仕事も頑張って下さいね」「イレーネさん……」すると思い詰めた表情でケヴィンはイレーネを見つめる。「どうかしましたか?」「……行かないで下さい」「え?」以外な言葉にイレーネは驚いた。「昨夜、あんなことになって……『デリア』に残りたくない気持ちは分かりますが……どうか、お願いします」ケヴィンの顔はどこか苦しげだった。「あの……何故でしょうか?」イレーネはケヴィンが何故自分を引き留めようとしているのか分からなかった。するとケヴィンは一歩イレーネに近づいた。「不謹慎なのは分かっています。……こんなことを言われても迷惑に思われるかも知れませんが……僕はあなたに惹かれています。いや、違うな。イレーネさんが好きです。多分、初めて会ったときから」「ケヴィンさん……」思いもしない告白にイレーネの目が見開かれる。「イレーネさんにはもう、婚約者はいないのですよね? もし……少しでも僕のことを受け入れてくれる気持ちがあるなら、どうか……故郷に帰らないでいただけませんか? お願いです」ケヴィンはイレーネに頭を下げてきた――****「……はい。必ず対処します……はい。分かっています。……失礼いたします」ため息をつくと、ルシアンは電話を切った。「伯爵様は何と仰っておりましたか?」その様子を見ていたリカルドが尋ねる。「激怒していたよ。一体どういうことだとね。ベアトリスのことは誤解だと説明したら、早急に解決しろと言われた」「そうでしたか。当主の件は何と言われましたか?」「今更取り消しは出来ないが、ベアトリスの件を解決出来なければ、考え直す必要があると言っていた」「そうでしたか。それでは私はこれからブリジット嬢の御自宅へ伺ってみます」リカルドは上着を羽織った。「すまないな。……だが、本当にイレーネはブリジット嬢の家にいるだろうか……?」「さぁ、こればかりは伺ってみなければ分かりません。では今から行ってまいります」「頼む、俺はこれからベアトリスと話をつけてくる。先ずは、彼女が何処のホテルに泊まっているか調べないと…
last updateLast Updated : 2025-05-12
Read more

145話 説明する人、憤る人

「あ! いらしたぞ!」「マイスター伯爵だ!」「伯爵! お話聞かせて下さい!」「ベアトリス様と結婚されるのですか!」記者たちはルシアンが門に近付くと、一斉に質問を始めた。そこでルシアンは声を張り上げた。「皆さん! 落ち着いて下さい! こんなに大騒ぎされては話も出来ません!」するとルシアンの声に記者たちは一斉に静かになる。「よろしいです、皆さん。落ち着かれましたね。ではお話いたしましょう……」そしてルシアンは真実を全て語った。2年前まではベアトリスと恋人同士であったこと。しかし、本格的なオペラ歌手を目指したいからと、手紙だけで一方的に別れを告げられたこと。それからずっと音信不通だったが、今回昨夜のレセプションで偶然再会したこと。そして、ベアトリスが一方的に自分の婚約者だと言ってきたこと全てを。すると次々と記者達が質問を投げかけてきた。「では、世界の歌姫の婚約者ではないということですか?」「ええ、当然です。彼女が『デリア』に来ていることを昨夜初めて知ったくらいですから」「2年前から、本当に一度も連絡をとりあっていなかったのですか?」別の記者が尋ねてくる。「勿論です。こちらは彼女が何処にいたのか、知りもしなしなかったのですから。それどころか、こちらは大迷惑です。第一私にはもう、かけがえのない女性がいます。ですが、相手は一般人なので口にすることは出来ませんが」その言葉に記者達がざわつく。「わざわざご足労いただき申し訳ありませんが、私の口からこれ以上皆さんに伝えることはありません。とにかくはっきり申し上げますが、私とベアトリス令嬢はとっくに終わった仲です! もうこれ以上関わるつもりは一切ありません! ですが……歌姫として、今後の活躍を期待しています。……以上です」ルシアンは笑顔で記者たちを見渡した――**** 一方、その頃――「何ですって!? イレーネ嬢はこちらにいらしていないのですか?」ブリジットの屋敷のエントランスにリカルドの声が響き渡る。「ええ、そうよ。生憎イレーネさんは来ていないわ」「そうですか……」肩を落とすリカルドに、ブリジットが苛立ち紛れに言い放った。「それにしても、一体これはどういうことなの!? ルシアン様の婚約者があの歌姫のベアトリスだなんて!」ブリジットは丸めた新聞紙を手に、憤っている。「はい、
last updateLast Updated : 2025-05-13
Read more

146話 イレーネの気持ち

「何だって!? イレーネはブリジット嬢のところにいなかったというのか!?」書斎にルシアンの声が響き渡る。「はい、そうです。ブリジット様の様子を見る限り、とても嘘をついているようには思えませんでした」項垂れながらリカルドが説明する。「そ、そんな……!」頭を押さえて、椅子に座り込むルシアン。「ルシアン様……」「くそっ! 友人のところへ泊まると言っていたが……一体、イレーネは誰の家に泊まったんだ!?」頭を抱え……ルシアンは改めて激しく後悔していた。(そうだ。こんなことになってしまったのも……全て俺が原因だ。あまりにもイレーネに感心を持たなさ過ぎたから……いや、違う。彼女のことはずっと意識していた。ただ、自分が彼女に惹かれていることを認めたくなかったからだ……! ベアトリスの件で、俺はすっかり女性不信になっていたから……!)「いかがいたしますか? ルシアン様……」「……こちらでも彼女の捜索は続けるが、連絡が来ることを信じて待とう。それで、リカルド。あの件はもう済んだか?」「はい、滞りなく手続きは終わりました」「そうか、ありがとう。とりあえず、リカルド。お前は引き続きイレーネの捜索にあたってくれ。俺は、昨夜レセプションで挨拶出来なかった取引先相手達と会わなければいけない。昨夜の件で、機嫌を損ねてしまった取引先相手が何人かいるんだ。気が重いが、これだけは避けて通れなくてな」ためいきをつくルシアン。「承知いたしました。とりあえず、昨夜レセプションが開催された会場に足を運んで聞き込みをしてまいります」「ああ、頼む。俺も取引先周りが終わり次第、イレーネを捜索する」そしてルシアンとリカルドは、それぞれ行動に移った……。**** その頃、イレーネは乗客の殆ど乗っていない三等車に乗っていた。「……ごめんなさい、ケヴィンさん……」そしてケヴィンとの会話を回想した――『イレーネさんにはもう、婚約者はいないのですよね? もし……少しでも僕のことを受け入れてくれる気持ちがあるなら、どうか……故郷に帰らないでいただけませんか? お願いです』イレーネに頭を下げてくるケヴィン。(ケヴィンさんは、とても親切で穏やかな方だわ。それにとても誠実な方だし……だけど、私は……)イレーネは自分の正直な気持ちを告げることにした。『ケヴィンさん、お顔を上げていただけ
last updateLast Updated : 2025-05-14
Read more
PREV
1
...
101112131415
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status