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社長夫人はずっと離婚を考えていた のすべてのチャプター: チャプター 771 - チャプター 780

786 チャプター

第771話

その時、優里は家族と一緒にいた。海斗が近づいた時、ちょうど美智子がこう言うのが聞こえた。「優里ちゃん、生田博士とはもう話したの?どうだった?うまくいったの?」優里が口を開く前に、結菜が嬉しそうに割り込んだ。「さっき、生田博士と彼の友人たちがお姉ちゃんのことを褒めているの、見なかった?きっとうまくいったのよ、ね、お姉ちゃん!」正雄と佳子は何も言わなかったが、二人とも笑顔で優里を見つめ、彼女の返事を待っていた。優里も上機嫌で、笑いながら言った。「生田博士の話の感じからすると、多分大丈夫だと思う」優里の答えを聞いて、結菜は興奮しながら叫んだ。「キャー!!!やっぱり、お姉ちゃんなら絶対できるって分かってたわ!」彼女は以前、生田博士の弟子になることが何を意味するのかよく分かっていなかった。生田博士の業界での地位や、彼の教え子の何人かが業界の最前線で活躍し、リーダー的存在となって、その影響力が礼二をはるかに超えていることを知るまでは。だから結菜としては、もし優里が本当に生田博士の弟子になれたら、そう遠くないうちに礼二以上に活躍して、彼よりずっと稼げるようになると思っていた。そんなふうに考えれば、興奮せずにいられるはずがない。美智子や佳子、正雄たちも同じように考えていた。佳子も笑みを浮かべ、優里の手を優しく包むように叩いた。「生田博士は、厳しく指導されるって聞くわよ。これからが本番なんだから、博士の期待を裏切らないようにしっかり励みなさいね」優里は微笑んだ。「分かってるわ」——自分はこのチャンスを絶対に掴むわ。他の誰よりも、この機会を絶対に手放したくないという強い思いが自分にはあるから。そう思いながら、優里は少し離れた場所に佇む玲奈へと視線を向けた。玲奈はたしかに自分より一足先に名を上げた。だが、この先のことはまだ分からない……結菜がその視線を追い、彼女が玲奈を見つめていることに気づくと、フンと鼻で笑って言った。「あいつには、今のうちにせいぜい得意がらせておけばいいのよ。お姉ちゃんが本当に生田博士の弟子になって、ちゃんとした成果を出したら、その時こそ盛大に鼻を明かしてやろうじゃないの!そうなれば、あいつも二度とあんな偉そうな顔はできないんだから!」美智子も胸のすくような思いで、深く相槌を打った。「本当にその通りよね」一方、傍らにいた海斗は、優里や
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第772話

生田博士たちが礼二と玲奈の姿が見えないことに気づくと、人を伝って二人を呼び寄せた。彼は礼二と玲奈に微笑みかけ、「今忙しいか?もし時間があるなら、私たちと少し話をしないか?」と声をかけた。礼二はビジネスライクな笑みを浮かべ、「もちろんです」と応じた。そう言い終えると、彼は智昭と優里にちらりと視線を送り、誰も気づかないほど僅かに唇を歪めた。玲奈も当然、智昭と優里の姿に気づいていたが、その表情には微塵も動揺はなかった。礼二が視線を向けた際、智昭は軽く二人にうなずき、挨拶を交わした。礼二の笑みは一瞬こわばったが、すぐに作り笑いを浮かべて会釈を返した。生田博士は、智昭が既婚者であることは知っていたが、その相手が誰なのかまでは把握していなかった。何しろ、彼は大半を海外で過ごしており、首都へ足を運ぶことは滅多になかったからだ。互いに挨拶を交わす様子を見て、生田博士は礼二と智昭の間に流れる微妙な距離感を一目で見抜いた。彼は特に深く考えることもなく、面白そうに尋ねた。「長墨ソフトと藤田グループは、もうそれなりに長く組んでいると聞いているが、どうして君たちは、まるで接点がないかのようによそよそしいんだい?」生田博士から見れば、礼二も智昭もAI分野における若き天才であり、年齢も近い。気の合う友人にならないまでも、今のように互いを他人のように遠ざける理由が分からなかったのだ。周りの人間は、それまで智昭と礼二の関係など特に気に留めていなかった。しかし、生田博士にそう指摘されると、確かに普段から滅多に交わろうとしないことに、誰もがハッと気づかされた。礼二は意味深な視線を一瞬智昭に走らせ、すぐに取り繕うような苦笑いを浮かべた。「長墨ソフトと藤田グループの提携は確かに長く続いていますが、私たちが普段やり取りをするのは現場のエンジニアの方々ばかりですから。藤田社長と直接お顔を合わせる機会はほとんどありませんので……」礼二がそう弁明すると、智昭も静かに笑みを浮かべ、まるでその言葉に同意しているかのように振る舞った。生田博士はそこでようやく合点がいった。玲奈も優里も、沈黙を保ったままだった。玲奈は智昭を見ることも、優里に目を向けることもなかった。しかし、優里の方は、玲奈たちが近づいてきたその瞬間から、張り詰めた神経を尖らせていた。玲奈は一瞥もくれないというのに、優里の
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第773話

あの父娘が立ち去ると、宗介は淳一の胸を軽く小突きながら言った。「さっきの子、顔も性格もドンピシャで君の好みそうだったじゃん。ほんとにいいのか?」淳一は眉をひそめ、「余計なお節介だ」と冷たくあしらった。宗介は心から淳一の身を案じていた。彼は思わず優里と智昭のいる一角へ視線を走らせると、声を潜めて続けた。「このままじゃ埒が明かないだろ。藤田社長が浮気したとはいえ……あいつ、何だかんだ大森さんを大事にしてるし、そう簡単には別れそうにない。二人が別れない限り、お前はずっとこうして影から見守り続けるつもりなのか?」淳一も優里の方へ目を向けたが、すぐに視線を戻して淡々と言った。「待ってなどいない」宗介は言葉に詰まった。「よく言うわ」と、彼は心の中で毒づく。もし優里が本当に智昭と別れでもしたら、この男は間違いなく真っ先に飛びつくだろうに。宗介はさらに畳みかけた。「いっそのこと、藤田社長の浮気の証拠を直接彼女に突きつけたらどうなんだ?君の口から言いづらいなら、匿名で大森さんのメールに写真を送りつければいい。その後どうするかは、彼女が決めることだろう。でもさ、大森さんみたいな女なら、藤田社長の浮気を知ったら、それこそ未練なく一発で別れるかもしれない。そうなれば、君にチャンスが回ってくるんじゃないか?」淳一は何も言わなかった。宗介は喋れば喋るほど名案に思えてきたのか、興奮気味に瑛二に同意を求めた。「君もそう思うだろ?」瑛二の視線は、ずっと少し離れた場所にいる玲奈に釘付けになっていた。声をかけられてようやく視線を戻すと、静かにうなずいた。他のことはともかく、智昭の浮気を優里に知らせるという一点においては、確かに悪くない一手だと思ったのだ。実は、その方法なら淳一もとっくに思いついていた。それでも行動に移せなかったのは、優里が智昭を深く愛しているのを知っていたからだ。下手に真実を告げれば、彼女が傷ついてしまうのではないかと恐れていた。何より、智昭の浮気相手が、あの玲奈だ。だが、もし本当に優里が知ってしまったら……宗介も彼の葛藤を察し、ため息をつきながら言った。「ずるずる引きずるより、早めにけりをつけたほうがましだ。たとえ後から写真を送ったのがお前だとバレて、弱みに付け込むためだったと軽蔑されたとしても、そもそも悪いのは浮
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第774話

瑛二は少し離れた場所にいる玲奈を見つめ、ボソッと「それはないな」と否定した。実は、彼自身もその可能性について考えたことがあった。何しろ、玲奈が離婚の手続きを進めていると本人から聞いてから、すでに半年以上経っているのだ。おまけに、自分や翔太、そして辰也に対しても、玲奈は一貫して拒絶的な態度を取ってきた。極力自分と関わるのを避けるような素振りを見ると、誰かに心を開き、新たな恋を始めるなどとはこれっぽっちも考えていないように思えた。その頑なな態度こそが、彼女が未だに離婚寸前の夫に対して、どこか未練を抱いている証拠のようにも見える。まだあの結婚生活に囚われ、完全に立ち直れていないのではないか……だからこそ、宗介たちの言う「玲奈が突然離婚を取り消す」というシナリオも、十分にあり得ることだと瑛二は考えていた。この懸念について、彼も以前わざわざ礼二に探りを入れたことがあった。だが、礼二の返答はきわめて明快で、二人が離婚することはもはや既定路線であり、これほど長引いているのは、次から次へと予想外のトラブルが舞い込んでいるからに過ぎないというものだった。何はともあれ、離婚という決断においては、夫婦ともに意志は固く、揺るぎないものらしい。瑛二がそこまで確信を込めて断言しても、淳一と宗介はにわかに信じられない様子だった。宗介は小さく咳払いをすると、たまらず口を開いた。「なあ、瑛二。もしかしてだけど、その女に騙されてるんじゃないか?」宗介の目から見れば、いつまでも離婚が成立しないなどというのは単なる言い訳にすぎず、実際はその女と夫の仲は冷え切ってなどいないのではないかと思えた。すでに離婚しようとしていると嘘をついて、瑛二を都合よくキープしているだけではないか、と。瑛二は、宗介と淳一の表情を見ただけで、二人が何を疑っているのか容易に察しがついた。彼は自嘲気味に小さく笑った。「考えすぎだよ。彼女はそんな女性じゃない」宗介がさらに反論しようとした時、瑛二はわずかに体を傾け、その視線を再び玲奈へと向けた。「彼女はずっと私を拒絶し続けているし、思わせぶりな態度で希望を持たせるようなこともしない。私が勝手に片思いしているだけなんだ」宗介は目を丸くし、「は?」と間抜けた声をあげた。淳一も驚きを隠せない様子で瑛二を見つめた。しかし、事実がそうであればあるほど、彼らの野次馬
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第775話

しかし、淳一はじっくり考える暇もなく、いきなり宗介から声をかけられた。「そういえば、大森さんが生田博士の弟子として、彼の下で研究に従事するらしいんだ」「え?まじで?」淳一はびっくりした。「俺もさっき、瑛二とお見合いしたあの栗城さんと、大森さんの従妹が話している内容を小耳に挟んだんだ。ついさっきも、生田博士と大森さんが二人きりで話していたらしくて、大森さんはかなり気に入られたみたいなんだ。もうほぼ確実に決まった話だってさ」海斗と同じく、淳一もつい先ほど、生田博士と智昭、優里の三人が人混みから離れて話し込んでいるのを目にしていた。ただ、その時は彼らが何を話しているのかまでは分からなかった。今宗介の話を聞いて、ようやくすべての点と点が結びついた。宗介はAI業界には詳しくないが、生田博士の弟子になることがどれほどの価値を持つかはよく知っていた。彼は思わず口にした。「大森さんやるじゃないか!もしこれが本当だとしたら、将来は相当明るいものになるぞ」淳一は小さく笑みを浮かべ、優里の方へと視線を向けながら、心から彼女のことを喜んだ。「彼女はもとから優秀だからな」一方、別の場所では。生田博士が玲奈と礼二を呼び寄せたものの、彼は終始玲奈と積極的に話し込んでいた。礼二はその様子を見ていた。生田博士が他の人と話している隙に、彼は少し顔を寄せて玲奈に低い声で言った。「生田博士は……お前を引き抜こうとしてるんじゃないか?」玲奈は一瞬言葉を詰まらせた。「うん、そんな感じがする……」彼女自身も、薄々同じような空気を感じ取っていた。実際、そう感じていたのは彼ら二人だけでなく、優里を含めた周囲の人間も同じだった。ただ、他の人たちと違って優里が気づいていたのは、生田博士が玲奈を引き抜くというよりは、むしろ玲奈を自分の弟子にしたがっているのではないか、ということだった。そう考えると、優里は手にしたグラスをきつく握りしめ、足元がふらつきそうになった。しかし、そもそも玲奈はすでに真田教授の直弟子なのだから、今さら生田博士に乗り換えることなどあり得ないと思い直すと、優里は心の中でホッと一息ついた。それはそうと、さっきからこれだけ長い時間話し続けているというのに、生田博士の関心はほぼ玲奈にばかり集中しており、自分のことはまるで視界に入っていないようだった。つまり、たとえ生田博
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第776話

ちょうどその時、文人がある人物を連れて、玲奈と礼二のもとへやって来た。文人は礼儀正しく、「湊さん、青木さん。私の友人がお二人と少しお話がしたいようなのですが、今お時間はございますでしょうか?」と聞いた。文人のその友人もAI業界に詳しく、海外でも名が知られている。玲奈と礼二は生田博士との話を終えると、文人の友人と握手を交わし、丁寧に挨拶をした。その友人は、栗城グループのクライアントでもあるため、文音も付き添いとして同行していた。彼女は文人のそばにいたが、自らは口を開かず、玲奈に向ける目には嘲笑の色が浮かんでおり、隠そうともしなかった。だが、玲奈は特に気にしていなかった。先ほど、玲奈と礼二、智昭、そして生田博士らが話し合っている間、翔太はその会話には加わっていなかった。今、玲奈と礼二が話し終えたのを見て、尚且つ玲奈のグラスがもうすぐ空になることに気づくと、翔太は文音の視線を気にも留めずにウェイターを呼び止めた。玲奈の好みに合わせた飲み物を用意させると、翔太は彼女のもとへ歩み寄ってグラスを受け取るよう合図した。玲奈は一瞬ためらい、「ありがとう」と礼を言った。翔太は優しく微笑み、それ以上は何も言わずに、彼女の空のグラスをそばにいたウェイターのトレイへと置いた。それを見た文音は一瞬動きを止め、翔太の方を見た。翔太は彼女の視線に気づいていたが、見向きもぜす、玲奈にだけ注意を向けていた。その様子を見て、文音は翔太の方へ歩み寄った。二人は玲奈たちから少し離れた場所にいた。文音は、他の人と談笑している玲奈を一瞥し、冷笑混じりに言った。「湊がいるっていうのに、あなたのことをまだがっちり引き留めているなんて。青木って……ホントにやり手よね」翔太は彼女を一瞥し、「言いたいのはそれだけか」と冷たく言い放った。「どうしたの?まさか、私が言ったことが気に食わないの?」文音はそう言うと、翔太を睨みつけた。「彼女が優里ちゃんに何をしたか、もう忘れたの?あなたが長墨ソフトに入社した理由も、もう忘れてしまったわけ?本当に都合のいい人間ね」翔太は文音を見つめたまま、何も言わなかった。玲奈と優里の間に起こった出来事を、彼は忘れてはいなかった。自分がなぜ長墨ソフトに入社したのかも、忘れてはいない。むしろ、はっきりと覚えているからこそ、当時の状況がどうも腑に落ちないと感じ
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第777話

翔太は冷淡に「お前には関係ないだろ」と返した。文音は言葉を詰まらせた。またしても彼女は、呆れて言葉も出なかった。彼女は、少し離れた場所にいる玲奈を睨みつけながら言った。「もしかして、あなたは彼女のことをよく理解しているって勘違いしてないわよね?優里ちゃんへの仕打ちの件を除けば、あの女がしでかしてきた吐き気を催すようなことなんて、まだまだ山ほどあるのよ!?ただあなたが何も知らないだけなの!」玲奈があれほど優里に嫌がらせをしていたと知りながら、翔太が彼女を好きになった理由を、文音はどうしても理解することができなかった。だが一方で、玲奈は顔立ちが整っていて、雰囲気も上品だ。確かに人を惑わせるようなところがあって、本当に人柄のいい人なのだとつい思い込んでしまいそうになる。だから、玲奈に好感を抱いてしまうのも無理はない。現に、自分の兄でさえそうだ。玲奈が自分との過去の因縁を理由に、栗城家との協業をあれほど頑なに拒絶したというのに、なぜか今でも玲奈に対してどこか未練がましい好感を抱いているのではないか?認めたくはないが、玲奈は猫をかぶるのが本当にうまい。もし自分があの女の過去の悪行を知らなければ、その洗練された外見や物腰に簡単に騙されていたに違いない。玲奈がかつて智昭に嫁ぐために用いたあの卑劣な手段や、優里へしてきた様々な嫌がらせを思い返すと、文音の目には嘲りの色が浮かんだ。文音の口調からすると、彼女は翔太の知らない何かを知っているようだった。だが……翔太は玲奈を信じている。彼は自分の直感も信じている。翔太は文音に一切取り合わず、まっすぐにまた玲奈を見つめていた。今の玲奈は、どこへ行っても人々の中心になるような存在だ。これほど目を引く華やかさを持ちながら、どこか控えめで、物腰も柔らかい。翔太の視線は玲奈に釘付けだった。文音がここまで言っても、翔太は少しも動じず、その目には相変わらず玲奈しか映っていなかった。文音は腹立たしさでいっぱいになり、思わず口を開いた。「あなた、本当に知らないの?青木って女は、実は――」彼女はもう少しで、玲奈と智昭のことを暴露してしまうところだった。しかし、智昭と玲奈がまだ正式に離婚していないことを思い出し、瞬時に口を閉じた。たとえ玲奈がどれほど汚い手段を使ったとしても、智昭と彼女の婚姻関係が続いている以上、この件が表沙
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第778話

淳一は少しびっくりした。瑛二の性格や職業柄から見ても、彼はこうした商業的なパーティーにはあまり興味がなく、ごくたまに付き合いで顔を出す程度だ。過去に淳一と宗介が他のパーティーで早く切り上げて帰ろうとした時も、瑛二が居残ろうとしたことは一度もなかった。瑛二は、確かにこういう場を好まない。今日彼がいつもと違う態度を見せているのは、会場に彼が気にかけている人間がいるからに違いない。淳一はすぐにある可能性を思いついた。瑛二の好きな人がこの場にいる、と。そう考えると、淳一は口元を緩めて笑みを浮かべ、瑛二に話しかけようとしたら、彼が礼二と玲奈の方をじっと見つめているのに気づいた。そして、ある考えが淳一の脳裏を素早くよぎった。一瞬にして彼の顔からは笑みが消え、グラスを握る手にも思わず力が入った。だが、すぐにそれはあり得ないと思った。その時、玲奈の方から突如「ガッシャーン」という激しいガラスの割れる音が響いた。玲奈は驚きの声を上げ、そのまま地面に倒れ込みそうになった。すると、瑛二は手に持っていたグラスを宗介の胸元に押し付け、すぐに玲奈のほうへ駆け寄っていった。淳一はその様子を目にしながら、その場に立ち尽くし、しばらく動けなかった。宗介は胸元に押し付けられたグラスを見つめ、また瞬く間に姿を消した瑛二を見て、少しポカンとしていた。「一体……何が起きたんだ?」淳一はただ、瑛二が駆けていく方向を見つめるだけだった。瑛二が玲奈のそばまで駆け寄ると、周りの地面にはガラスの破片が散らばっていた。玲奈の髪は乱れ、ドレスの一部が酒で濡れ、顔にはまだ動揺の色が残っている。礼二に支えられている彼女を見て、瑛二は慌てて尋ねた。「大丈夫か?」さっき、突然子供が飛び出してきて、近くにいたウェイターにぶつかった。ウェイターのトレイの上に載っていたグラスはすべて床に落ち、彼自身も玲奈のほうへ倒れ込んだ。玲奈は避けようとした拍子に割れたガラスを踏んで足を挫いてしまったが、転びかけたところを礼二が素早く支えたおかげで、彼女はどうにか倒れずに済んだ。床にこんなにガラスの破片が散らばっているのに、もし彼女が本当に転んでいたら、その結果は想像を絶するものになる。友達と話していた翔太は、玲奈に何かあったと気づくと、すぐに彼女のそばに駆け寄り、心配そうな顔で言った。「大丈夫か?怪我はないか?」
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第779話

そう言い終えると、礼二は玲奈を支えながら階段を上がっていった。辰也と瑛二、そして翔太は、彼らが去っていく後ろ姿を見ていた。優里と智昭も同様に彼らを見ていた。玲奈が危うく転びそうになった時、優里はちょうど玲奈の方向を見ていたので、辰也と翔太、そして瑛二の三人が玲奈が怪我したことに対して気が気でない様子を、彼女はすべて目にしていた。しかし、智昭が玲奈が怪我したことについて気づいていなかったことを、優里は知っていた。彼はちょうどその時、誰かと話し込んでいたからだ。事の一部始終について周りの人から聞いた智昭は、そこで初めて玲奈と礼二の方をチラッと見た。優里は智昭の反応が気になって横目で見てたが、彼はすでに玲奈と礼二から視線を逸らし、また近くにいた友人と話し始めていた。優里はその様子を見て、口角をほんの少し吊り上げた。玲奈たちの姿が見えなくなると、瑛二は視線を引き戻した。淳一が近づき、瑛二に話しかけようとしたその時、誰かがやって来て、先に瑛二に話しかけた。淳一は仕方なくその場で足を止めた。清司は友人との会話で盛り上がっていたため、玲奈が怪我したのを見て、辰也が慌てて駆け寄っていった一幕には気づかなかった。清司は具体的に何が起こったのか知らなかったため、辰也のそばに歩み寄り、「さっき何があったんだ?」と尋ねた。「子供がウェイターにぶつかって、それで玲奈も巻き込まれて転んで怪我をしたんだ」玲奈に特に興味がない清司は、それを聞いて口元を歪めて、ただ「へぇ」と一声漏らしただけだった。医者に診てもらった結果、玲奈は軽く捻挫しただけで、幸い大した怪我はなかった。彼女はパンプスに履き替え、服も着替え、化粧で少し顔を整えると、礼二と一緒に階下に降りた。生田博士は彼女が降りてくるのを見て、自ら近寄っていった。大怪我はしていないと知った生田博士は胸をなでおろし、「無事で何よりだ」と気遣った。それに対し、玲奈と礼二は笑顔で軽く頷き、礼を述べた。大森家の人と文音も、後になって玲奈の怪我について知った。軽く捻挫しただけで別に普通に歩けるのに、生田博士があんなに心配していた様子を見て、結菜は唇を尖らせた。「傷一つもないのに、大げさだわ」佳子と正雄は黙って聞いていただけだった。優里も玲奈のほうを見ていた。だが、彼女が智昭のほうへ顔を向けたとき、彼も、玲奈が階下
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第780話

淳一は、瑛二が突然あんなに慌てて玲奈のもとへ駆け寄ったのは、仕事柄の責任感からだったのかもしれないと思った。しかし、瑛二の目に浮かぶ玲奈への過剰な心配や気遣い、そして彼女への過剰な関心を見て、自分の推測が間違っていなかったと淳一は確信した。瑛二が好きな人は、玲奈だったのだ。宗介はまだ混乱していた。瑛二の好きな人が玲奈だなんて、どうしても考えられなかった。彼は焦りながら聞いた。「どうして彼女のことが好きなんだ?彼女がどんな人間なのか、知ってるのか?あの女は――」彼が言い終わる前に、瑛二が先に口を挟んだ。「知ってる。実際のところ、私は君たちよりも彼女のことをよく理解している」瑛二は、宗介たちがなぜこんなにも動揺しているのかわかっていた。「君たちが何を言おうとしているかはわかっている。でも、君たちは何か誤解していると思う」玲奈の人柄は、絶対に信頼できるものだ。瑛二は自分の目を信じている。彼の目には、玲奈は純粋無垢な人間として映っている。それに、もし玲奈に本当に何か問題があるのなら、自分の父親や徳岡おじさん、それに矢吹さんや海東さんたちがあんなに彼女を気に入るはずがない。だが、宗介は心底呆れ返った。誤解?誤解も何もあるかよ!玲奈は優里にことごとく難癖をつけているだけでなく、今度は優里の彼氏まで弄んでいる!宗介の目には、玲奈は一見大人しそうに見えるが、実は性格が悪く、チャラい女だと映っている。彼は瑛二がこのまま本当に玲奈に騙され続けるのではないかと心配し、慌てて言った。「彼女がしでかしたことはそれだけじゃない!君が知らないだけかもしれないけど、あの女は本当に腹黒くて、男女関係もめちゃくちゃなんだ!俺と淳一が前にも言ったろ?あいつはふじ……」しかし、彼の言葉が終わらないうちに、突然誰かが近づき、話を遮った。「久しぶりだな、瑛二!」また違う人が瑛二に話しかけに来た。宗介は口まで出かかった言葉を、こうして無理やり飲み込んだ。瑛二は、宗介がこんなふうに玲奈のことを悪く言うとは思っていなかった。宗介は幼い頃から瑛二と一緒に育った間柄だ。それもあり、宗介がそんな根も葉もない噂話を好む人間ではないことを、彼はよく知っていた。宗介は瑛二の視線に気づくと、彼はまるで誓うように右手を胸に当て、本当にデタラメを言っ
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