ホーム / 恋愛 / 社長夫人はずっと離婚を考えていた / チャプター 761 - チャプター 770

社長夫人はずっと離婚を考えていた のすべてのチャプター: チャプター 761 - チャプター 770

786 チャプター

第761話

玲奈は車が長墨ソフトから2、300メートル手前のところで、早めに車を降りた。彼女が降りた後、智昭の車もすぐに現場を離れていった。あとを尾行していた海斗は、2人が去った方向を見つめ、しばらくしてからまた車を運転してその場から離れた。長墨ソフトとケッショウテックの協力関係は、これまでずっと良好だった。会社に戻ると、玲奈はちょっとした会議を開いた後、ケッショウテックへと向かった。そしてその日の午後、ケッショウテックから朗報が届いた。マルチモーダル融合技術に画期的な進展があったという。このニュースが流れるや、メディアは争って報じ、国内外の同業者や専門家も衝撃を受けた。藤田総研もケッショウテックも、自動運転技術の研究開発を行っている。ケッショウテックからのニュースが出たばかりなのに、結菜たちはすぐに情報を得て、優里に伝えた。優里と大森家、そして遠山家の人々がこのニュースを知った時、表情が曇ってしまった。藤田総研には、智昭が築いた基盤と枠組みがあるものの、これは非常に資金を消耗する研究で、競争は激しいし将来性も不透明だ。ここ一年、優里と大森家、そして遠山家はすでに多額の資金を投じてきたが、これまでのところ、目立った成果は一つも上がっていないと言える。この2、3ヶ月、彼らはますます焦りを募らせている。何しろ、他の競合会社もそれぞれに進展を遂げているからだ。そして今、ケッショウテックがこれほどの技術的成果を上げたとなれば、彼らの競争力もますます低下してしまう。しかし、彼らが憂い始めた矢先、ケッショウテックの取締役がインタビューに応じ、ケッショウテックのマルチモーダル融合がこれほど顕著な成果を上げられたのは、玲奈の功績だと語った。そして、メディアを通じて、玲奈を惜しみなく称賛した。このニュースを見て、優里は拳を握りしめ、大森家と遠山家の他の者たちもさらに顔色が悪くなった。結菜は歯ぎしりしながら、「また彼女ね!どうしていつも彼女なの!?彼女にそんな大した実力がないのに!」と大声で叫んだ。「こんなの絶対デタラメよ」美智子は険しい表情で言った。「きっと、長墨ソフトのエンジニアチームの功績よ。だって、彼女が人の功績を自分のものにするのは、今に始まったことじゃないんだから」結菜は鼻で笑った。「そうね、本当に厚かましいわ!」
続きを読む

第762話

「これからどうしよう?」結菜は投資のことも業界のこともよくわからないが、ただお金がなくなるのが怖いのだ。結菜は優里を見た。「と、智昭義兄さんは――」結菜の言葉がまだ終わらないうちに、優里のスマホが鳴り始めた。着信を見て、彼女の顔はほっと緩み、慌てて電話に出た。電話の向こうで何を言われたのかはわからないが、さっきまでこわばっていた優里の顔は次第に和らぎ、いつもの余裕のある落ち着いた表情に戻った。優里は笑って、「うん、わかった。今すぐそっちに向かうわ」と返事した。彼女の表情と話し方を見て、周りの人たちはもう相手が誰なのかを察した。正雄はすかさず「智昭か?」と聞いた。優里は笑って「うん」と頷き、バッグを手に取って言った。「この前、会社のことを智昭に話したら、何人か紹介してくれて、いくつかの取引先も見つけてくれたの。彼が面会の時間を調整してくれたから、お父さんも一緒に来てくれる?」これを聞いて、正雄だけでなく、他の人たちもさっきまでの心配そうな表情を一掃し、顔に笑みが浮かんできた。正雄は笑って言った。「わかった、お父さんも一緒に行くよ」二人が去っていく後ろ姿を見て、結菜の気持ちも軽くなってきた。優里と正雄が出かけて間もなく、優里のスマホが再び鳴り始めた。海斗からの電話だ。優里はそれを見て、あまり電話には出たくはなかったが、それでも仕方なく出た。「先輩、どうしたの?」「優里、生田(いくた)博士の研究所の5周年記念イベント、君と藤田社長は出席するか?」「出席するけど、それがどうかしたの?」「いや別に、その日僕も行くから、君に聞いてみただけだ」「そうなんだ……」海斗は少し間を置いて、また尋ねた。「今何してる?食事はもう済んだか?」「今から智昭と一緒に食事に行くの」優里が智昭の名前を出したから、海斗は言葉を詰まらせた。彼女は海斗の声が聞こえなくなったことに気づき、「先輩?もしもーし?聞こえてる?」と聞いた。「聞いてるよ」それから海斗はまた「じゃあ邪魔はしないよ。また今度話そう」と軽く流した。「わかった」優里はそれ以上は何も言わず、すぐに電話を切った。……一方、その頃。ケッショウテックとはビジネス上進展があるにつれ、玲奈も前より忙しくなってきた。ここ最近慌ただしく過ごし
続きを読む

第763話

その後二日間、玲奈はさらに忙しくなり、土曜日さえも休む暇がなかった。茜から電話がかかってきて、玲奈が土曜の日中も仕事をしていると知ると、「じゃあ夜は?夜も時間がないの?」と尋ねた。「うん、ママは夜も他にやることがあるんだ」茜は続けた。「パパも今夜は時間がないみたい」玲奈は、智昭もおそらく生田博士の研究所の5周年記念イベント出席するのだろうと推測した。生田博士は以前、世界トップ3に入るハイテク企業で長年グローバルCOOを務めていて、国内のAI学界と産業界において、最高峰の学術的声望とトップ企業での経験を同時に兼ね備えた稀有な存在である。彼ほどの実力者なら、その人脈や資金力がどれほど凄まじいものかは明らかだった。生田博士の研究所は少し前、ちょうど大きな技術的ブレイクスルーを成し遂げたばかりだった。だからこそ、今夜開かれる生田博士の周年記念パーティーには、学界や財界の大物たちが大勢集まるに違いない。智昭が現れる確率も、当然かなり高いはずだ。しかし、玲奈はこれらのことを茜には話さず、自分と智昭が今夜同じ場所に行くかもしれないことも伝えなかった。彼女にはまだやるべき仕事があり、茜と少し話した後、すぐにスマートフォンを置いて自分の仕事に戻った。その夜、玲奈と礼二は20時に生田博士のイベントの晩餐会に姿を現した。その時点で、晩餐会にはすでに多くの人が集まっていた。おそらくあらかじめ人に気を配らせていたのだろう。玲奈と礼二が到着するやいなや、生田博士は真っ先に自ら出迎えに出てきた。「湊さん、青木さん。ようやくお二人に会えたよ」「生田博士」玲奈と礼二は急いで挨拶し、礼二は慌てて言った。「生田博士、そこまでしていただいては、かえって恐縮です」いずれにせよ、二人は生田博士の前では後輩であり、彼がこれほど丁重に出迎えてくるのは、本当に身に余る光栄だった。彼は礼二の肩をポンと叩き、それから玲奈に目を向け、満足げな表情を浮かべながら、思わず感嘆した。「君たちが手がけたプロジェクトや発表した論文は、私もずっと気にかけて見ていたよ。いやはや、後生畏るべしだね。ただ、この前はずっと海外で忙しくしていて、なかなか戻ってお二人とゆっくりお話しする時間が取れなかった。今日ちょうどいい機会だから、ぜひ――」玲奈が考えていた通り、今夜はま
続きを読む

第764話

優里が自ら口を開いた。「はじめまして、大森優里と申します」生田博士はうなずき、彼女と握手を交わした。その時、生田博士の助手が、彼の古くからの友人たちが到着したと告げた。生田博士は智昭の肩を軽く叩く。「先に何人かの旧友に会ってくるよ。続きはまた後で話そう」智昭が言った。「はい、またよろしくお願いします」しばらくして、辰也と清司も到着した。智昭たちを見つけると、二人がそちらへ近づいてきて、清司が言った。「おいおい、お前ら二人。さっきグループチャットで呼びかけて、いつ出発するのか聞いたのに、全然返事しなかっただろ。てっきり遅れて来るのかと思ってたら、もう着いてたのかよ」智昭はスマホを取り出してちらりと見た。「悪い、あの時は迎えに行っていて、スマホを見ていなかったんだ」清司は眉を上げ、智昭と優里の二人を意味深そうに見つめた。「へえ、二人ともスマホを見る時間すらなかったってわけか」智昭が応じる。「なんだ?文句あるのか?」清司は言葉に詰まった。優里は傍らでつい笑みをこぼしてしまった。智昭は、清司が悔しそうに歯を食いしばる様子を見て、「一杯奢るから、これでお前への詫びってことでどうだ?」と聞いた。「仕方ねーな、それで許してやるよ」清司は得意げそうに眉をつり上げた。その後も、智昭は清司としばらく雑談をしていたが、辰也の自分に向けられた視線を感じ取ったのか、そちらに視線を向けた。「どうした?」辰也が答える。「別に」彼はただ、智昭と優里の仲が相変わらず良いなと思っただけだった。そう考えると、辰也は思わず玲奈のことを思い出した。パーティー会場に入ったばかりの時、誰かが玲奈の話をしているのを耳にしていた。彼女と礼二はもう到着していることを、辰也は知っていた。しかし、会場は広く人も多いため、まだ彼女の姿を見つけられていなかった。玲奈のことを考え、彼女に対する自分の想いを思い返すと、辰也は目を上げて智昭を見た。「後で時間あるか?ちょっと話したいことがあってさ、一緒に外で一杯やらないか?」智昭は笑いながら彼を見た。「今夜か?」「ああ、パーティーが終わってからな」智昭は軽くうなずいた。清司はそれを聞き、慌てて言った。「いいね、しばらくみんなで集まってなかったし――」辰也がそこで遮った。「お前は呼んでない」清司は一瞬ポカンとした。「えっ?どういう意味
続きを読む

第765話

しばらくして、辰也は玲奈の前に現れた。「湊さん、青木さん」玲奈と礼二はうなずいた。「島村さん」辰也が玲奈に言う。「先週、君が受賞したときのライブ配信見たよ。おめでとう」彼は配信を見ただけであったが、本当は現場に駆けつけ、彼女の喜びをこの目で確かめ、直接祝福したかったのだ。しかし、あの数日はどうしても外せない用事があって動けず、結局行けずじまいだった。玲奈が答える。「ありがとう」彼女が受賞した日、辰也もメッセージを送って祝福していた。今改めて祝福の言葉を聞き、玲奈は彼が自分と礼二と何を話せばいいかわからず、わざとまたこの話題を持ち出したのだと思った。辰也は玲奈ともう少し言葉を交わしたかったが、ちょうどそのとき翔太が到着した。彼も当然、辰也の姿が目に入ったが、完全に無視するのを決め込み、玲奈と礼二にだけ挨拶をした。「玲奈、湊さん」普段、会社にいるとき、翔太は玲奈のことを「青木さん」と呼んでいる。だが、いつの頃からか、オフィシャルな場を離れると、彼は直接「玲奈」と呼び始めるようになった。礼二は、翔太が玲奈よりも年下であることを知っていた。辰也も事前に翔太のことを調べていたため、当然その事実を把握している。翔太は玲奈より年下でありながら、親しみを込めて「玲奈」と呼ぶ。しかし、抜群のルックスと低く心地よい声の持ち主であるせいか、その呼び方は不思議と嫌みに聞こえず、年下特有のひたむきさと、強引でありながらもどこか優しい雰囲気を漂わせていた。なかなか、いい響きだ。礼二は思わず笑みをこぼし、ごまかすように軽く咳払いをした。辰也は少し唇を噛みしめ、翔太の態度は少々馴れ馴れしすぎるのではないかと感じていた。翔太が呼び捨てにする回数はさほど多くないため、玲奈としてはあまり聞き慣れなかったが、それ以外の部分において彼はきわめて節度があり、仕事にも常に真面目で熱心に取り組んでいる。そのため、彼女も苦笑するしかなく、咎めるようなことは言えずにいた。ただ、翔太の瞳の奥に宿る熱い情熱に触れると、玲奈は静かに顔をそむけた。辰也と翔太が玲奈のそばにいる様子には、優里と文音も当然気づいていた。優里はそっと目を伏せた。文音の顔色は、さっき辰也が立ち去ったときよりはいくらか持ち直している。翔太が到着した瞬間は彼女たちも目にしていたが、翔太の視線には玲奈しか映っておらず
続きを読む

第766話

ちょうどその時、辰也が戻ってきたので、淳一が瑛二に尋ねようとしていたことは中断された。辰也を見て、淳一は軽く挨拶し、うなずいた。辰也は瑛二にも挨拶した。彼らが普段顔を合わせる機会は多くないが、前回のキャンプの時、互いが玲奈に思いを寄せていることに気づいていた。辰也と瑛二の接点は多くないが、彼は瑛二がかなり控えめな性格で、職業上の立場から、普段はこうした商業的なパーティーにはほとんど出席しないことを知っていた。彼が今日ここに現れたのは、おそらく玲奈も今日は来ると知っていたからだろうと、辰也は推測した。二人は一瞬目が合ったが、お互いそれぞれ心の中で考えていることを表には出さず、視線が合うやいなや、すぐにそらした。瑛二はもともと智昭や優里と親しくはなく、文音もいることだし、長居する気もなかった。智昭と清司に向かって社交辞令を述べた。「そちらにいる友人に挨拶してきます。時間があればまた後で」淳一は、瑛二と辰也の間のそんな思いには気づかなかった。彼も優里ともう少し話したいと思っていたが、今は智昭もいる。彼もまた、智昭と優里が一緒に現れるのをしばらく見ていなかった。今の様子からすると、二人の仲は相変わらずとても良さそうだった。しかし、それでも彼は智昭と玲奈のことを忘れることができなかった。彼には、智昭と優里の関係は一見すると完璧で、何の亀裂もないように思えた。だが、それは智昭の欺きの上に築かれたものだと感じていた。そう考え、淳一はわざと智昭の方を見て、淡々と言った。「藤田社長、時間があればまた後でお話ししましょう」智昭は、淳一の目に宿った冷たさには気づかなかったかのように、笑って答えた。「ええ、機会があれば」瑛二と淳一はすぐに踵を返して去っていった。二人が去った後、清司は好奇心を抑えきれず、文音に尋ねた。「君と瑛二もお見合いしたことがあったんだ?彼の条件、すごくいいのに、どうしてうまくいかなかったの?」辰也が戻ってきてから、文音の顔の笑みは幾分薄れていた。清司の問いかけに、彼女は言った。「彼も、自分には好きな人がいると言ってたから」清司は目を見開き、「マジ?」と驚いた。文音は「うん」と返した。辰也はもちろん、瑛二が誰を好きなのか知っていたが、口を挟まなかった。優里は、さっき瑛二と辰也が互いに挨拶を交わした時の様子から、すでに二人が互いに
続きを読む

第767話

宗介は遠くないところにいる玲奈を見つけた。彼は瑛二がこうした噂話に興味がないこともわかっていたが、智昭と玲奈の二人のスキャンダルについては、瑛二も聞けばきっと驚くだろうと思った。彼は遠くの玲奈を見ながら、瑛二の耳元に寄って言った。「夢にも思わないだろうけど、藤田社長の浮気相手って実は――」しかし、宗介が言い終わらないうちに、瑛二も玲奈を見た。宗介の言葉も聞こえていたが、瑛二は本当に興味がなく、深く考えもしなかった。宗介の肩を軽く叩いてやめるよう促し、彼と淳一に言った。「君たちは先に話しててくれ。私は湊社長たちに挨拶してくる」宗介は言葉に詰まった。瑛二はくるりと背を向け、そのまま立ち去った。宗介は淳一の方を見て、驚いた表情を浮かべた。「瑛二が自ら湊たちに挨拶しに行った?普段は接点ないよね?」淳一もそう思っていた。「だが、田淵のおじさんも親父も、湊さんと……青木さんを高く評価してるから、多分そのせいだろう」「それもそうだな」翔太は他の誰よりも早く瑛二に気づいた。瑛二がやって来た目的を当然理解していた。彼は表情を曇らせ、何も言わなかった。瑛二も彼に挨拶はせず、まず湊社長に一声かけると、視線は自然に玲奈に向かった。「しばらく会ってなかったね。最近はどう?」玲奈が答える。「……ええ、元気よ」「明日、父が君を食事に招待したいそうなんだけど、時間ある?」本当に義久が彼女を食事に招待したいのか、それとも瑛二が父親の名を借りて彼女を誘っているのか。玲奈は言った。「ごめんなさい、明日は予定が入っていて。次回、時間が取れたら必ず行くよ」「わかった」彼らが話している間、正雄と佳子も到着した。玲奈は彼らを見ると、顔の笑みが薄れ、視線をそらした。正雄は玲奈を見て、複雑な心境だった。佳子の態度は昔と変わらず、玲奈を一瞥しただけで、すぐに視線を戻した。一方、生田博士は何人かの友人に挨拶を済ませると、智昭と話し始めた。話題は藤田グループの現在のプロジェクトの開発方向と、生田博士が所属する研究所の最新研究成果に関する内容ばかりだった。内容が主にAI分野に関連しているため、優里は適切なタイミングで口を挟み、自分の考えを述べた。生田博士はうなずきながら、「大森さんもこの専門を学ばれていたのか?」と尋ねた。「はい」優里は笑いながら、自分が博士号を取得した大学
続きを読む

第768話

智昭がまだ口を開かないうちに、優里が落ち着いて応じた。「お褒めいただき、大変恐縮です」生田博士は笑顔でうなずき、優里に今はどのような仕事をしているのかと尋ねた。優里は、「智昭が去年、藤田総研の経営を私に任せて経験を積ませてくれましたが、恥ずかしながら、今のところ目立った成果は出せていません」と答えた。生田博士は笑いながら言った。「研究は一朝一夕でできるものではない。すぐに成果が出ないのは普通のことだ」その後も、彼らはAIに関する話を続け、途中からほかの人たちも加わって、終始和やかな雰囲気で会話が弾んだ。優里のことは以前から知っていたが、彼女をよく理解していなかった人もいて、話をしていくうちに、何人かは驚きを隠せなかった。「大森さんがAI分野にこれほど深い理解をお持ちだとは思いませんでした。本当にすごいですね」優里は笑いながら、「とんでもないです」と答えた。正雄と佳子は、優里たちからそう遠くない場所にいた。優里が褒められるのを聞いて、彼らの顔にも笑みが浮かんだ。実のところ、彼らは皆、優里に生田博士の下で研究してほしいと思っていた。何しろ、彼は最高峰の研究チームを率いている。そんな彼の下で数年研鑽を積めば、優里もきっと自分なりの道を切り開いていけるはずだと考えていたのだ。確かに、生田博士の国内での地位は真田教授ほど高くはないが、グローバルにおける影響力で言うと、真田教授にほとんど引けを取らない。しかも、生田博士は非常に広い人脈を持っている。さらに言えば、生田博士の下からはすでに、世界的にも影響力のある科学者を何人も輩出している。この件については、彼らは数日前にすでに智昭に話していた。智昭も、生田博士に優里を推薦することを承諾した。今、生田博士や周囲の人々が優里の能力をこれほど高く評価しているのを見て、正雄と佳子は事がうまく運ぶ可能性が高いと確信した。ただし、智昭はその場で切り出すようなことはせず、会話がひと段落ついたところで、自分と優里、そして生田博士の三人が階上へ向かう際に、この件を生田博士に伝えた。彼はそれを聞くと、笑顔で言った。「大森さんは能力が優れている上、スミス先生の教え子だ。私のチームに入って学びたいと言うなら、もちろん問題はない」そう言って、彼は少し間を置き、優里に博士課程での研究テー
続きを読む

第769話

生田博士は微笑みながら、「まあ、そこまで気にすることじゃない。君にはちゃんと基礎が身についているし、これから自分の研究の方向性をしっかり見定めれば、成長する機会はいくらでもある」と返した。彼が続けて、「ちなみに今、君が一番研究したいテーマはなんだい?」と優里に尋ねた。「AIエージェントです」「なるほど、確かに今この分野に参入する人が多いって聞くからね」と生田博士は笑いながら言った。「現在のAIエージェント技術に関して、君の考えを聞かせてくれるか?」優里はうなずき、「この技術に関しては、現在……」と話し始めた。二人はしばらく話したが、その時、生田博士の助手が彼を呼びに来たため、会話はそこで中断された。生田博士は軽く優里に会釈し、人々の輪の中に戻った。その時、玲奈と礼二はちょうど生田博士の友人たち数人と話していた。彼らもまた、AIエージェントの話をしていた。玲奈が言った。「AIエージェントができることの範囲は確かに急速に広がっていますが、技術としての信頼性は全く追いついていません。なので……」その時、生田博士が近づいてきて、もう少し玲奈の話を聞きたいと思っていたが、みんなは彼が来たのを見ると、彼に道を譲り会話の輪に入れようとした。生田博士が来たのを見て、友人の一人が笑いながら言った。「随分と忙しいようだな。ようやく私たちと少し話せる時間ができたかい?」別の友人が続けて言った。「本当だよ、どれだけ待っていたと思ってるんだよ」生田博士は、友人たちのからかいを特に気にしていなかった。「もう君たちとはこれでもかと言うほど話したと思うんだが?」生田博士と彼の友人たちがそれぞれ研究している分野は基本的には重ならないが、友人同士としての交流は多く、互いの実力や研究の方向性についてはよく理解している。しかし、玲奈と礼二は違っていた。この二人は、ここ最近AI分野を代表するニューフェイスと言える存在だ。生田博士は玲奈と礼二と握手を交わした。「せっかく来てもらったのに、待たせてすまなかったな」「いえいえ、こちらこそお時間を作ってくださりありがとうございます……」彼らは形式的な挨拶を交わした後、再び先ほど玲奈たちが話していた話題に戻った。玲奈が続けた。「AIエージェントの技術には根本的な限界があります。その限界を突破するには、メモリー層と人格の創発の間
続きを読む

第770話

「ああ、最初から私もそう思っていた。先程彼女と話してみて、その思いはさらに明確になった」そう言うと、生田博士は少しため息をついた。「だが、長墨ソフトは彼女が思う存分に力を発揮できる素晴らしい場所だ。それに、真田先生は現時点で彼女を自分の弟子にしていないものの、先日の授賞式を見る限り、彼女をかなり評価している。これほど恵まれた環境とリソースがあるなら、彼女が今後成長していくには十分すぎるほどだし、わざわざうちに来る必要もないだろう」そう言って、助手が言葉を挟む間もなく、生田博士はさらに続けた。「彼女の中に、君のグレイ先輩の面影を見たよ。本当に残念だな。2年早く彼女を見つけていればよかったのだがね」生田博士の言うグレイという人物は、時価総額世界第一位のAI企業を立ち上げた共同創業者の一人だ。「先生、まだチャンスはあると思います」助手が冷静に分析する。「真田先生は立場上の制約もあり、彼女に提供できるサポートにはどうしても限界があります。生田先生が提供できる機会や人脈は、湊社長には用意できません。それに、この業界における国内と海外の研究レベルには、やはりまだ大きな格差がありますから」グレイだけでなく、生田博士の弟子からは、ここ十年で世界的な知名度を誇る人物が何人も輩出されており、彼らは皆、各分野の最先端で活躍している。長墨ソフトにいるよりも、彼らのほうが玲奈により大きい舞台を用意できるのは間違いなかった。生田博士も、やはり玲奈をこのまま諦めるのは惜しいと考えていた。「後でまた時間を作って、彼女と個別に話をしてみよう」「では、大森さんはどうなさいますか?」「チームに入れて勉強させるくらいなら問題ないが、ただ……」助手は生田博士が口にしなかった意図を察した。「藤田社長のあの様子では、おそらく先生が直々に面倒を見ることを望んでいるのでしょうね」直接指導するのと、単にチームの一員として学ばせるのとでは、大きな違いがある。何と言っても、与えられるリソースや獲得できる人脈の質がまるで違うからだ。生田博士はため息をもらした。「あの小僧、私に厄介な難題を押し付けてくれたものだ。彼の顔を立てて、目立たない弟子を一人引き受けるくらいならどうということはないが、彼の恋人をグレイや青木さんたちと比べてしまうと、あまりにも平凡すぎる。それに、卒業してから2年間、彼女にこれ
続きを読む
前へ
1
...
747576777879
コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status