All Chapters of アイドルの秘密は溺愛のあとで: Chapter 41 - Chapter 50

72 Chapters

第41話

私に伸ばし掛けた手を皇羽さんは引っ込めた。「萌々……」と、悲しそうな声色と共に。ズルい。どうして皇羽さんが悲しそうなの。傷ついた顔をするの。騙されたのは私で、利用されていたのも私だよ?「今日はもう寝ます。明日から新しい家を探しますね」「!出て行くって事かよ……」皇羽さんが顔を歪めたのが分かる。見なくても分かる。あなたの声色だけで大体の気持ちが分かる……ううん。分かっている、はずだったの。でも違った。私はあなたのことを何も分かってはいなかった。あなたがレオだと見破れなかった。でも、それでよかったんだ。所せん私たちは友達にもなっていない浅い関係。お別れなんて痛くもかゆくもないでしょう?だからバイバイです。私がこれ以上、皇羽さんの温もりを知ってしまう前に――「私が Ign:s 嫌いって知っているでしょう?これまで通りなんて無理ですよ」「……~っ、チッ」荒々しい皇羽さんの舌打ちが聞こえ、両頬を掴まれる。いつもより強い力で上を向かされた。「萌々だって、俺のこと分かっていないくせに……っ」「皇羽さん……?」すごく真剣で、これまでにない真っすぐな瞳が悲しそうに揺れている。そうかと思えばいきなり私を抱き上げ、移動を始めた。いくら「降ろして!」と声を上げようが全てスルー。見上げると、どうやら怒っているらしい。皇羽さんの口がへの字に曲がっている。連れて行かれた先は寝室。柔らかいキングサイズのベッドに勢いよく降ろされる。「きゃっ!」「……俺が、」倒れ込んだ私に、皇羽さんが覆いかぶさった。慈しむように、私の両頬に再び手を添える。「俺がどんな気持ちでレオをやってるか、少しも知らないくせに」「……へ?」「俺が……なんでもない」そう言って口を閉ざした皇羽さん。何か言葉を飲んでいるように見えたのは気のせいだろうか。「それにな、俺だって傷ついたよ。Ign:s が嫌い、デビュー曲が嫌いって言いやがって……。だけどな、そんな事を言われても俺はお前が好きなんだ。ずっと変わらず好きなんだよ」「⁉」皇羽さん、今なんて言った?ジワジワと目に涙がたまっていく。どうして涙が出るのか分からない。だけど皇羽さんの言葉に、確かに胸を打たれた私がいる。まるで「誰かに必要とされる」この瞬間を、ずっと待ちわびていたように。「~っ」「こっち向いて、萌々」私の涙が零れる前に、
last updateLast Updated : 2025-04-18
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第42話

皇羽さんが二人?どういうこと?訳が分からなくて口をパクパクさせる私に、もう一人のレオは王子様のごとく、ベッドへ倒れる私へ手を伸ばす。私に乗る皇羽さんを乱暴に押しやった後、お姫様を扱うように私の背中に手を添え丁寧に起こした。「やっほー野良猫ちゃん。この前ぶりだね」「この前?」ハテナを浮かべていると、もう一人の皇羽さんは「忘れちゃった?」と首をかしげる。「元気な俺を看病してくれた時があったでしょ?あの時はおかゆを食べなくてごめんね~」「看病、おかゆ……」ふと――脳裏に過去が蘇る。そう言えば、皇羽さんの存在に違和感を覚えた日があった。皇羽さんが熱で倒れた日だ。――いま皇羽さんがつけているニット帽を初めて見る。それにさっき出かける時は、いつもの帽子を被ってなかった?――あと皇羽さんの表情がいつもと違う気がする。獰猛な野獣のオーラから、可愛い小動物へ変わっているというか熱があるって言っていたのに元気そうだったり、そうかと思えばやっぱり熱があったり。あの日の皇羽さんは何か様子が違っていた。……ん?もしかして、あの時の皇羽さんって!「あの日ココにいたのは、あなただったんですか⁉」「ピンポーン♪」驚いて目を白黒させる私を、さもおかしそうに笑って見るもう一人の皇羽さん。そうかと思えばふっと真剣な顔になり、私の手の甲へ口づけを落とした。「初めまして萌々ちゃん。俺は玲央(れお)。知っての通り Ign:s のレオだよ。そして皇羽は、俺の双子の兄だ」「……は?」この二人が双子?皇羽さんが兄で、この人が弟?「世間には内緒にしているけど、俺の調子が悪いときや気分がノらない時……おっと。気分が悪い時は、皇羽に〝レオ役〟をしてもらっている。代打、影武者……う~ん、なんて言ったらいいかな。そうだ、ピンチヒッターだ」「ピンチヒッター……」繰り返す私に大きく頷いた玲央さんは、話を続ける。「最近の皇羽の無茶には手を焼いていてね。コンサートを控えている大事な時期だっていうのに、熱があるのを黙ってテレビに出るわ、手首を痛めているのにダンスをするわ。もうメチャクチャだよ。ピンチヒッターがピンチになってどうするのって話だよね」「えっと……」頭がこんがらがる。そんな中でも玲央さんの言葉に引っかかりを覚えた。「聞いてもいいですか?」目を細めてアイドルスマイルを浮かべ
last updateLast Updated : 2025-04-19
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第43話

玲央さんに手を引っ張られながらリビングへ移動する。その後、玲央さんが作ってくれた温かいココアを飲みながら仲良く談笑――ということはなく。やっと落ち着いた二人が、リビングにて向かい合って座った時。玲央さんが口にしたのは、なんと私の愚痴だった。「初めて萌々ちゃんに会った時は驚いたよ~。 Ign:s 嫌い!って言うんだもん。さすがの俺も傷ついて、その日は食欲が出なかったなぁ」「すみません、まさかご本人とは知らず……」玲央さんは「いいんだよ~」と言いはするけど、どこか含み笑いだ。何か裏があるのでは?と疑っていると案の定。玲央さんは上目遣いで、とんでもない事を懇願する。「傷ついたけど、萌々ちゃんに頭をヨシヨシされたら元気になれるかもね?」「力になれません。他の方をあたってください」どうしてレオのファンでもなければ Ign:s のファンでもない私が慰めないといけないの。傷つけたことは謝るけど、慰める義理はない。それに十中八九、私をからかうためだろうし。といっても……この光景をクウちゃんを初めとするファンが見たら、さぞ羨むだろうなぁ。アイドルの頭をなでるなんて、滅多に経験できることじゃないもんね。それに玲央さんのキラキラとした瞳……変に断るより、思い切って頭を撫でた方が(後々の私にとって)よさそうだ。「仕方ない。犬を撫でていると思おう……」「いま失礼なこと言わなかった?」「と、とんでもない」噓八百で話をはぐらかした後。「一度だけですよ?」と念を押して、玲央さんの隣へ移動する。皇羽さんとは違う髪を、まじまじと見下ろした。猫っ毛な黒髪の皇羽さん、マッシュ型のアッシュ系金髪の玲央さん。二人を見分けるには髪しかないのでは?なんて思っちゃう。「皇羽さんがレオになる時はカツラをつけているんですか?」「カツラって……ウィッグね。そうそう、俺たちほぼ同じ顔だから助かるんだよ~」「こんな美形を二人も産んだお母さまが素晴らしいですね……」「あははー。伝えておくよ」髪をなでながら他愛ない会話をした後。私から視線を逸らした玲央さんが、さっきとはうって変わって真剣な声色を発する。「 Ign:s を嫌いな理由。皇羽には話したらしいけど、俺も聞いていい?」「……皇羽さんにも言いましたが、聞いて楽しい話ではないですよ?」「いいよ。今を時めく俺たちがどんな理由で嫌われて
last updateLast Updated : 2025-04-20
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第44話

あれは告白なのかな?それとも友達に言うノリで言った?……ダメだ。皇羽さんのことが、清々しいくらい分からない。答えの出ない堂々巡りをしていると、玲央さんが「さーて帰ろうかな」と席を立つ。来るのも帰るのも突然な人だ。っていうか、何か用があって来たんじゃないの?「今日はどうしてここへ?ナイスタイミングで来てくださって助かりましたけど」 「タイミングが悪かった、の間違いじゃなくて?」「へ?」 「俺が邪魔しなければ、今ごろ萌々ちゃんは皇羽と♡」「!」バシッと腕を叩くと、玲央さんは「顔は避けてくれるようになったんだね」と憎たらしく笑う。前、会った時に顔を叩こうとしたことを根に持っているらしい。玄関に移動して靴を履く玲央さんが、私の顔をマジマジと見る。「萌々ちゃんはすごく可愛いよね?どこかの事務所に入っているの?」 「おそらく借金のブラックリストには入っていますが……」 「ふふ、聞かなかったことにしとく」なんだそりゃと呆れる私に「さっきの”なんでここに来たのか”っていう質問だけど」と玲央さん。「今日ここに来たのは、なんとなく。双子の勘だよ。最近の皇羽は”家に来るな”の一点張りでさ。だからこの前お忍びで突撃すれば、なんと野良猫がいた。さすがにビックリしたよ」 「野良猫?」「萌々ちゃんのこと」 「⁉」の、ののの、野良猫なんて!間違ってはいないけど、すごく嫌だよ!嫌悪感を顔に出す私とは反対に、玲央さんは優しい目つきで私を見る。そして「そっか、君が萌々ちゃんか」とゆるりと頭を撫でた。「萌々ちゃんが Ign:s を嫌う理由は分かった。だけど萌々ちゃんが”嫌い”というその二文字の中に俺たちの見えない努力がある事を、頭の片隅で覚えておいてほしいな」 「どういう……?」 「いずれ好きになってほしいって事だよ。 Ign:s をね」玲央さんがウィンクをきめる。トップアイドルのキメ顔、まぶしすぎる!目を細めていると、玲央さんの小さな声が耳に入る。「まずは Ign:s を好きになって。次はレオ、そして最終的に俺。順番に好きになってくれたらいいなって思うよ。皇羽よりも、たくさんね」 「え?」チュッ「⁉」「じゃ、またね~」隙を見て私の頬にキスをした後。玲央さんはマンションを後にした。残された私は、キスされた頬を無言で拭く。玲央さんめ……。皇羽さんと双子
last updateLast Updated : 2025-04-21
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第45話

衝撃的な一夜が明けた翌朝。隣を見ると、既に皇羽さんはいなかった。リビングにはメモが残されていて、『今日も帰りは遅い。10時ごろ』とだけ書かれていた。昨日玲央さんが「コンサートが近い」と言っていたし、きっと最後の大詰めをしてるんだろうな。……でも引っかかるんだよね。「ピンチヒッターがいらないくらい玲央さんが体調に気を付けて頑張れば、わざわざ皇羽さんが練習しなくてもいいんじゃない?」よく考えれば〝コンサート当日に呼ばれるか呼ばれないか分からない〟皇羽さんが必死に練習するって変な話だ。だって下手したらピンチヒッターの出番ナシかもしれないんだよ?もしそうなったら練習が全てムダじゃん。それとも〝絶対に出ると決まっている〟から練習しているのかな?「う~ん、あの双子の考えている事が分からなさすぎる」顔をしかめながら身支度を開始する。立ち上がるためにベッドに手を乗せると、皇羽さんが寝ていた場所に彼の体温が少しだけ残っていた。その時、昨日の皇羽さんの言葉を思い出す。――俺はお前が好きなんだ。ずっと変わらず好きなんだよ「……あつ」冬だというのに顔が火照る。ダメだ、昨日から皇羽さんのことを意識しすぎている。もしかしたら、その場限りの冗談かもしれないのに。「皇羽さんのことを考えたらドキドキするなんて嫌だな。認めたくない……」顔を洗って、ついでに頭も冷やそう。煩悩を払うように、急いで洗面台を目指した。◇その後。遅刻せずに登校し、現在はお昼休み。昨日は「皇羽さんの親戚の夢見さん!」と騒がれたけど、一日経ったらその波も落ち着いてきた。おかげで友達と机を合わせて、ゆっくりとランチができている。と言っても……「では私こと白樺 空(しらかば くう)が Ign:s について説明しましょう!」「……よろしくお願いします。先生」あぁ、購買で買ったあんパンが苦くなりそう……。実はクウちゃんに「 Ign:s について知りたい」と頼んだ。理由は単純で、玲央さんに言われたことがきっかけ。――萌々ちゃんが”嫌い”というその二文字の中に俺たちの見えない努力がある事を、頭の片隅で覚えておいてほしいなまるで私が悪者みたいじゃん!と思ったのが半分。だけど確かに玲央さんの言う通りだなと思ったのが半分。彼らを嫌うことと、彼らの努力までを軽んじることは別物だ。だから「ここまで脚光を浴び
last updateLast Updated : 2025-04-22
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第46話

「い、 Ign:s のコンサート?」「そう!実はチケットを当てちゃったんだ~!」緩む顔をおさえきれない、という表情で私を誘うクウちゃん。困った顔の私とは反対に、クウちゃんは発光するばかりの輝く笑顔!すごく幸せそうで、私まで笑顔になっちゃう。周りの人までも幸せにしちゃうんだから、クウちゃんから出る推しパワーってスゴイ。肝心のコンサートは、正直行きたい。クウちゃんをここまで虜にさせる Ign:sがどんなものか、一度見てみたい。でも行ったら最後、私の嫌いなデビュー曲は絶対に流れるだろうな。コンサートに行く前から、これほど幸せそうに笑うクウちゃん。当日、隣で暗い顔をする私を見て、彼女のテンションを下げてしまわないか。それだけが心配。「あのねクウちゃん、私……」「あ……そっか。言わなくても大丈夫だよ、萌々!」「!」私が断ると分かったらしい。クウちゃんは、サッとチケットを引っ込め気丈に笑う。クウちゃんは、私が「行く」と返事すると思ったんだ。私が「Ign:sについて教えて」と言ったから、もう誘っても大丈夫だろうと、一歩を踏み出してくれたんだ。そんな彼女の勇気を無駄にしてしまったみたいで、心に大きなしこりが残る。……なんか嫌だな。クウちゃんの期待に応えたいよ!「く、クウちゃん!」パシックウちゃんの……いや、クウちゃんが持っているチケットを握り締める。「絶対にお金は返すから!私もコンサートに連れて行ってください!」「え、でも無理は良くないよ?」「大丈夫!無理じゃない!」「ちょっと震えているよ?」「これは武者震い!」「合戦にいくわけじゃないよ?癒されに行くんだよ⁉」「わ、わわわ、分かっているよ!」引き下がらない私を見て、クウちゃんは体の力を抜く。いつの間にか上げていた腰を、ストンとイスへ戻した。「前日でも当日でも、無理だったら正直に言ってね?私は萌々と一緒に楽しみたいだけだから」「クウちゃん……うん、分かったよ。約束する!」そうして私とクウちゃん、二人でコンサートに行くことが決まった。内心「大丈夫かなぁ」とドキドキがおさまらない。だけどクウちゃんが「楽しみだなぁ」と顔を綻ばせている姿を見て、私も勇気を出して良かったと思えた。◇その日の帰り道。下校前にクウちゃんが教えてくれた事を思い出す。『でもレオって本当に天才なんだよ~』『なん
last updateLast Updated : 2025-04-23
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第47話

部屋に入ってビックリ。なんとココは一面ガラス張り!しかも部屋に入った途端、何の音もしなくなった。静かすぎて怖いくらいだ。「まるで防音室みたい」病院で聴力検査をした時、こういう部屋に通された。重たくて頑丈な扉、中に入った途端に包まれる静寂――この部屋と瓜二つだ。試しに音楽をかけてみようか?もしココが防音室なら、いくら爆音で曲を流しても外からは聞こえないはずだから。「ミュージックスタート……わ、うるさ!」スマホを最大音量にして曲を流す。爆音に耐えきれなくて、スマホを置いて部屋の外へ出た。するとやっぱり何も聞こえない。少しでも重たい扉を開けると、とんでもない音で曲が流れているというのに。ということは、やっぱりココは防音室なんだ。「そういえば皇羽さんが学校に休みの連絡をしてくれた時、全く声が聞こえなかったなぁ」 ――連絡しといたからな――早!皇羽さんと私の学校、二校へ電話をしたんですよね?話し声が全く聞こえませんでしたよ⁉――ちゃんとしたっての。それに、この部屋の中の音が聞こえるわけないだろ。この部屋は…… あの時ははぐらかされたけど、きっと「この部屋は防音だから中の声が聞こえるわけない」って言いたかったんだ。あの時の私は、皇羽さんがレオをしていると知らなかった。それなのに部屋が防音室だと知ったら、私が怪しむに決まっている。だから皇羽さんは内緒にしていたんだ。部屋に入らせないようにしていた。自分がレオをしていると、少しでも私に悟られないため。「この部屋は練習部屋ってことか」机上にはタブレットが一つ置いてある。パスコードは設定されていないらしく、手が当たっただけで画面が開いた。慌てて閉じようとすると、曲が流れ始める。歌いながら踊る Ign:s が、画面いっぱいに写った。「ずっと練習していたんだ。何も知らなかった」部屋が防音なのは歌の練習のため。一面鏡張りなのはダンスの練習のため。そこまでして玲央さんの代わりを務めているなんて……。皇羽さんが健気すぎて切ない。ここまでして相手に尽くす理由は、玲央さんが双子の兄弟だから?だけど、もし私に妹か姉がいたとして……ここまで身を粉にして動ける?うぅーん、自信が無いよ。「ん?机に紙が散らばっている。書かれているのは Ign:s が出演した番組名?箇条書きだ。うわ、長いレシートみたい。一体いくつあるんだ
last updateLast Updated : 2025-04-24
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第48話

背中から温かな体温が伝わる。そして耳元で聞こえる、聞き慣れた声。それは「今日は夜10時まで帰らない」と私に置手紙をした人のもの。「皇羽さん、ですね……?」 「ん、ただいま」後ろからハグをされる。皇羽さんの大きな手が、私の体を包み込む。「なんで、今日は遅いって……」 「抜けて来た、またすぐ戻る」 「え……」いったい何のために帰って来たんだろう?忘れ物かな?不思議そうに振り返る私を見て、皇羽さんは不機嫌に眉を寄せる。「どっかのネコがちゃんと帰ってきたか確認しに来たんだけど、まさか泥棒ネコがいるとはな」「ネコって、また私をネコ呼ばわりですか!……だけどコッソリ部屋に入った私が悪いですよね、すみません。引き出しも勝手に開けようとしました。ごめんなさい。鍵がかかっていると、どうしても気になってしまって……つい出来心で開けようとしました」まさかどこかの犯人みたいなセリフを言う日が来るなんて。だけど悪いことをしたのは私だから、皇羽さんの腕の中で体の向きを変える。彼の目を見ながら謝罪した。だけど皇羽さんは泥棒ネコの私を怒るばかりか、ぎゅっと抱きしめる力を強くした。「そんなことはいいんだ」と、私の肩にオデコを置きながら。「萌々が今日ここに帰ってきてくれるか心配で、いてもたってもいられなかった。だから様子を見に来たんだ」 「え、そんなことで?」「そんなこと?じゃあ萌々は、昨日俺が無理やりキスしたことを許してくれるのかよ。レオの代役を隠していたことを許してくれるのかよ」「そ、それは……」そうか、皇羽さんは私が怒っていると思っているんだ。だから学校に行ったまま私が帰って来ないと思ったんだ。確かに昨日「新しい家を探します」って宣言しちゃったもんね。「私だって怒りたいですよ、色々と悲しかったし」「……うん」「でも……」何も言わなくなった私を、僅かに潤んだ瞳で皇羽さんは見つめた。私だって、本当は皇羽さんを怒りたい。私にウソをついてきたことやキスしたことを怒りたい。だけど、こんな弱った顔をされたら怒るに怒れなくなってしまう。「~っ」やっぱり皇羽さんはズルい。あなたを前にすると、私の気持ちはちょっとだけカヤの外へ行っちゃって、目の前にいるあなたへ必死になってしまう。ヒドイことをされたのは私なのに、それなのに……。私を拾ってくれたこと学校に行けるようにし
last updateLast Updated : 2025-04-25
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第49話

◇翌朝。しかけたアラームが、耳の横でけたたましく鳴っている。どっぷりと夢の中にいた私は、重たい瞼をなんとか開けた。「朝……」目を開いて瞬きをした、その瞬間に思い出す。――萌々、大好きだ昨日、私に二度目の告白をした皇羽さんを思い出す。あの皇羽さんの顔が、寝ても覚めても忘れられない。「……皇羽さんがいなくて良かった」鏡を見ると、たるんだ顔の私と目が合う。なんという顔だ。こんな顔、絶対に皇羽さんには見せられない!自分にため息をついていると、部屋に誰の気配もないことに気付いた。隣へ目をやると皇羽さんはおらず、昨日と同じくもぬけの殻。今日も早くからコンサートの練習かな?「まさか夜通し居なかった?いやいや。確かに夜、皇羽さんの気配を感じたもん」昨日、告白の後。皇羽さんは「そういうことだから」と、戸締りをしっかりするよう私に強く言い、再び練習に戻った。残された私は寝るまで皇羽さんの告白を脳内で繰り返し、いつ寝たか覚えていないくらいの〝上の空ぶり〟。だけどふと夜中に目覚めると、隣で皇羽さんの温もりを感じた。いつ一緒のベッドで寝るようになったか分からないけど、これも慣れだろうか。「いるんだ」と思ったら安心して、無意識のうちに皇羽さんへ体を寄せる。すると、すかさず腕を回された。心の中で「温かいけど重たいなぁ」と唸っていると、フッと小さな笑い声が横から聞こえた。あの時、皇羽さんは起きていたんだろうか。ベッドに入っていながら寝ていなかったのかな?まさか寝る前に私の顔を眺めていた?……って、自意識過剰すぎか。何にしろ、皇羽さんが帰ってきていたことは確かだ。「だけど一緒に住んでいるのに全然会わないっていうのも変な話だよね」一応、皇羽さんは家に帰って来ている。だけど如何せん滞在時間が短いから、しばらく皇羽さんを見ていない気分になる。今日の帰りも遅いのかな?「コンサートまであと五日。長いなぁ、早く終わらないかな。終わるまで、ずっと皇羽さんがいないじゃん」……ん?無意識に出た言葉に「私ったら何を言っているの」と一人ツッコミをいれる。だって今の言葉は「皇羽さんがいなくて寂しい」と言っているようなもの。「ないない、ない。寂しくない。大丈夫」まるで呪文のようにぶつくさ言いながら寝室を後にする。リビングに出ると視界の端で皇羽さんの部屋が目に入った。途端に、昨日の
last updateLast Updated : 2025-04-26
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第50話

だからね、クウちゃん。「私、レオのうちわが作れて良かったよ」「萌々……!!」口からぽろりと出た私の言葉に、クウちゃんは感激のあまり泣いてしまう。もしかして私が思っているよりも、クウちゃんは「推しのことを話せない寂しさ」を感じていたのかもしれない。「クウちゃん。これからは、もっとレオの話をしていいからね!」「も、萌々ぉ……」クウちゃんは涙を拭きながら「ありがとう」と、たった今作ったうちわを振った。彼女の喜びが全身で伝わって来る。だから私も「へへ」と、つられて笑ってしまった。まさか Ign:s の話をしている時に、自分が笑う日が来るなんて――クウちゃんとの仲が深まったし、 Ign:s の耐性がついて良かったな。騙されて嫌な気分になったけど、皇羽さんには感謝だね。「じゃあ萌々、お昼休みも残り三分となったところで。私の〝レオ愛〟を語らせて頂きます」「へ?」「まずはオーディションの時のレオなんだけど、もうすっごく緊張して可愛くてね!」「ははは……」乾いた笑いは漏れたけど、話を聞くのは嫌じゃなかった。前よりも Ign:s に慣れたというのもあるけど、私の知らなかった皇羽さんの話を聞いているようで……むしろ少しだけ嬉しくなっちゃう。まさかレオが緊張していたなんて。今の二人を見る限り想像つかない。皇羽さんはレオをする時、今でも緊張したりするのかな?もしもコンサートで皇羽さんが出てきてスゴク緊張していたら、その時こそうちわを使おう。せっかくクウちゃんと作った物だし、コンサートに向けて全力で頑張っている皇羽さんを知っているからこそ応援したい。「……なんて。スッカリと毒されちゃって、私ったら」熱弁していたクウちゃんが「ちょっとお水休憩」とお茶を飲む間、私も自分へ風を送る。火照った頬が、クウちゃんに気付かれそうだ。そうしたら私、根掘り葉掘り喋っちゃいそう。……いや、言いたいよ。もういっそ全てのことをクウちゃんに話したい。だけどレオを推しているクウちゃんだからこそ「実はレオは美形の双子で成り立っていて」なんて説明したら、泡を吹いて倒れかねない。「まだまだ言えそうにないな……」「萌々、何か言った?」私は「ううん」と首を横へ振る。遠くの席にある皇羽さんの席は当たり前だけど空っぽで、今この時間も練習を頑張っているだろう彼のことを少しだけ考えた。◇バタ
last updateLast Updated : 2025-04-27
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