Semua Bab アイドルの秘密は溺愛のあとで: Bab 101 - Bab 110

128 Bab

第101話

 こうなったら、厄介者……じゃなくて綾辻さんを蚊帳の外へ出すしかない! 急いでタクシーを呼び止め、記者を中へ押し込む。「え?え?」と混乱する綾辻さんをスルーして、私も後へ続いた。 もちろん皇羽さんは「は⁉」と怒った。むしろ叫んでいた。だけど、ここで私と皇羽さんが残ってもよくないことになりそうで……それならいっそ綾辻さんを遠くへ離した方がいい。その方が皇羽さんを守れるはず!「適当に走ってください!」 私の声に反応した運転手が「はいよ!」と、いきなりアクセルを全開にした。車は、まるで生き物みたいにガコンと前後に大きく揺れた後、エンジンをふかしながら群衆を置いて道路を走る。「はぁ、はぁ……!」 ど、どうなることかと思った! ちらりと後ろを見ると、皇羽さんが般若の顔で叫んでいる。ひい! あれは、そうとうに怒っているよ! いや、怒って当たり前なんだけどね! もしも私が皇羽さんと久しぶりに再会して、女の人とこんなことをされたら黙っていられない。靴を脱いででもタクシーを追いかけるよ……!(ん? まさか……!) まさか皇羽さんも裸足で追いかけてきているんじゃ⁉と思ったけど、群衆が味方してくれた。女性から逃げるのに必死になった皇羽さんが、すぐに回れ右して駅へ走っていく姿が見える。よかった、群衆から無事に逃げられたみたい。「ね、ねぇ萌ちゃん」「はい」「すごい数の不在着信が入っているよ」「……」 スマホを見ると、鬼の形相だった皇羽さんから鬼電がかかっていた。まさに鬼からの電話! 名前は「皇羽さん」ではなく「こっこ」とぼやかして登録しているため、バレてはいない。もちろん通話をするとバレてしまうので、通話するわけにはいかない。 早く綾辻さんを降ろさなきゃ……!「綾辻さん、どこで降りますか? そこまでお送りしますよ」「いや、僕が送る側でしょ。どこに行きたいの?」「自分の家に帰りたいので、綾辻さんに先に降りていただかないと」「はは、ガードが固いなぁ」 そう言いながら、綾辻さんは運転手に住所を伝えていた。どうやら素直に降りてくれるらしい。「それにしても、どうして私をかばったんですか? 萌ちゃん、なんて言って」 ここまで事態が深刻したのは、ほぼ綾辻さんのせいだと言って良い。皇羽さんの存在を隠すだけなら、これほど大事にしなくて良かったのだ。皇羽さんと綾辻
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-26
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第102話

「はぁ、はぁ……なんとか、30分以内に着いた……」 マンションのエントランス前で、膝に手をついて息を切らせる。今日がスニーカーで良かった。これでヒールを履いていたら、確実に間に合わなかったよ……!「いや、それ以前に。皇羽さんの脅し文句に問題がある!」――逃げたらどうなるか分かっているよな。30分だけ待つ これはある意味、死刑宣告のような言葉だ。 綾辻さんを降ろした後。タクシーでマンションとは逆方向に走っていたけど、すぐ運転手に「戻ってください!」と懇願した。30分までに間に合わなかったら、どうしよう! だけど、そこはやはりタクシーの運転手。「近道なら知っているよ」と、道ならぬ道を通って(ちょっとタクシーに傷を入れながら)、なんとか制限時間内にマンションへ帰ることができた。 運転手さんから名刺をもらったし、焦らしちゃったお詫びに、また差し入れを持って行こう。「だけど、問題はここからだよね」 フーと、自分の部屋番号のインターホンを押す。すると「おう」と皇羽さんの声。びっくりした、鬼の声かと思った。絶対に怒っている。だって、いつもより声が低すぎるもん!!「こ、皇羽さん。ただいま帰りました……」『開けたから上がってこい』「あはは……はい」 なんともいえぬ緊張感。モデルのオーディションを受けた時よりも百倍、いや一億倍緊張する……! バクバクと口から飛び出しそうなほど唸る心臓に喝を入れ、何とか部屋までたどり着く。するとドアノブに触ってもいないのに、勝手にドアが開いた。「よー、萌々」「こ、こんにちは……」 皇羽さんの刺すような視線に耐えられなくて、慌てて視線を逸らす。すると「へぇ、そらすんだ」と、更に声が低くなる。「俺と目を合わせられない〝やましいこと〟をしたって、そういう解釈でいいんだな?」「へ?」 違います、あまりにも怖くて凍っちゃうかと思ったんです。やましいことなんて一つもありません―― と私が言い訳を述べる前に、皇羽さんの口づけが降って来た。 「んっ⁉」「三分、頭の中で数えろ」「はぁ、はぁ……さ、三分?」 急に唇を塞がれ、既に酸欠状態。しかしここから三分とは、これいかに。まさかカップ麺でも作るの?なんて、そんな甘い考えは彼の頭にはなくて。「三分。それは俺からのキスを受け続ける時間だ」「へ?」「せいぜい窒息しないよう
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-27
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第103話

「け、消すって……」「萌々との記憶を消すだけじゃ足りないな。やっぱり存在そのものを……」「怖いのでやめてください!」 温かな飲み物でも飲めば皇羽さんの気が紛れるだろうかと、一足先に寝室を抜ける。去り際に「何を飲みますか?」と聞くと、皇羽さんはやや照れた顔を見せた。「そういう会話してると、まるで新婚みたいだな」「っ!」 さっきまで怒った顔をしていたのに、綾辻さんのことはいったん忘れたのか、今は目じりの下がった優しい笑みだ。彼の漆黒の瞳の中に、同じく顔を赤くした私が写っている。「何を言っているんですか。皇羽さんもリビングに来てくださいね、今後のことについて作戦会議しましょう。綾辻さんに私たちの関係がバレないようにするためにはどうしたらいいか、ちゃんと策を練らないと」「なんで寝室で話し合ったらダメなんだよ?」 キョトンとした顔をする皇羽さんだけど、忘れてもらっちゃ困る。さっき何度も際どい箇所にキスマークをつけようとした人を相手に、寝室で真剣な話し合いができるわけがない。「ちゃんと話し合いたいんです。寝室だと……ほら、あなたが」 ぷくっと頬を膨らませると、再び皇羽さんはキョトンとした顔。だけど「そんな顔もかわいいな」と、ファンが見たら卒倒するであろう極上の笑みを見せる。「ま、さすが萌々ってところか。ちょっとは甘い余韻に浸ればいいものを、話し合いの方を選ぶんだもんな。まぁそういう真面目なところも可愛いんだが」「……私だって、浸りたいですよ」「ん?」 ボソリと呟いた声は、皇羽さんには届かなかったみたい。いつの間に脱いだか分からない大きなシャツを、無駄のない動きで被っている。 前の私なら「何て言った?」と問い返されたところで、「何でもないです」と恥ずかしさから逃げていた。だけど今は離れている時間が多い分、ちゃんと自分の気持ちを伝えるべきだと、ついさっき知った。だから伝える。自分が何を思っているかを、皇羽さんに知ってもらう。 綾辻さんと浮気しているなんて。そんな嘘八百を、もう二度と生まないためにも。「私だって甘い余韻に浸りたいんです、って。そう言いました」 私はリビングへ突き出した足を、寝室へ戻す。そしてまだベッドへ座る皇羽さんの鼻と、私の鼻がぶつかるくらい距離をつめた。「も、萌々?」「さっきの新婚みたいな会話を、意味もなく皇羽さんと交わし
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-28
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第104話

 皇羽さんが綾辻さんへの殺気をゼロにし頭を冷やさない限り、まともな答えは出そうにない。むしろ「二言目には『消す』と言う皇羽さんをどうするか」という問題が新たに出てきそうだ。 口を真一文字に結んでしまった皇羽さんを残し、お腹が空いたので何か作ろうと冷蔵庫へ向かう。  ちょうどお昼だ。皇羽さん、移動中に何か口にしたかな?   聞こうか迷ったけど、互いに頭を整理するいい機会だ。昨日買った食材を、一つずつキッチン台へ置いて行く。作る料理は、ベーコンとピーマンを使ったナポリタン。 皇羽さんに美味しい料理を食べてもらいたいから料理の練習をしたいんだけど、有難いことにモデルの仕事が忙しくて、帰ったらすぐに寝てしまう。皇羽さんが不在の時なんかは、コンビニで済ませちゃう始末。 「もっと皇羽さんに美味しいご飯を食べさせてあげたいなぁ」  頭で考えていたことが、つい口から漏れてしまう。聞き流してくれるかと思いきや、しばらく無口だった彼は静寂を切り裂いた。 「俺は、萌々がのびのび過ごしてくれたらそれでいい」「いきなりどうしたんですか?」「料理を作りたいなら飽きるだけ作って、寝たいなら一日中でも寝て。自由に暮らしながら、俺の帰りを待てくれたらいいって……いや、独り言だ。忘れてくれ」「はぁ……」  よく分からなくて振り返ると、皇羽さんは両肘をテーブルにつけ、指を組んでいた。何を考えているんだろう。怒っているわけじゃないけど、怖いくらい真剣な顔だ。 「皇羽さん?」「いや……無理はするなってことだ」  話を忘れさせるように、皇羽さんはワントーン高い声で席を立つ。あぁ、そっか。仕事帰りだから疲れているよね。きっと仮眠するために寝室へ行くんだ。 そう思っていたのに、ふわりと香る彼のにおい。見ると、隣に立って手を洗っている。「これを切ればいいか?」と、どうやら料理を手伝ってくれるらしい。 「切るは切るのですが、あの……私がやりますよ? 皇羽さんお疲れでしょうし」「遠回しに足手まといって言ってる?」「いや、そうではなくて。本当に、私がやりますから。少しでも休んでください」「……」  すると皇羽さんは口を閉ざした。静かに、何かを考えるように。 「俺は、自分の欲求に忠実だ」「……既に知っていますが」  一年かけて私を探し続けた、不屈の精神
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-03
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第105話

side皇羽  マンションに玲央が来た。萌々は仕事で不在。ちょうどいいと、最近かかえている思いをぶちまける。 「萌々との関係を、世間にオープンにしようと思う」「へ?」「どうせ事務所はゴーサイン出さないだろうから、強行突破で」「へぇえ?」  俺の突然の発言に、玲央にしては間の抜けた声を出した。でも、その声が出るのも分かる。事実、俺はとんでもないことを口にしている。その自覚がある。 「ちょ、ちょっと待ってよ。事務所の許可は仕方ないにしろ、俺たちメンバーの許可くらいは取ってよ」「どうせミヤビが許してくれない」「そうだろうけど……じゃあ通告くらいはしてよ。〝〇〇日後に爆弾を投下します〟くらいのことは言ってくれないと、もし生放送中だったらメンバー全員、失神しちゃうよ?」「……どうせ通告した瞬間に監禁される」「そうだけど……」  仕事が多忙ゆえ、メンバーと過ごす時間は息が詰まるほど多い。 それゆえに、風呂とご飯のどっちを優先するか。夜はまったりするのか、それともすぐ寝るのか。寝起きはいいのか、壊滅的なのか――そんな知りたくもないメンバーの情報が、自ずと大量にインプットされていく。 そうなるとメンバーの思考回路まで、自然と分かって来るもんだ。 俺が萌々との関係を「世間に暴露したい」と言ったらどうなるか。下手すれば、俺は一生、日の目を見れないかもしれない。仕事以外は、地下にでも投獄されそうだ。 「萌々とそういう関係だってことは認めてくれたんだから、後はオープンにするかどうかの話だろ」「〝だけ〟なんて簡単に言うけどね。その一言で日本はおろか、世界がひっくりかえるよ?」  次の仕事で使う台本をパタンと閉じ、玲央が真っすぐ俺を見る。髪以外は本当に同じだから、自分に見られているようで妙な気分だ。 「そもそも、二人の関係がバレたら世間からどんなバッシン
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-04
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第106話

 綾辻さん騒動があって、しばらく経った頃。 「萌々、たまには買い物行くか?」 「似合うと思って、萌々に服を買って来た」 「一緒に風呂に入るか? 肌がつやつやになると有名な入浴剤がやっと届いたんだ」  よく分からない攻撃を、皇羽さんから受けていた。 「あの、皇羽さん。やっと家に帰ってこられたのですから、自分の時間を悠々自適に過ごしてください。私のことは、お気になさらず」 「前も言ったが、やっと家に帰ってきたから萌々を構うんだ。俺の時間を、俺の好きなように使って何が悪い」 「それは確かに聞きましたが……」  頻度が恐ろしく増えているのだ。私に構う頻度が!  最近の皇羽さんは都内での仕事に戻り、マンションから仕事場へ向かう日々。といっても多忙なのは変わらない。家に帰って来ないでホテルに泊まったらいいのにという日だって、必ず帰って来る。  どんな短い時間であろうとも必ずマンションに帰って来て、私を抱きしめてまた仕事に行くのだ。「ビデオ通話も出来るんだし、無理しないでください」と言ったけど、さっきと同じように「俺の好きなことをしているまで」と一蹴される。  加えて、歯が浮くようなセリフをポンポンと言っちゃうから、もう本当にどうしたものか。それに、ありとあらゆるものを買って私に与えてくるし……。  皇羽さんが何を考えているか分からない。だけど、きっと何かあるはず。勘が鈍い私は、それが何かまでは分からないけれど……。 「あ、お風呂が湧きましたよ」 「だから一緒に入ろうって」 「はいはい、いってらっしゃい」  こうしてあしらえている内はいいけれど、あのイケメンフェイスを持つ皇羽さんだ。まともに顔面を見ちゃった日には「あっ」と顔を染めて私が反応しちゃうから、もう大変。皇羽さんの目がギンッと鋭くなって寝室へ連れて行かれる。その後は言うまでもなく、甘い夜だ。 「萌々」 「ん?」 「今日、抱きたい」 「……あ、は……ぃ……」  何とか返事すると、皇羽さんはニッと口の端を吊り上げた。普通のテンションで言って来るから、反応にすごく困る。  シャワーの音がして、やっと息ができた。攻撃もここまで猛攻となれば、息つく暇もない。 「は~……ビックリした……」  皇羽さんが未だかつてないほど、私を甘やかしている。私がとろけちゃうほど甘く、そして深く。 「
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-05
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第107話

 「私たちが結婚式を挙げたら、世間に関係がバレてしまいます。そもそも結婚だって無理ですよ」「無理って……」「だって皇羽さんは身バレしているでしょう? 本名を知られちゃっていますし。婚姻届けには名前を書く欄があります。それを市役所の人が確認のために見るでしょう。その瞬間に『コウが結婚した』とバレちゃいますよ」「つまり婚姻届さえ出さないってことか?」「……出さない、というか出せないですよ。現実的に考えて」  そう口にしている私こそ、やっとその事実を理解し始めていた。そう、そうだよ。皇羽さんは本名が世間にバレている。婚姻届なんか出せるわけない。また情報がリークされて、皇羽さんをはじめとするIgn:sが大変なことになる。迷惑をかけちゃう。 「だから高校を卒業したらすぐに結婚、という話はナシにしましょう。皇羽さん」「萌々……」「大丈夫。いつか、きっと結婚できますよ。そのタイミングを待つだけです」   上手く、笑えているかな。私の精一杯の強がりが完璧な仮面になって、皇羽さんに届いているかな? 皇羽さんがなんて言うか、反応が怖い。「なんだよそれ」って怒るかな。「わかった」って納得するかな。正直、どちらの反応をされても悲しい。怒られてもどうしようもない事実だし、納得されても結婚を諦められちゃったようで傷つく。 この二つ以外の言葉を、皇羽さんに望んでしまう。期待してしまう。だって、ずっと夢だったから。 皇羽さんと結婚することも、結婚して幸せな家庭を築くことも。私が経験できなかった温かな家庭を、この手で作りたいと思っていた。皇羽さんと、一緒に。 (本当は、口に出していないだけで……心の中では、ずっとカウントダウンしていたんだよね)   だけど、そのカウントダウンが振り出しに戻る。結婚は、できない。 遅すぎる気づきに、自分の不甲斐な
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-06
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第108話

  前回と同じく、綾辻さんはかなり近い距離まで私に近寄って来た。あいにく今日は「寄るところがあるので」とマネージャーに送ってもらわなかったから、綾辻さんを一人で対処しないといけない。 でも……大丈夫。だって、もう皇羽さんを傷つけないと決めたから。もう二度と、皇羽さんにあらぬ誤解を与えてしまわないように。私がハッキリ、綾辻さんに言うんだ! 「あの、綾辻さん」「どうしたの?」  私が足を止めると、茶色のロングコートを着た綾辻さんの足も止まる。首から大きなカメラがぶら下がっていて、まるで私を見張っているかのようにレンズがこちらを向いている。今、この瞬間も撮られているのかな? いや、そう思って対応すべきだ。 出来る限り堂々と、決して臆さないよう綾辻さんの目を見た。  「マネージャーを通した仕事でない限りはご一緒することが出来ないので、つきまといはやめてください。この忠告を聞いてもつきまといをやめない場合は、警察に相談します!」  私の言葉に、綾辻さんはキョトンとした顔を浮かべる。だけど次に「つ、つきまとい⁉」と焦ったのか、水をかぶったようにサッと顔を青くした。 「そんな、つきまといだなんて……ただの仕事だよ!」「仕事であろうがなかろうが、つきまといはつきまといです」  自覚がなかったなんて恐ろしい。きっと仕事が板についているんだろうな。つきまとう仕事が日常だから、つきまといそのものも日常化しちゃったんだ。 だけどダメです。つきまといは、立派な立派な犯罪なので! きっと!!  「私と直接接触を図るのはいけない行為です。何度も言いますが、これからは必ず事務所を通してください。いいですね?」「ま、待ってよ。萌ちゃん!」  綾辻さんが私へ手を伸ばす。触られるのは嫌だから、すぐに逃げようとした。だけど信号が赤になり、そうかといって信号無視もで
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-07
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第109話

 唐突な疑問。真剣な瞳。 私から出る言葉を一言一句聞き逃さない、警戒態勢だ。  「二人の様子を見るに、初対面って感じもなかった。さっきのは誰?」「マスコミの方で、綾辻さんといいます。実は弱みを握られそうになって……いえ、ちゃんと回避したんですけど。それから、あぁやってつきまとってくるんです。事務所を通してと言っているのに」「弱み?」「えぇっと……」 「首にキスマークがついているよ」という嘘に反応しちゃったせいで、誰かと付き合っているのかと疑われたこと。あの後、慌てて訂正したけど……本当のところ、綾辻さんはどう思っているんだろう。 私の言い分を信じて「付き合っている人はいない」と思っているのか、やっぱり「誰かと付き合っている」と疑っているのか。 「でも正直なところ、綾辻さんが私に構うのは、スクープうんぬんではなくて……実は、前に告白めいたことを言われまして。表向きは〝仕事〟で通しているようですが、私をつきまとうあの姿勢に関しては、明らかに私情も入っているかなと」「……」「玲央さん?」「はぁ~~~~~」   全てを話し終えると、玲央さんは深いため息をついた。タクシーの中にある酸素を全部吸い込んだ?っていうくらいロングブレスだった。息苦しくないのかな?「窓あけますか?」と聞くと、丁重に断られた。次に玲央さんは「無防備すぎる」と、吐き捨てるように呟いた。  「そこまで相手の心情が読めているのに、どうして一人で行動するかなぁ。絶対に狙われるって、それは分かっているでしょ?」「さすがに、それ以降はずっとマネージャーと共に行動しています。帰りも車で送迎してもらいましたし。でも今日はIgn:sの皆さんの所へ行くんです。そこへマネージャーを同行させるわけにはいきません」   そう。いくら気心知れ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-08
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第110話

 タクシーが道を走る音が、ハッキリ聞こえた。そんなつかの間の静寂を切り裂いたのは、迷ったような私の声。車の音に負けそうなほど、弱い音。 「……それは、もちろん。はい」  「もちろん」なんて、「はい」なんて返事をしたけど……すみません、玲央さん。 私の出した結論に、私の気持ちはありません。私は、私の弱い心に負けたんです。  自分が幸せになるために誰かを不幸にすることは、お母さんが私にしたことと同じだ。 お金がなくて生活が苦しい。だからお母さんは、食い扶持である私を捨てた……といっても、一生懸命バイトをした私が、むしろお母さんを養っていたのだけど。 話を戻して。 お母さんに捨てられて一人きりになった時。私は偶然にも皇羽さんと再会して、衣食住を与えてもらった。幸福をもらえた。不幸のどん底にいた私は、また幸せになれた。 だけど皆がそうとは限らない。 私たちが結婚すると聞いて、不幸になる人は大勢いる。だってIgn:sはスーパースターなのだから。大好きだからこそ、大好きな人が誰かの特別になるのは悲しい。発表後、そういった悲しい気持ちをもつ人はたくさん増えるだろう。 だけど皆が皆、どん底から幸せに戻れるとは限らない。たまたま私は皇羽さんと再会して幸せになれたけど……皆が皆おなじじゃない。きっと長く心に傷を抱える人もいる。私は恵まれていたにすぎない。 つまり私はお母さんと一緒で、誰かの幸せを奪い、不幸を与えようとしている。あの日、私が抱いた絶望を、今度は私が、私以外の誰かに与えるのだ。 「それは、嫌だな……」  自分が誰かを不幸にするなんて嫌だ。 誰にも不幸のどん底におちてほしくない。 他人の不幸を顧みず、自分の幸福だけを追求してしまう私が、自分勝手すぎて怖い。 そんな恐怖心が、私の前にたちはだかっている。通せんぼしている。 その恐怖心に……私は、勝てない。  「皇羽さんには、私から言って納得してもらいます。玲央さん、教えてくださりありがとうございました」「……ううん」 そう言ったきり、玲央さんは口を噤んだ。私も私で、なんと言ったらいいか分からないから、それきり黙る。 既に春休みに入ったのか、学生たちがあちこちで楽しそうに笑っている。その中に、Ign:sのファンの人はどれくらいいるんだろう。 「……っ」  そう思うとキリ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-09
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