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第43話

last update Last Updated: 2025-04-20 20:47:56

玲央さんに手を引っ張られながらリビングへ移動する。その後、玲央さんが作ってくれた温かいココアを飲みながら仲良く談笑――ということはなく。

やっと落ち着いた二人が、リビングにて向かい合って座った時。玲央さんが口にしたのは、なんと私の愚痴だった。

「初めて萌々ちゃんに会った時は驚いたよ~。 Ign:s 嫌い!って言うんだもん。さすがの俺も傷ついて、その日は食欲が出なかったなぁ」

「すみません、まさかご本人とは知らず……」

玲央さんは「いいんだよ~」と言いはするけど、どこか含み笑いだ。何か裏があるのでは?と疑っていると案の定。玲央さんは上目遣いで、とんでもない事を懇願する。

「傷ついたけど、萌々ちゃんに頭をヨシヨシされたら元気になれるかもね?」

「力になれません。他の方をあたってください」

どうしてレオのファンでもなければ Ign:s のファンでもない私が慰めないといけないの。傷つけたことは謝るけど、慰める義理はない。それに十中八九、私をからかうためだろうし。

といっても……この光景をクウちゃんを初めとするファンが見たら、さぞ羨むだろうなぁ。アイドルの頭をなでるなんて、滅多に経験できることじゃないもんね。それに玲央さんのキラキラとした瞳……変に断るより、思い切って頭を撫でた方が(後々の私にとって)よさそうだ。

「仕方ない。犬を撫でていると思おう……」

「いま失礼なこと言わなかった?」

「と、とんでもない」

噓八百で話をはぐらかした後。「一度だけですよ?」と念を押して、玲央さんの隣へ移動する。皇羽さんとは違う髪を、まじまじと見下ろした。

猫っ毛な黒髪の皇羽さん、マッシュ型のアッシュ系金髪の玲央さん。二人を見分けるには髪しかないのでは?なんて思っちゃう。

「皇羽さんがレオになる時はカツラをつけているんですか?」

「カツラって……ウィッグね。そうそう、俺たちほぼ同じ顔だから助かるんだよ~」

「こんな美形を二人も産んだお母さまが素晴らしいですね……」

「あははー。伝えておくよ」

髪をなでながら他愛ない会話をした後。私から視線を逸らした玲央さんが、さっきとはうって変わって真剣な声色を発する。

「 Ign:s を嫌いな理由。皇羽には話したらしいけど、俺も聞いていい?」

「……皇羽さんにも言いましたが、聞いて楽しい話ではないですよ?」

「いいよ。今を時めく俺たちがどんな理由で嫌われて
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    こういうこと、皇羽さんに聞きたいよ。直接「どういう事ですか?」って聞いてみたい。私に対する皇羽さんの思いを聞いたら、ソワソワした私の心も少しは落ちつく気がするから。「だけど家にいないんだから、聞きようがないよね」気になった事を放置するのは性に合わないんだけどな――と。ここで何気なくテーブルに転がる物を見る。そういえば、この前からずっと転がっている。どこかで見たような。何だっけ?もしや皇羽さんの物?と、少しワクワクしながら手に取る。目に入ったのは「バイト」という文字。そこでスゴイ速さで記憶が戻って来た。「これ、私が貰って来たバイトの情報誌だ!」なにが「気になったことを放置するのは性に合わない」だ。思いっきり放置している物があるじゃん!クウちゃんにコンサートのチケット代を返さないといけないし、皇羽さんには言わずもがな色々買ってもらってるし、そして玲央さんにも!仮病でウチにいた日にお金を借りている!私、かなりの人に借金しているヤバい人だよ! 「バ、バイト!バイトしなきゃ!時給の高いバイト~!!」再びリビングに戻り、ペンを片手にハイスピードで情報誌をめくる。自分に合いそうな求人を見つけ、片っ端から丸をしていった。「スマホがあって良かった!スグに電話ができる!」皇羽さんのことで憂う余裕は一気になくなり、情報誌とスマホを行ったり来たりと大忙し。気になるバイトはいくつかあったけど、夜遅くまでの勤務だったり、保護者の同意が必要だったりと。様々なことが原因で自ずと絞られていった。「これが最後の一件だ!」意を決して電話をかける。そのお店の採用方法は「電話で軽い面接をする」だった。つまり電話が繋がった瞬間から選考が始まるってこと!ガチャと音がして、男の人の声がする。私は頭が真っ白になりながらも、一生懸命受け答えをした。すると……「明日から?本当ですか、ありがとうございますッ!」結果は、なんと採用!明日、一応履歴書を持ってお店へ行き、そのまま働くことになった。「何とかバイトを見つける事が出来たよ~……」良かった、まずは一安心だ!スマホをテーブルに置いて、ほぅ~と脱力する。あ、皇羽さんに「バイト決まりました」って報告した方がいいよね?皇羽さんが帰ってきた時に私が家にいなかったら、絶対に心配するし。「メールで言うのもいいけど、直接いいたいなぁ」バイ

  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第51話

    『え⁉』「え⁉」私と司会者の反応が同じだったことはさておき。ニコリと笑うレオを、他のメンバーさえも驚いた顔で見ている。あの黒髪の人は〝かげろう〟って名前だったかな?あの人だけは無表情。だけどその他のメンバーは、これでもかと目を見開いている。『ちょ!またまた爆弾発言だよレオくん!じゃあズバリ聞いちゃおうかな⁉そのお相手とは⁉』興奮する司会者の隣で、焦った様子のリーダー・ミヤビが「まぁまぁその辺で」と穏便に済ませようとしている。だけどミヤビの努力もむなしく、愛想よく笑うレオがパカッと口を開いた。『それはですね、ウチに住み着いている野良猫です!』 『は……はは。なーんだ、野良猫かぁ~』明らかに残念そうな司会者と、やや顔に青線が入ったミヤビ。しかし当の本人はというと「驚きました?」って、悪気なしにケラケラと笑っている。これには、さすがの私もミヤビに同情しちゃう。『すみません司会者さん、ウチのレオはヤンチャなもので、ははは』「……ははは」つられて乾いた笑いが出る。無意味にドキドキしちゃった。口から心臓が出るかと思ったよ。「と言っても、私が焦る必要なんて全くないんだけどね……」だけど今日のレオがやたらと皇羽さんに見えて、変にドキドキしちゃう。告白の件以来、自分のペースを狂わされっぱなしだ。「でも野良猫の話なら良かったよ。これで安心してテレビを見られる……ん?」そう言えば――と、いつか玲央さんと話したことを思い出す。 ――野良猫? ――そ、萌々ちゃんのこと ということは、さっきレオが言った「野良猫」って……。「つまり私の事だ!じゃあレオは〝私に必要とされたい〟と思っているの?な、なんでぇ?」顔を青くしたり赤くしたり。オロオロと一人で百面相をする私に、レオは容赦なかった。まるで「私が混乱している事はお見通し」と言わんばかりに、一瞬だけカメラへ目を向ける。そして―― 『今、家で俺の事を見てくれていたら、帰ってたくさんヨシヨシしてあげるからね』 「!!」名前を呼ばれたわけじゃないのに、いきなり名指しされたかのような勢いのあるストライク。その破壊力の大きさに、バックンバックンと心臓が唸り始める。ここまで言われて、気が付かない私じゃない。そんな表情で言われて、分からない私じゃない。いま画面越しに目が合った人。その正体に、やっと気づいた

  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第50話

    だからね、クウちゃん。「私、レオのうちわが作れて良かったよ」「萌々……!!」口からぽろりと出た私の言葉に、クウちゃんは感激のあまり泣いてしまう。もしかして私が思っているよりも、クウちゃんは「推しのことを話せない寂しさ」を感じていたのかもしれない。「クウちゃん。これからは、もっとレオの話をしていいからね!」「も、萌々ぉ……」クウちゃんは涙を拭きながら「ありがとう」と、たった今作ったうちわを振った。彼女の喜びが全身で伝わって来る。だから私も「へへ」と、つられて笑ってしまった。まさか Ign:s の話をしている時に、自分が笑う日が来るなんて――クウちゃんとの仲が深まったし、 Ign:s の耐性がついて良かったな。騙されて嫌な気分になったけど、皇羽さんには感謝だね。「じゃあ萌々、お昼休みも残り三分となったところで。私の〝レオ愛〟を語らせて頂きます」「へ?」「まずはオーディションの時のレオなんだけど、もうすっごく緊張して可愛くてね!」「ははは……」乾いた笑いは漏れたけど、話を聞くのは嫌じゃなかった。前よりも Ign:s に慣れたというのもあるけど、私の知らなかった皇羽さんの話を聞いているようで……むしろ少しだけ嬉しくなっちゃう。まさかレオが緊張していたなんて。今の二人を見る限り想像つかない。皇羽さんはレオをする時、今でも緊張したりするのかな?もしもコンサートで皇羽さんが出てきてスゴク緊張していたら、その時こそうちわを使おう。せっかくクウちゃんと作った物だし、コンサートに向けて全力で頑張っている皇羽さんを知っているからこそ応援したい。「……なんて。スッカリと毒されちゃって、私ったら」熱弁していたクウちゃんが「ちょっとお水休憩」とお茶を飲む間、私も自分へ風を送る。火照った頬が、クウちゃんに気付かれそうだ。そうしたら私、根掘り葉掘り喋っちゃいそう。……いや、言いたいよ。もういっそ全てのことをクウちゃんに話したい。だけどレオを推しているクウちゃんだからこそ「実はレオは美形の双子で成り立っていて」なんて説明したら、泡を吹いて倒れかねない。「まだまだ言えそうにないな……」「萌々、何か言った?」私は「ううん」と首を横へ振る。遠くの席にある皇羽さんの席は当たり前だけど空っぽで、今この時間も練習を頑張っているだろう彼のことを少しだけ考えた。◇バタ

  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第49話

    ◇翌朝。しかけたアラームが、耳の横でけたたましく鳴っている。どっぷりと夢の中にいた私は、重たい瞼をなんとか開けた。「朝……」目を開いて瞬きをした、その瞬間に思い出す。――萌々、大好きだ昨日、私に二度目の告白をした皇羽さんを思い出す。あの皇羽さんの顔が、寝ても覚めても忘れられない。「……皇羽さんがいなくて良かった」鏡を見ると、たるんだ顔の私と目が合う。なんという顔だ。こんな顔、絶対に皇羽さんには見せられない!自分にため息をついていると、部屋に誰の気配もないことに気付いた。隣へ目をやると皇羽さんはおらず、昨日と同じくもぬけの殻。今日も早くからコンサートの練習かな?「まさか夜通し居なかった?いやいや。確かに夜、皇羽さんの気配を感じたもん」昨日、告白の後。皇羽さんは「そういうことだから」と、戸締りをしっかりするよう私に強く言い、再び練習に戻った。残された私は寝るまで皇羽さんの告白を脳内で繰り返し、いつ寝たか覚えていないくらいの〝上の空ぶり〟。だけどふと夜中に目覚めると、隣で皇羽さんの温もりを感じた。いつ一緒のベッドで寝るようになったか分からないけど、これも慣れだろうか。「いるんだ」と思ったら安心して、無意識のうちに皇羽さんへ体を寄せる。すると、すかさず腕を回された。心の中で「温かいけど重たいなぁ」と唸っていると、フッと小さな笑い声が横から聞こえた。あの時、皇羽さんは起きていたんだろうか。ベッドに入っていながら寝ていなかったのかな?まさか寝る前に私の顔を眺めていた?……って、自意識過剰すぎか。何にしろ、皇羽さんが帰ってきていたことは確かだ。「だけど一緒に住んでいるのに全然会わないっていうのも変な話だよね」一応、皇羽さんは家に帰って来ている。だけど如何せん滞在時間が短いから、しばらく皇羽さんを見ていない気分になる。今日の帰りも遅いのかな?「コンサートまであと五日。長いなぁ、早く終わらないかな。終わるまで、ずっと皇羽さんがいないじゃん」……ん?無意識に出た言葉に「私ったら何を言っているの」と一人ツッコミをいれる。だって今の言葉は「皇羽さんがいなくて寂しい」と言っているようなもの。「ないない、ない。寂しくない。大丈夫」まるで呪文のようにぶつくさ言いながら寝室を後にする。リビングに出ると視界の端で皇羽さんの部屋が目に入った。途端に、昨日の

  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第48話

    背中から温かな体温が伝わる。そして耳元で聞こえる、聞き慣れた声。それは「今日は夜10時まで帰らない」と私に置手紙をした人のもの。「皇羽さん、ですね……?」 「ん、ただいま」後ろからハグをされる。皇羽さんの大きな手が、私の体を包み込む。「なんで、今日は遅いって……」 「抜けて来た、またすぐ戻る」 「え……」いったい何のために帰って来たんだろう?忘れ物かな?不思議そうに振り返る私を見て、皇羽さんは不機嫌に眉を寄せる。「どっかのネコがちゃんと帰ってきたか確認しに来たんだけど、まさか泥棒ネコがいるとはな」「ネコって、また私をネコ呼ばわりですか!……だけどコッソリ部屋に入った私が悪いですよね、すみません。引き出しも勝手に開けようとしました。ごめんなさい。鍵がかかっていると、どうしても気になってしまって……つい出来心で開けようとしました」まさかどこかの犯人みたいなセリフを言う日が来るなんて。だけど悪いことをしたのは私だから、皇羽さんの腕の中で体の向きを変える。彼の目を見ながら謝罪した。だけど皇羽さんは泥棒ネコの私を怒るばかりか、ぎゅっと抱きしめる力を強くした。「そんなことはいいんだ」と、私の肩にオデコを置きながら。「萌々が今日ここに帰ってきてくれるか心配で、いてもたってもいられなかった。だから様子を見に来たんだ」 「え、そんなことで?」「そんなこと?じゃあ萌々は、昨日俺が無理やりキスしたことを許してくれるのかよ。レオの代役を隠していたことを許してくれるのかよ」「そ、それは……」そうか、皇羽さんは私が怒っていると思っているんだ。だから学校に行ったまま私が帰って来ないと思ったんだ。確かに昨日「新しい家を探します」って宣言しちゃったもんね。「私だって怒りたいですよ、色々と悲しかったし」「……うん」「でも……」何も言わなくなった私を、僅かに潤んだ瞳で皇羽さんは見つめた。私だって、本当は皇羽さんを怒りたい。私にウソをついてきたことやキスしたことを怒りたい。だけど、こんな弱った顔をされたら怒るに怒れなくなってしまう。「~っ」やっぱり皇羽さんはズルい。あなたを前にすると、私の気持ちはちょっとだけカヤの外へ行っちゃって、目の前にいるあなたへ必死になってしまう。ヒドイことをされたのは私なのに、それなのに……。私を拾ってくれたこと学校に行けるようにし

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