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第42話

last update Last Updated: 2025-04-19 21:11:52

皇羽さんが二人?どういうこと?

訳が分からなくて口をパクパクさせる私に、もう一人のレオは王子様のごとく、ベッドへ倒れる私へ手を伸ばす。私に乗る皇羽さんを乱暴に押しやった後、お姫様を扱うように私の背中に手を添え丁寧に起こした。

「やっほー野良猫ちゃん。この前ぶりだね」

「この前?」

ハテナを浮かべていると、もう一人の皇羽さんは「忘れちゃった?」と首をかしげる。

「元気な俺を看病してくれた時があったでしょ?あの時はおかゆを食べなくてごめんね~」

「看病、おかゆ……」

ふと――脳裏に過去が蘇る。

そう言えば、皇羽さんの存在に違和感を覚えた日があった。皇羽さんが熱で倒れた日だ。

――いま皇羽さんがつけているニット帽を初めて見る。それにさっき出かける時は、いつもの帽子を被ってなかった?

――あと皇羽さんの表情がいつもと違う気がする。獰猛な野獣のオーラから、可愛い小動物へ変わっているというか

熱があるって言っていたのに元気そうだったり、そうかと思えばやっぱり熱があったり。あの日の皇羽さんは何か様子が違っていた。……ん?もしかして、あの時の皇羽さんって!

「あの日ココにいたのは、あなただったんですか⁉」

「ピンポーン♪」

驚いて目を白黒させる私を、さもおかしそうに笑って見るもう一人の皇羽さん。そうかと思えばふっと真剣な顔になり、私の手の甲へ口づけを落とした。

「初めまして萌々ちゃん。俺は玲央(れお)。知っての通り Ign:s のレオだよ。そして皇羽は、俺の双子の兄だ」

「……は?」

この二人が双子?

皇羽さんが兄で、この人が弟?

「世間には内緒にしているけど、俺の調子が悪いときや気分がノらない時……おっと。気分が悪い時は、皇羽に〝レオ役〟をしてもらっている。代打、影武者……う~ん、なんて言ったらいいかな。そうだ、ピンチヒッターだ」

「ピンチヒッター……」

繰り返す私に大きく頷いた玲央さんは、話を続ける。

「最近の皇羽の無茶には手を焼いていてね。コンサートを控えている大事な時期だっていうのに、熱があるのを黙ってテレビに出るわ、手首を痛めているのにダンスをするわ。もうメチャクチャだよ。ピンチヒッターがピンチになってどうするのって話だよね」

「えっと……」

頭がこんがらがる。そんな中でも玲央さんの言葉に引っかかりを覚えた。

「聞いてもいいですか?」

目を細めてアイドルスマイルを浮かべ
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