冬真は涼を見向きもせず、高慢な視線を夕月に向けたまま言った。「コロナの修理代は私が出す」金で解決できる問題など、冬真にとっては問題ですらなかった。「五歳の子供を大型バイクに乗せることを、少しも心配しないの?」夕月が問いかけた。男は眉をひそめた。「お前に何の資格があって、私の息子のことを心配する?」夕月は冷笑を浮かべた。「悠斗はお前に叱られて逃げ出した。楓だけが追いかけて慰めてやった。楓の運転技術は信頼している」冬真は続けた。その口調は夕月に向かってより一層冷たさを増していた。「むしろお前の方こそ、ちょっとした騒ぎで警察を呼び出して。世界中がお前に借りがあるとでも思わないと気が済まないのか?」夕月が口を開こうとした瞬間、突然の動悸が全身を無形の衝撃で襲った。四肢が痙攣し、頭の中が真っ白になり、鋭い耳鳴りで周囲の心配する声も聞こえない。「僕が支えるよ」鹿谷が駆け寄り、夕月を抱き留めた。涼の表情が曇り、鹿谷を一瞥すると、その眼底の感情はより一層冷たく沈んでいった。振り向くと、冬真の表情にも違和感が見られた。天野も夕月の傍らに寄り添い、露骨なまでの心配を示した。「夕月!大丈夫か?」鹿谷の問いかけに意識を取り戻した夕月は、自分が無意識に胸を押さえていたことに気付いた。「大丈夫、たぶんレースでの負荷が……」夕月は首を振って答えた。快晴の空の下、明るい日差しが降り注ぐ中、夕月の胸には漠然とした不安が広がっていた。バイクが公道を疾走する中、悠斗は楓の腰にしがみつき、すすり上げる鼻水を必死に堪えていた。楓は悠斗を連れて橘家に戻るつもりだった。悠斗を連れ出したのは、冬真に自分への信頼を示すため。息子のためなら、冬真も警察の件を何とかしてくれるはず。突然、数匹の蛾が目の前を横切り、ヘルメットに張り付いた。なんてこった!こんな広い道路なのに、どうして自分のヘルメットに!?楓が首を振って払おうとした瞬間、目の前に検問所が迫っていた。咄嗟に障害物を避けようとハンドルを切ったその時、バイクが制御を失った!大型バイクが横転し、楓は弾き飛ばされた。悠斗の小さな体が宙を描いて、植え込みに叩きつけられ、その四肢は不自然な角度に曲がっていた。地面に伏せたまま、楓は全身の骨が砕けるような痛
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