All Chapters of 拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~: Chapter 311 - Chapter 312

312 Chapters

彼の家へ…… Page4

****『拝啓、純也さん。 純也さんからの直筆の手紙、ビックリしたけど嬉しかったです。ありがとう。 純也さんは純也さんで悩んでたんだね。わたしもそうじゃないかって思ってたよ。だから、園長先生に言ったんだよね? 自分が援助してることを、わたしが気づいてるかもしれないって。 でもね、純也さん。心配しないで。もしあなたがもっと早く本当のことを打ち明けてくれてたとしても、わたしの気持ちがあなたから離れることはなかったから。あなたに幻滅することなんてあり得ない。だってあなたは、わたしの文才を早い段階から認めてくれてて。ずっと背中を押し続けてくれてた人なんだから。そして、わたしを見捨てないでいてくれた唯一の理事さんだったから。 わたし、ずっと気になってたことがあるの。あなたは女性不信で女の子が苦手だったはずなのに、どうしてわたしに手を差し伸べてくれたのかな、って。 でね、わたしなりに理由を考えてみたの。 純也さん、あなたはずっと家族からの愛を感じられずに育ってきたんだよね。だから、わかば園のみんなのことを「家族みたいだ」って作文に書けたわたしが羨ましくなったのかな、って。 わたしは両親がどうして死んじゃったのか、つい最近まで理由を知らなかったから、わたしにとって〝家族〟と呼べるのはあの施設のみんなしかいなかったの。でも確かに、わたしはあの施設で園長先生や他の先生たち、そしてお兄さんお姉さん、弟や妹たちから大事に思われてきたから、「家族ってこんな感じなのかな」って自然と思うことができたの。あんなにいい施設で暮らすことができたわたしはすごく恵まれてると思う。 ……話が逸れちゃったね。ごめんなさい。純也さんの言うとおり、わたしにはまだ純也さんに話してないことがあります。それこそが、プロポーズを断っちゃった本当の理由です。 でも、手紙に書くとうまく伝えられる自信がないので、直接会って話したいです。来週の土曜日、夕方四時ごろ、純也さんのマンションまで行きます。東京に行くのはもう三回目だし、スマホのナビもあるから道に迷う心配はありません。もう小さな子供じゃないんだから。 その時には、純也さんからも話してほしいな。わたしを援助しようと思ってくれた本当の理由、一緒に答え合わせをしようよ。 純也さん、お仕事が忙しいと思うけど、体調には気をつけてね。それじゃまた、来週の土曜
last updateLast Updated : 2025-09-09
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彼の家へ…… Page5

   * * * * ――そして、翌週土曜日の午後。いよいよ純也さんの家を訪問する日がやってきた。「それじゃ、さやかちゃん、珠莉ちゃん。行ってきます!」 寮の食堂で昼食を済ませ、外出の支度をした愛美はルームメイトで親友の二人に声をかけた。「うん、気をつけて行っといで」「愛美さん、門限までには帰って来られるんですわよね?」「もちろんだよ、珠莉ちゃん。そんなに遅くまではいないよ。わたし、純也さんにちゃんと自分のホントの気持ち、伝えてくるね。――じゃあ、行ってきます」 愛美はこの日のために、前もって外出許可をもらっていた。その条件が「門限までに寮へ帰ってくること」だった。 純也さんは良識のある人なので、まだ女子大生である愛美を遅くまで引き留めはしないだろう。 寮を出発した愛美はまず地下鉄でJR新横浜駅まで出て、そこから新幹線に乗り換えた。そのチケットももちろん予約しておいたものだ。 品川駅で新幹線を下車し、あとはスマホのナビアプリを頼りにして電車を乗り換え、東急線の二子玉川駅で降りた。ここが、純也さんが住んでいるマンションの最寄り駅らしい。 駅前からナビアプリを頼りに歩くこと二十分、ようやく辿り着いた三十五階建てのタワーマンションはその外観から高級感が漂っていて、愛美はとにかく圧倒されていた。「ここかぁ……、立派なマンション……」 彼が住んでいるのは最上階のペントハウスというわけではないらしいけれど、それでも二十七階は超高層の部屋である。賃貸なのか買ったのかは分からないけれど、どちらにしても決して安くはないだろう。 なかなかエントランスへ踏み込む勇気が出なくて、しばらくは近くをウロウロと歩き回っていた愛美は、一人の初老の男性に声をかけられた。「――失礼ですが、相川愛美様でいらっしゃいますでしょうか?」「あ……、はい。そうですけど」 その穏やかな声色に、愛美は聞き覚えがあった。「あの……もしかして、あなたが久留島さんですか? いつかはお電話を下さってありがとうございました」「はい、私が久留島でございます。さ、マンションの中へどうぞ。ボスが――いえ、辺唐院純也氏がお待ちでございます」 愛美はようやく、オートロックの鍵を持つ久留島さんと一緒にマンションのエントランスの自動ドアを抜けた。コンシ
last updateLast Updated : 2025-09-10
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