All Chapters of 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした: Chapter 181 - Chapter 190

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7-13 抱えきれない荷物の行方 1

「ごめん、待ったかな。朱莉さん」15分程経過して琢磨がカフェで待つ朱莉の前に現れた。「いいえ、それ程でもありませんよ。意外と早かったですね」「そうだね。少し近道を発見したからさ」「九条さん。折角ですから何か飲まれて行ってはいかがですか?」「うん……そうだな。それじゃちょっと何かメニュー見てくるよ」「はい、行ってらっしゃい」朱莉の言葉に、一瞬琢磨の顔が赤く染まった。(え……?)しかし、次の瞬間。いつもと変わらぬ様子の琢磨がいた。「それじゃ行ってくるよ」琢磨は朱莉に声をかけ、コーヒーを買いに向かった。その後姿を朱莉は首を傾げながら見守り、ポツリと呟いた。「今の……気のせいだったのかな?」 それから数分で琢磨はアイス・コーヒーを持って戻り、朱莉の向かい側に座ると尋ねた。「朱莉さん。明日香ちゃんの買い物全部終わらせられたかい?」「はい、何とか揃える事が出来ました。これで安心出来ました」「ごめん。明日香ちゃんに色々用事を言いつけられたのに、協力してあげることが出来なくて」「何言ってるんですか、九条さんは翔さんの秘書なんですから、私のお手伝いなんてとんでもないですよ。私のことなら気にしないで、どうぞ翔先輩の力になってあげて下さい」朱莉は慌てて返事をした。「確かに俺は翔の秘書だけど……一人の人間として朱莉さんが心配なんだ」「私は本当に感謝していますよ。翔先輩のこととは関係なく、いつも気にかけていただいてるし、今回の沖縄行きの件にしても航空券の手配から、ホテルの予約。そのうえあんな立派なマンションまで探していただいたのですから。こんなに誰かに親切にしていただいたのは高校生の時以来です。本当にありがとうございます」「朱莉さん……」そこで琢磨は言葉を飲み込んだ。(朱莉さん、高校の時以来って……その相手は翔のことだろう?)どんなに朱莉を手助けしても、結局のところ朱莉にとっての一番は翔だと言う事実に改めて琢磨は悲しい気持ちになるのだった。(だが……朱莉さんの負担を少しでも減らしてあげることが出来れば、それが自分の罪滅ぼしなんだ……)「ところで九条さん、どこに食事に行くか決めてあるんですか?」「まだ特には決めていないんだ。だって今夜は朱莉さんの1日遅れの誕生祝だからね、どんなものを食べたいのか聞いてから決めようかと思っていたんだ。」「
last updateLast Updated : 2025-04-12
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7-14 抱えきれない荷物の行方 2

「朱莉さん……この荷物は?」「え? 明日香さんに頼まれた買い物ですけど?」それは両手に抱えてもかなりの量の買い物であった。琢磨は唇をかみしめ、両手をグッと握りしめた。(こんなに大量の品を小柄な朱莉さんに暑い中、一人で買わせるなんて……!)琢磨の視線の先に自分が買ってきた品物があることに気づいた朱莉は慌てて弁明した。「あ、あの、それ程重くは無かったので、本当に大丈夫ですから」買い物袋を手に取ろうすると、それらを全て琢磨が持ってしまった。「あ……」(重くは無かったなんて言っていたけど、男の俺からみても中々重いじゃないか……。ん?)そのとき、琢磨は朱莉の足元に小さな折り畳み式のキャリーカートが置かれていることに気が付いた。「朱莉さん、これは何だい?」「実は、やっぱり重くて、その、キャリーカートを買ったんです。でもお陰で楽に運べました。この先きっとあれば重宝すると思いますし」朱莉は自分が下手な言い訳をしているような気分になって、俯く。「そうか……ならこれに入れて運ぼう」琢磨は折り畳んであったキャリーカートを広げた。「まずは先に明日香ちゃんの病院へ行こう」「え? な、何を言ってるんですか?」「これだけ多くの荷物、明日クリーニングされた洗濯物と一緒に運ぶのは大変だ。今日これを明日香ちゃっんの病室に届けてしまえば、明日は荷物が少なくて済むから」その口調はいつもより鋭く、有無を言わさないような雰囲気があった。「わ、分かりました」「それじゃすぐに行こう」琢磨はキャリーカートを引くと、声をかけてきた。「はい……」**** その後の琢磨は終始不機嫌だった。駐車場に向かう時も無言だったし、病院へ向かう車の中でも何やら考え事でもしているのかずっと無言を通していた。朱莉は何だか居心地が悪かった。これで車内のカーステレオから沖縄特有の歌が流れていなければ、息ぐるしい空間であったのは間違い無かった。 やがて琢磨の車は明日香が入院している病院に到着した。琢磨は病院の正面に横付けするとようやく朱莉に話しかけてきた。「朱莉さん。荷物を降ろすから先に病院のロビーで待っていてもらえるかな? 俺は車を駐車場に停めてくるから」「はい、分かりました」朱莉が車を降り、明日香の買い物が入ったキャリーカートを降ろそうとすると、琢磨が素早く運転席から降りてきた。
last updateLast Updated : 2025-04-12
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7-15 悲しい立ち聞き 1

—―コンコン病室のドアがノックされた。「あら、誰かしらね? 看護師さんかしら?」明日香がPCから目を上げた。「うん? でもさっき来たばかりだしな……」すると外から声が聞こえた。「俺だ、琢磨だ」「何だ、琢磨か。中に入れよ」翔に言われて琢磨はドアを開けて中へ入って来たのだが……。「な、何だ? 琢磨。お前随分機嫌が悪そうだが……ひょっとして朱莉さんと何かあったのか?」「あら、そうなの? 琢磨」明日香は何処となく嬉しそうな笑みを浮かべて琢磨を見る。「違う! そんなんじゃない! 明日香ちゃんに頼まれた買い物を朱莉さんが揃えたから今それを届けに来ただけだ!」琢磨は乱暴に言うと、持って来たキャリーカートを2人の前に見せた。「こ、これは……」翔が言い淀んだ。「あら。よくこんなに沢山買い揃える事が出来たわね。別に入院期間中に揃えてくれなくても良かったのに」明日香の言葉に琢磨はイラついた様子で反論した。「明日香ちゃん、朱莉さんに頼む時そんな言い方はしていなかったぞ?」「あら、そうだったかしら?」「しかし……明日香……。こんなに沢山買い物を朱莉さんに頼んでいたのか?」翔の言葉に琢磨は目を見開いた。「何だって? おい、翔。お前は明日香ちゃんが朱莉さんにどれだけ買い物を頼んでいたのか知らなかったのか!?」「あ、ああ……知っていたらお前を買い物に付き合わせていたよ。さっきの仕事は今夜中に終わらせればいいだけの話だし……」そんな2人のやり取りを明日香は知らんぷりしてPCを見ている。「明日香ちゃん、まるで他人事のような態度を取っているけど買い物の中身を確認しなくていいのか?」怒りを抑えた口調で琢磨が尋ねる。「ええ、別に必要無いわ」「「何だって?」」琢磨と翔が声を揃えた。「だって、適当に雑誌で見て選んだだけですもの。いちいち自分が何を買い物リストに書いたのかも覚えていないわ」「な、何だって……?」琢磨は明日香を睨み付けた。「何よ。そんな目で人のことを見て」「お、おい。琢磨。明日香は絶対安静の身なんだ。あんまり怯えさせるなよ。だけど少しは買い物を頼まれた朱莉さんのことを考えてあげたらどうだ? あれだけの買い物は大変だったと思うぞ?」翔が明日香に問いかけた。「そうねぇ。実際に集めるとこんなに量が多かったのね。パッケージの分で傘増し
last updateLast Updated : 2025-04-12
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7-16 悲しい立ち聞き 2

「い、いや。だって事実そうだろう? あの京極という男のせいじゃないのか? 大体最近のお前少しおかしいぞ? 以前のお前ならもっと冷静沈着な男だったじゃないか」翔の言葉は、増々琢磨を苛立たせた。「そうかい。それは誉め言葉だと受け取っておくよ。ようするに今の俺は以前より人間味が出て来たってことだろう? だがな、これだけは言っておく。これ以上お前達の我儘身勝手に朱莉さんを巻き込むな!沖縄までわざわざ呼びつけたんだから少しは彼女を解放してやるんだな?」琢磨が2人を交互に見ながら言うが、翔は反論した。「いや。それは出来ない。そもそも朱莉さんを沖縄に呼んだのは明日香の側にいて貰う為だ。何かあった時、逐一朱莉さんには明日香の様子を報告してもらいたいし、身の回りの世話だって……」「だったら家政婦でも何でも雇えばいいだろう?」「いずれはそうするつもりだ。口の堅い家政婦が見つかればそれでいい。だけどそれまでは朱莉さんに明日香を頼むしか無いんだよ。そうだろう、明日香?」「う~ん……。でもあまり拘束したら朱莉さん気の毒じゃないかしら? 程々で私は構わないけど?」「ほ、程々って……それを誰に判断させるんだよ? 言っておくが朱莉さんにはそんな判断出来っこないからな? とにかく翔、それに明日香ちゃん! 朱莉さんをこき使うのはやめろ!」琢磨は朱莉を守る為に必死だった。しかし……。「いや……そもそも朱莉さんにはそれなりの報酬を支払ってるんだ。だからこれから先も少々の無理は聞いて貰わないと……その為の契約婚なんだからな」その時――ドサッ!!病室の外で何か物が落ちる音が聞こえた。「何だ?」琢磨は病室のドアを開けて息を飲んだ。「あ……朱莉……さん……」(そんな……嘘だろう? 一体いつから朱莉さんは俺達の話を聞いていたんだ?)「あ、あの……私……まだ頼まれた買い物を別に自分の鞄に入れておいて……そ、それを届けに……」朱莉は眼を見開いて、病室にいる翔と明日香の姿を見た。その姿は…まるで怯えているようだった。「あ、朱莉さん……今のは……!」流石にばつが悪いと思ったのか、翔が声をかけた時。「す、すみませんでした。これ……お願いします!」朱莉は落してしまった包みを慌てて拾い上げ、琢磨に押し付けるように渡すと逃げるように立ち去って行く。「朱莉さん!」琢磨の呼びかけに
last updateLast Updated : 2025-04-12
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7-17 沖縄の夜 1

 琢磨と朱莉は「めんそーれ」と言う沖縄料理を出す居酒屋に来ていた。「「……」」2人はお座敷席でお互い無言で向かい合って座り、注文を取りに来た若い男性店員もバツが悪そうに注文待ちをしている。「……朱莉さん。注文…・・・どうする?」琢磨がメニューを差し出しながら朱莉に勧めた。「そ……。ではグレープフルーツサワーと……このタコライスでお願いします」「うん。そうだね。このタコライスは沖縄のソウルフードと言われてるからね。それじゃ、俺は生ビールと海ぶどうの三杯酢……それとゴーヤチャンプルー。あとラフテーをお願いします」「はい、かしこまりしました」店員はほっとしたようにメニューを取ると、そそくさと立ち去って行った。「九条さん、今のメニュー、全部沖縄料理ですか? ゴーヤチャンプルーは聞いたことがありますけど後は全部初耳です」「そうかい? それじゃメニューが届いたら一緒に食べてみようよ。気に入ってもらえるといいけどね」ようやく朱莉の方から話しかけてくれたので、琢磨は笑みを浮かべた。 あの後、朱莉は琢磨に縋りついて20分近く声も出さずにすすり泣いていた。その様子があまりにも哀れで、琢磨は翔と明日香に激しい怒りを感じずにはいられなかった。(くそっ……! 朱莉さんをあんなに泣かして……最近の明日香ちゃんは以前に比べて少しはマシになってきたが、そこへいくと翔のあの態度は一体何なんだ!? 絶対にいずれ朱莉さんに謝罪させてやる!)先程のことを思い返していると朱莉が話しかけてきた。「九条さん……」「どうしたんだい?」琢磨は出来るだけ優しい声で朱莉に返事をした。せめて翔が朱莉に親切に出来ないなら、自分だけでも朱莉に優しく接してあげようと思ったからだ。「いつもいつも……九条さんの前で子供の様に泣いたりして呆れてしまいますよね? 本当にすみません。……自分がこんなに泣き虫だったなんて気付きませんでした。本当にお恥ずかしい限りです」朱莉は頭を下げた。「朱莉さん、それは……」(それは翔のことが好きだからだろう? 好きな相手に冷たい言葉を投げつけられるから、それだけ辛く悲しく感じてしまうんじゃないのか?)しかし、琢磨はその台詞を口にすることなく言った。「別に気にすることはないよ。いや、むしろ他の男の前で泣かれるくらいなら……俺の前でだけ泣いてくれた方が嬉しいか
last updateLast Updated : 2025-04-13
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7-18 沖縄の夜 2

それから2時間後——「朱莉さん、朱莉さん。大丈夫かい?」琢磨は壁に寄りかかり、うつらうつらしている朱莉に声をかけた。「は? はい……? だ、大丈夫です……」朱莉はすっかり酔ってしまっていた。(まさか、チューハイ1杯とカクテル1杯で酔ってしまうとは……まるでザルのような明日香ちゃんとは大違いだな……)琢磨は会計を済ませると、朱莉を何とか立たせ、背中に背負うと居酒屋を後にした。通行人たちからはジロジロ妙な目で見られたが、琢磨は気にも留めなかった。(どうせ、ここは沖縄だ。俺の知り合いだっていないんだし……構うものか)朱莉を背負ったままタクシー乗り場に行ってみると、丁度運がいい事に客待ちのタクシーが1台停車していた。そこで琢磨は朱莉を抱えるように乗り込むと運転手に朱莉が宿泊中のホテルの名を告げた。「……」 自分の肩に朱莉をもたれさせるように座らせ、琢磨は夜の沖縄の町を眺めていた。国際通りには大勢の観光客と思しき人々が沢山歩いている。それを見ながら琢磨は思った。(これから朱莉さんは何カ月も沖縄で1人暮らしをすることになるんだ……。出来れば俺も朱莉さんの傍にいてやりたいけど……)ちらりと自分の肩に寄りかかって眠っている朱莉を見つめた。(だけど、朱莉さんが望んでいるのは俺じゃない……)それを考えると琢磨の胸はわけの分からない痛みに襲われるのだった――「ありがとうございます」琢磨はタクシーを降りるとお金を支払い、朱莉を背負ったまま宿泊しているホテルのフロントに行った。そこで事情を話し、宿泊している部屋の鍵を預かると琢磨は朱莉のいる部屋へ足を向けた。「……ここが朱莉さんの宿泊する部屋か……」そこそこのレベルのホテルなのかもしれないが、自分の宿泊している部屋と見比べると罪悪感を抱く。「俺はあんなすごい部屋に宿泊しているのに、朱莉さんは……」とりあえず、朱莉を寝かせなければと思い、ベッドの布団をめくると、そこに朱莉を横たえた。それでも朱莉はちっとも起きる気配は無い。普段大人びて見える朱莉だが、こうして眠っている姿はまるで子供の様にも見える。「フフ……可愛らしいな」琢磨は次の瞬間驚いた。「……一体俺は何を……?」その直後、朱莉がうなり始めた。「う~ん……」「朱莉さん? 目が覚めたのか?」しかし朱里からは返事が無いが、何か呟いている。琢
last updateLast Updated : 2025-04-13
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7-19 2人で朝食を 1

 翌朝―― 目を覚ました朱莉は、自分がいつの間にか滞在先のホテルのベッドの上で眠っていることに驚いた。慌てて飛び起き、昨夜のことを思い返してみる。「え……と。昨夜は確か九条さんと居酒屋へ行って……」グレープフルーツサワーを飲んだところまでは記憶がある。けれど、その後の記憶が朱莉には全く無かった。「ひょとして私酔っぱらって……お店で寝ちゃった……?」そう言えば何となく記憶がある。琢磨に背負われてタクシーに乗った曖昧な記憶が……。「た、大変! 九条さんにとんでもない迷惑をかけちゃった!」部屋の時計を見ると6時過ぎだった。「この時間なら、まだ寝てるかも……」朱莉はキャリーケースから着替えを取り出すとすぐにバスルームへ向いシャワーを浴び、部屋へ戻るとスマホを手に取った。(7時になったら九条さんにメッセージをいれよう)朱莉はまず先に母親にメッセージを書いた。『お母さん、おはよう。今朝の具合はどう? 昨日はメッセージ送れなくてごめんね。昨日お店で綺麗な絵ハガキを見つけて買ったから、手紙出すね』送信すると、ベッドを直してカーテンを開ける。「私、本当に沖縄に来ちゃったんだ……」朱莉はポツリと呟いた――**** その頃琢磨はもう起きており、翔から届いたメッセージを読んでいた。そこには朱莉のことを心配する内容が書かれていたのだが……。「全く心配しているなら初めからあんな台詞言うなよ! 時々朱莉さんを労わるような言葉を言っておきながら、結局最後は冷たい言動を取るからよけい朱莉さんを傷付けているってことにあいつは気付いてないのか?」朝からイライラした気分になった琢磨は部屋に備え付けのコーヒーメーカでブラックコーヒーを淹れながら呟いた。「朱莉さんはもう起きているかな? 起きていればホテルに迎えに行ってここのホテルの朝食を一緒に食べれるんだが……。よし、試しに声をかけてみるか」琢磨はスマホを握りしめると、朱莉に電話をかけた。****丁度その頃、朱莉はネットで通信教育を受けていた時、琢磨から着信が入ってきた。「え? 九条さん?」朱莉は慌てて電話に出た。「もしもし、おはようございます。九条さん」『お早う、朱莉さん。良かった。起きていたんだね。まだ寝ていたらどうしようかと思っていたんだ』「いえ、もう6時には起きていましたから。それで……」朱
last updateLast Updated : 2025-04-13
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7-20 2人で朝食を 2

「す、すごい……。こんな立派なホテル初めて見ます」ホテルに到着した朱莉はその豪華な造りに目を見開いた。それを見た琢磨が申し訳なさそうに謝る。「朱莉さん、ごめん。俺だけこんな立派な部屋へ泊って。何なら今夜は朱莉さんと俺の宿泊先を交換してもいいよ?」レストランに向って歩きながら琢磨が言った。「な、何言ってるんですか? そんなとんでもないですよ。私は今のホテルで十分満足しています。だから全然気にされなくて大丈夫ですからね?」「そうかい?」琢磨は少し目を伏せた――「ほら、ここで朝食を取るんだよ」琢磨に案内されたレストランはとても広く、天井からは豪華なシャンデリアが吊り下げらていた。「な、何だか気後れしてしまいます。私、こんなカジュアルな服装をしているのに」朱莉は自分の服装を見直しながら言った。朱莉の今日の服装は柄の入った白いTシャツにデニムのロングスカートにサンダルとういうスタイルである。「ハハハ。そんな事無いよ、良く似合ってる。それに俺だってポロシャツ姿だ。他のお客も似たような服装をしているだろう?」「言われてみれば確かにそうですね」「よし、それじゃここのテーブル席にしようか?」琢磨は窓側の座席を示した。「はい、そうですね」朱莉が座ろうとしたとき。「朱莉さん。ここビュッフェスタイルなんだ。だから好きなメニューを選んで取って来るんだよ。俺はここで待っているから先に行って来るといいよ」「え? でもそれでは……」「朝、部屋でコーヒーを飲んでるからそれ程お腹が空いてるわけじゃないんだよ」琢磨の言葉に朱莉は納得した。「そうですか? それではお先に行ってきますね」 カウンターには様々なおいしそうな料理が並び、どれも目移りするものばかりだった。取りあえず琢磨を待たせてはいけないと思った朱莉は、パンに卵料理、サラダにスープ、ヨーグルトを選んで琢磨の元へ戻りかけた時、2人の女性が琢磨の側で話をしてる姿が目に止まった。(え? 九条さん? あの女の人達は誰だろう? ひょっとして知り合いなのかな?)席に戻っていいのかどうか朱莉は迷って立ち止まっていると、琢磨が朱莉に向って手を振ってきた。「朱莉、こっちだ!」(え?? あ、朱莉!?)いきなり呼び捨てされ、笑顔で呼ばれたので朱莉はすっかり面食らってしまった。そして同時に感じたのは2人の女性の自分
last updateLast Updated : 2025-04-13
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7-21 ビジネス 1

 朝食を食べ終えた2人は今琢磨の運転する車で病院へと向かっていた。「朱莉さん、さっきはごめん」琢磨が突然ポツリと言った。「え? さっき? 何のことですか?」朱莉は突然琢磨が謝罪してきたので、振り返った。「いや、レストランで突然朱莉さんの名前を呼び捨てしたり、彼女だって言ったりしたことだよ」「あ。あの事ですか? 別に謝らなくていいですよ。私は気にしていませんので。確かに少し驚きはしましたが、あの女性達の手前、ああいう言い方をしたのですよね?」「うん。まあ……そうなんだけどね」琢磨は歯切れが悪そうに返事をする。「だけど、やっぱり九条さんは女性にモテるんですね」「え? や、やっぱりって?」九条は狼狽えて朱莉を見た。「はい。九条さんは素敵な男の人ですからね。女性達から人気があって当然ですよね? やっぱり私の思った通りでした「朱莉さん……」朱莉から「素敵な男の人」と言われて琢磨は思わず赤面しそうになった。まさか朱莉が自分のことをそんな風に見てくれているとは思ってもいなかったからだ。しかし、そこでまた琢磨の胸に暗い影が落ちる。(それでも朱莉さんの好きな男は……翔なんだろう?)琢磨は窓の外を眺めている朱莉を横目でチラリと見た。朱莉の目に映すのは翔ではなく、自分だったらどんなにか良かったのに。自分だったら朱莉をあんな悲しい目に遭わせないのに。だが、琢磨は自分の気持ちを朱莉に告げることは出来ない。それが琢磨にはとても辛かった――****  翔との待ち合わせは病院内に併設されたカフェだった。明日香は今検査を受けていると言うことで、カフェで待ち合わせをすることにしていたのだ。琢磨と朱莉がカフェに行くと既に翔は席に着いており、2人を見ると手を上げた。「おはようございます、翔さん」「おはよう、翔」「おはよう、琢磨。それに朱莉さん。その……昨日は本当にすまなかった」翔は申し訳なさげに朱莉に謝罪した。「翔!謝るなら最初からあんな酷い言い方をするなっ!」朱莉に謝る翔を激しく非難する琢磨。「九条さん……」そんな琢磨を朱莉が見つめる。「分かってる、琢磨の言う通りだよ。本当にごめん。明日香のことになると、俺はどうしても感情的になってしまうんだ」再び、翔は朱莉に頭を下げた。だが、翔はその行為すら朱莉を傷付けているとは気が付いてもいない。
last updateLast Updated : 2025-04-13
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7-22 ビジネス 2

「あ、朱莉さん……? 本当にそれでいいのか……?」琢磨は驚いて朱莉を見つめた。「はい。当然ですよね。明日香さんが産んだ子供は私が産んだことにするわけですから」「ありがとう、朱莉さん。話が早くて助かるよ。それと念の為にこれからは服装も気を遣って貰えないかな? 明日香のお腹の大きさと見比べて大差ないように何か工夫をして貰えるとより一層助かるんだが……」翔は申し訳なさそうに言う。「ば、馬鹿言うな。翔……」琢磨は怒りに声を震わせた。朱莉は俯いて、ぎゅっとスカートを握りしめていたが、顔を上げた。「はい。分かりました。何とかやってみますね」「翔! 俺はそんなの認めないからな!? 朱莉さんに妊婦の真似をさせるなんて!」「写真が!」すると翔が叫んだ。「「え……?」」朱莉と琢磨が同時に首を傾げる。「写真がいるんだよ。いざという時の為に……」「そうか、お前は自分と明日香ちゃんの身の保全の為に朱莉さんの妊婦姿の写真が欲しいと言うんだな?」琢磨は冷たい声で言う。「ああ。それだけじゃない。世間の目もあるだろう? これは、朱莉さんの為でもあるんだ」翔の言葉に朱莉が反応した。「私の……為ですか?」「朱莉さん! こいつの言葉に耳を貸す必要なんか無いぞ! 朱莉さんの為とか言って、本当は自分達のことしか考えていないくせに!」「少し黙っていてくれ! これは俺と明日香、そして朱莉さんの問題なんだ!」琢磨の怒鳴り声に、翔が吐き捨てるように言った。「な、何だって……?」(こいつ……自分で何言ってるのか分かってるのか!?)琢磨はこぶしを握り締めながら翔を見た。「そう、これは……朱莉さんに取ってのビジネスだ」「ビジネス……」朱莉は小さく呟いた。「ああ、世間を騙す為には完璧にしないといけない。手を抜いたら駄目なんだ。いいかい、考えてもみるんだ。いきなり今の体型で子供を産みましたと言って誰が信じる? 世間の目を欺くには偽装が必要なんだよ」「偽装……ですか?」朱莉は一瞬悲し気な顔で目を伏せた。「分かりました。仰るとおりにいたします」「朱莉さん!」琢磨は朱莉の肩に両手を置いた。「何故だ!? 何故そこまでこいつの言う事を聞くんだよ!」「け、契約妻……だからです」「琢磨、お前がいると話しが進まない。席を外してくれ」翔は琢磨に視線を移す。「断るっ!!
last updateLast Updated : 2025-04-13
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