「くそ! まだ翔の話は終わらないのか?」琢磨は病院のロビーでイライラしながら時計を眺めていた。その時、朱莉の姿が見えた。朱莉は琢磨の方へ向かって歩いてくる。「朱莉さん!」琢磨はここが病院だということも忘れ、朱莉の傍まで駆け寄って来た。「九条さん。すみません、お待たせしてしまって」朱莉は笑みを浮かべているが、その顔色は酷く悪かった。「大丈夫かい? 顔色が悪いよ。少しここで休んで行かないか?」「いいえ、大丈夫です。それよりも色々と買い物があるので」それを聞いた琢磨の顔が途端に険しくなる。「買い物だって? こっちは既に明日香ちゃんの大量のクリーニングだって渡したのに、まだ何かあるのかい?」「いいえ、違います。今回は私個人の買い物なんです」「買い物? それは一体……」そこまで言いかけて、琢磨は口を閉じた。「ひょっとするとマタニティ用の服でも買うつもりなのかい?」「!」朱莉の肩が小さく跳ねるのを琢磨は見逃さなかった。「そうか……。翔に言われたからだな?」琢磨はギリリと歯を食いしばった。「で、でもマタニティ服でも普段着として使えますし、い、いずれ私もこの契約婚が終わった後……」そこまで言うと朱莉は眼を擦り、俯いた。「……」琢磨はそんな朱莉を黙って見降ろしていた。(朱莉さん……その後の台詞は一体何て言おうとしていたんだ? あいつ等は腹立たしいが、朱莉さんを1人には出来ない)「付き合うよ」「え?」「俺も朱莉さんの買い物に付き合うよ。と言うか、付き合わせてくれないかな?お願いだ」「いいんですか? でも、そう言っていただけると助かります」朱莉は丁寧に頭を下げた。「いや、いいんだよ。どのみち、明日から朱莉さんはマンションで暮す事になるんだから買い物は必要だよ。今日の内に朱莉さんが使う日用品の買い物に1日付き合おうと決めていたんだ」琢磨は笑顔で答えた。「え? 1日ですか? それではご迷惑をかけてしまいます。だって九条さんは明日の飛行機で東京に帰って、その足で職場に向かうんですよね? 翔さんが言ってましたよ?」「確かにそうだけど、でも出張と似たような物だよ。今までだって遠くの出張先から東京へ戻ってそのまま出社なんて多々あることだから」「でも1時間程お付き合いただければ、後は大丈夫ですから」「いいんだ、だって今日も沢山買い物が
Last Updated : 2025-04-14 Read more