Semua Bab 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした: Bab 201 - Bab 210

428 Bab

8-3 明日香からの頼み 1

「お客様、それではこちらのお車でよろしいでしょうか?」若い女性社員が朱莉の側に寄ると声をかけてきた。「はい、こちらでお願いします。とても素敵なデザインで、運転席の窓も大きくて見やすいので気に入りました」朱莉は笑顔で答える。朱莉は軽自動車を専門に販売している車の代理店に来ていた。ここは新車から、新古車……いわゆる展示用の車両でほぼ新車に近い車両を扱う店であった。いきなり初心者で新車を買って乗るのは図々しいような気がして、朱莉は敢えて新古車を選んだのだ。しかもたまたま気にいったデザインであったし、カーナビやドライブレコーダーなどは勿論の事、内装も朱莉好みにカスタマイズされていたからである。「それでは手続きを致しますので、店内へお入りください」女性社員に案内されて朱莉は中へと入って行った。それから約1時間後――朱莉は店を出た。事前に車購入時はどのような書類が必要か調べ、必要な物は全て揃えて来たので手続きをスムーズに行う事が出来た。「マンションの地下駐車場の契約も済んでるし……納車までは1週間か。フフフ……楽しみだな」朱莉は笑みを浮かべ、腕時計を見た。時刻は11時少し前を差している。(今からタクシーで明日香さんの病院へ行けばお昼前にはマンションに戻れるかな?)そして朱莉はタクシー乗り場へ向かった―― タクシーに乗る事15分。朱莉は病院へと到着した。翔と新しく契約した書類の書面通り、朱莉は週に2度明日香の元へ洗濯物の交換の為に病院へ足を運んでいた。明日香との会話は殆ど無く、挨拶をする程度だったのが……何故か今日は違った。――コンコン病室のドアをノックしながら朱莉は声をかける。「明日香さん、朱莉です。いらっしゃいますか?」すると中から返事があった。「いるわよ、どうぞ」「失礼します」朱莉は言いながらドアを開ける。「こんにちは、明日香さん。お腹の具合はどうですか?」「そうね……大分調子が良くなってきたわ。」明日香は真剣な眼差しでPC画面を見つめている。おまけに何故か顔色が悪い。(どうしたんだろう? 随分熱心に画面を見ているようだけど……?)「明日香さん、クリーニング済みの着替えを持ってきたので、入れておきますね」朱莉は明日香の衣装ケースにしまいながら声をかける。「ありがとう、朱莉さん。……いつも悪いわね」すると背後か
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-16
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8-4 明日香からの頼み 2

 そこには仲睦まじげに歩く翔と見知らぬ女性が映っていた。その女性はロングヘアの美しい女性で品の良いカジュアルスーツを着こなし、翔に笑顔を向けて歩いている。それらの写真が様々な角度で何枚も撮影された姿がPC画面に映し出されていたのだ。朱莉は驚いて明日香を見ると、唇を噛み締めて青白い顔をして食い入るように画面を見つめていた。「あ、あの明日香さん……。これは……?」「2日前に突然私のPC用のアドレスにメールが届いたのよ。宛先人は不明だったんだけど……添付ファイルが付いていたわ」明日香は一言一言区切るように話をする。「いつもならそんなの迷惑メールだと思ってチェックをする事も無いんだけど、でもこのファイルの題名が『鳴海翔に関する重要事項』と題名が付いていてつい、開いて見てしまったの。そしたらこんな画像が……」最期の方は震え声だった。明日香の話はまだ続く。「このメールには文章が添えられていたのよ。見る?」「え……? 私が見ても構わないんですか?」「うん……いいわ。と言うか朱莉さんにも読んで貰いたくて……」「分かりました。それでは拝見させていただきます」朱莉は明日香宛に届いたメールを読んだ。『こちらに写っている女性は鳴海翔の新しい女性秘書である<姫宮静香>という女性です。秘書と副社長という立場でありながら、必要以上に2人の距離が近いような気がしたので写真を撮り、ファイルで送らせて頂きました。噂によると鳴海翔の前秘書である<九条琢磨>がクビにされたのは、この女性が進言したとも言われています。以上、報告させていただきます』朱莉はメールを読み終えると明日香を見た。「明日香さん……このメールの相手に何か心当たりはありますか?」「無いわ……あるはず無いじゃない! 私はずっとこの病院のベッドから動けないんだから!」「あ、明日香さん……」(そうだ……。明日香さんは絶対安静の身。それに翔先輩だって東京に行ってからまだ沖縄には来ていないのだから明日香さんに心当たりがあるはずない)「翔……。まさか……この新しい秘書のことを好きに……?」明日香の目には涙が浮かんでいる。「明日香さん……」勿論、朱莉もショックを受けている。朱莉だって翔のことが好きなのだ。だが、今は目の前にいる明日香のことが心配でたまらない。まだ安静が必要とされる状況でこんな写真をメールで送っ
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8-5 東京へ 1

「お願いよ、朱莉さん。このままじゃ私不安で……」明日香が涙ながらに朱莉に縋りついてきた。「明日香さん……」あの気の強い明日香が自分に泣いて縋っている。朱莉はそんな明日香を放っておくことは出来なかった。本当は自分で東京まで行って確認してきたいだろうに……。明日香はこれから子供の出産を控えている。妊婦の明日香を不安な気持ちにさせておくわけにはいかない。だから朱莉は頷いた。「分かりました。明日香さん。もし、今日の飛行機の便が取れたならすぐに東京へ向かいます」「本当? それじゃ私が今飛行機を調べるから悪いけど朱莉さんは自宅へ帰って東京へ発つ準備をしておいて貰える? 後は……」明日香はベッドサイドにある棚から名刺入れを取り出すと、しばらくページをめくっていたが何かを見つけたのか1枚引き抜くと朱莉に手渡してきた。「朱莉さん、東京へ着いたらここを尋ねて貰える?」「安西弘樹……興信所?」朱莉は名刺に書かれている文字を読んだ。「その人はね、私の大学時代の恩師なのよ。5年前に大学を辞めて今は興信所の所長を務めているの。私から連絡を入れておくから、朱莉さん、どうかこの人を訪ねて。翔と秘書の事を調べて。お願い」明日香が頭を下げてきたので朱莉は驚いた。「そんな顔を上げて下さい、明日香さん。確かに私1人ではどうしようも出来ないと思います。分かりました。東京に着いたらこの方を訪ねます。だから明日香さんは、お腹の赤ちゃんにさわらないように安静にしていて下さい」朱莉は明日香を元気づけるのだった。 病院を出て朱莉はタクシーを拾うと自宅へ戻った。そしてサークルにいるネイビーを抱き上げた。「ごめんね。ネイビー。私、東京へ行かなくてはならなくなったの。だからペットホテルで待っていてね?」朱莉はネイビーに頬ずりすると、以前利用させてもらったペットホテルに電話を掛けた――「すみません。それでは1週間ほど、お願いします」朱莉はペットホテルの従業員男性に丁寧に頭を下げ、スマホをチェックしてみると明日香からメッセージが届いていた。『朱莉さん、飛行機の手配をしたわ。一応余裕を持たせて18時の便のビジネスクラスを予約したわ。今迄色々酷いことをしてごめんなさい。特にモルディブの件では悪いことをしてしまったと反省してるわ。今は貴女だけが頼りなの。どうかお願いします』「! 明日香さん
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8-6 東京へ 2

 ――17時半 朱莉は那覇空港のお土産屋さんに来ていた。「お母さんと京極さんに何か沖縄のお土産でも買って帰ろうかな……」沖縄名物のちんすこうを手に取った時、朱莉はハッとした。「そうだ。明日香さんが無事出産が終わるまではお母さんや京極さんの前に姿を見せる事は出来ないんだっけ。何かボロが出たらいけないし」手に取ったお土産を元の位置に戻すと朱莉は溜息をついた。折角一カ月半ぶりに東京に帰るのに、母に会うことが出来ないのは何ともやるせないものだった。そしてふと思った。(もし……九条さんがまだ翔先輩の秘書をやっていたなら、九条さんの分だけでもお土産を買って会うことが出来たのに……)そこまで考えて朱莉は首を振った。(馬鹿ね。私ったら。九条さんはもう翔先輩の秘書じゃない。ようやく九条さんは煩わしいことから手が離れたんだろうから、もう九条さんのことは忘れないと)その時、館内放送が流れて朱莉の乗る飛行機のアナウンスが入った。「行かなくちゃ」朱莉は搭乗ゲートへ向かって歩き出した―― 20時半―朱莉は羽田空港で、荷物が届くのを待ちながら先程まで自分が乗っていた飛行機のことを思い出していた。(それにしても驚いたな。まさかビジネスクラスあんなにゆったりした座席だったなんて。明日香さんに感謝しなくちゃ)やがて荷物が回ってくると、朱莉は荷物を取って女子トイレへと向かった。 次に出てきた時には朱莉の姿は妊婦のような恰好へと変わっていた。実は女子トイレに入り、お腹にタオルを入れてスカーフで巻いて来たのである。念の為に朱莉は空港で妊婦の格好をしようと決めていたのだ。タクシー乗り場でタクシーを待ちながら朱莉は思案していた。(そう言えば沖縄へ行く時は京極さんが車を出してくれて、ここまで乗せてくれたんだっけ。色々お世話になったから、一時的に東京に戻って来たことを本当は伝えたいけど……)しかし、それは今の朱莉の立場では叶わない事だった――**** 朱莉が億ションに帰って来たのは22時近くになっていた。「それにしても、今日は雨が降っていなくて本当に良かった。おかげで家の換気が出来るわ」朱莉は窓を開けると、30分程換気をして窓を閉めた。シャワーを浴びて部屋にもどってくると、スマホに3件の着信が入っている。1件目は明日香からで、無事に朱莉が東京へ戻れて安心したこと
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8-7 それぞれの長い夜 1

 朱莉はスマホを震える手で握り締めた。いつもの朱莉なら翔からのメッセージに心を躍らせていたのだが、今日だけは違う。(怖い……このメッセージには一体何て書かれているの? 翔先輩……貴方は今何を考えているのですか?)朱莉は深呼吸をすると、翔からのメッセージをタップした。『こんばんは、朱莉さん。近々出張で鹿児島支社に行くことになったんだ。その時に沖縄にも寄らせて貰うよ。朱莉さんにも新しい秘書を紹介したいし。日程が決まったらまた連絡するね。そう言えば車は買えたのかな? 沖縄に行ったら朱莉さんの車を見せてくれるかい? 楽しみにしているよ。それじゃまた明日。お休み』「……」朱莉はじっと翔から届いたメッセージに目を通し、……何度も読み返し、終いには目を擦ってみた。今夜の翔からのメッセージには違和感がある。(え? ど、どうして今夜のメッセージに限って明日香さんのことが何一つ書かれていないの? いつもなら必ず明日香さんのことが書かれているのに?)単なる偶然なのだろうか?今の朱莉は本日、明日香から見せられた写真とメッセージで疑心暗鬼になってしまっていた。だけど、ずっと明日香と翔のことを誰よりも近くで見てきたのは自分だと思っている。朱莉にとっては悲しいことだけども明日香と翔の間には決して揺らぐことのない強い愛情で結ばれていると感じていた。それこそ、朱莉の入り込む隙等無いほどに。 こんな内容のメッセージを明日香に見せられるはずが無い。自分のことが何一つか書かれておらず、代わりに新しい秘書のことが書かれているのを目にすればあのプライドの高い明日香のことだ。どれだけ深く傷ついてしまうだろう。朱莉は明日香に今迄散々辛い目に遭わされて来たけれども、妊娠してからは徐々に明日香は変わってきていた。だから、朱莉も色々思う所があっても明日香の態度が軟化してきたので歩み寄れたら……と考えていたのだ。なので、余計に今の話を明日香に知らせるわけにはいかない。「そう、たまたま今夜のメッセージは明日香さんのことが書かれていなかっただけ……」朱莉は無理に自分に言い聞かせた。それに今は明日香のことばかりを心配している訳にはいかない事情が発生してしまった。翔からのメッセージには近々沖縄に行くと書かれていたけれどもそれはいつなのだろう?もし数日以内だとしたら、朱莉は東京にいつまでも残ってい
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8-8 それぞれの長い夜 2

22時半―― 明日香はベッドの上で眠れぬ夜を過ごしていた。こんなに不安な夜を過ごすのはあの時以来だ。こうして1人きりでいるとあの日の夜を思い出してしまう。母が、まだ幼い子供だった明日香を捨てて新しく出来た恋人の元へ去って行ったあの日の夜が――あの時から明日香は鳴海家で居心地の悪い立場の人間となってしまった。元々明日香は父親が誰かも分からない子供で、連れ子として鳴海家へやってきたのだ。それでも母がいる分にはまだ鳴海家での居場所はあった。しかし、母親が自分を捨てて出て行ってしまってから明日香はますます立場が悪くなり、邪魔な存在扱いをされ……特に翔の祖父からは徹底的に嫌われた。子供の頃は意味が分からなかったが、祖父からはお前は娼婦の娘だと良く言われて来た。鳴海家の使用人達からは馬鹿にされ、陰でいじめられていた。義理の父親は優しかったが、祖父に疎まれて海外勤務へ追いやられて屋敷からはいなくなってしまった。そんな居心地の悪い屋敷の中で唯一の救いが血の繋がらない数カ月だけ年上の兄の翔だったのだ。毎日泣いて暮らす明日香を見兼ねた翔は明日香の母親をこの屋敷に呼び戻そうとする為に、ある行動を起こした。それこそ、子供ながらの浅はかな行動を……。そしてあの事故が起こり、翔は明日香から離れなくなったのだ。「翔……。ひょっとして私に対する罪悪感から私と一緒になろうと思ったの? 本当は私のことは好きじゃなかったの……?」明日香の目に涙が浮かんできた。その時、明日香のスマホが着信を知らせた。その相手は朱莉からだった。「朱莉さん……」明日香は朱莉からのメッセージを読んだ。『こんばんは。明日香さん。夜分にすみません。実は東京に戻ってから、一度部屋に戻ったのですが、考えてみればこちらには翔さんが住んでいます。鉢合わせをする危険性があると思うので、ここを出て今から上野にあるウィークリーマンションへ滞在することにします。上野でしたら明日香さんが紹介して下さった安西さんの興信所もありますし、日比谷線で乗り換え無しで六本木に出ることも出来ますから。後、私の方でも翔さんと新しい秘書の方が気になるので、少し調べてみようかと思います。それではまた明日ご連絡いたします』「朱莉さん……こんな夜に上野へ行くなんて大丈夫かしら。私が行ければ良かったのに……。ごめんなさい、朱莉さん……」(翔…
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8-9 小さな疑念 1

 今を遡る事2時間前――「それにしても驚きましたよ。会長。突然日本へ戻って来られたのですから」応接室に呼ばれた翔は鳴海グループの会長である鳴海猛と向かい合わせに座り、会話をしていた。ここは鳴海邸。突然一時帰国して来た鳴海猛が翔を邸宅に呼びつけたのだ。「何故だ? いきなり日本に帰国すると何かお前に不都合でもあるのか?」相変わらず威厳たっぷりに猛は翔に尋ねる。「いえ、別にそういう訳ではありませんが」翔は内心の焦りを隠しながら冷静に返事をする。「まあ帰国と言っても一時的だ。中国支社にいたから、日本に久々に立ち寄っただけだ。2日後にはカルフォルニアへ行かなければならない」「カルフォルニアですか。これはまた随分遠くへ行かれますね」「ああ。最近あの地域は他の日本企業も多く進出しているからな。負けられない。実は現地で1500人の雇用を考えているのだ。どうだ、翔? お前カルフォルニアへ行く気はあるか?」「え? そ、それは……」(そんな、今の状況で日本を離れるなんて無理だ!)「ハハハ……冗談だ。責任者は現地で調達するからお前は気にすることは無い。だがいずれはお前にも海外支社を任すことになるかもしれんな。この通り、私はまだまだ身体は元気だ。当分現役で働けそうだからな。まあ、もっともお前がこの先、より一層成長すれば引退を考えてもいいだろう。可愛い曾孫も産まれることだし」猛は何処か目の奥を光らせ、翔を見た。「そうですね。順調にいけば5か月後には曾孫を抱かせてあげることが出来ますよ」動揺を隠しながら翔は笑顔になる。「それで朱莉さんは沖縄にいるそうだが、何故だ?」突然の核心を突いてくる猛の言葉に翔の全身に一気に緊張が走る。するとその時、まるでタイミングを見計らったかのようにドアをノックする音が聞こえた。――コンコン「誰だね?」猛がドア越しに声を掛けると、外から女性の声が答えた。『姫宮でございます』「ああ、君か。入れ」会長が促すとドアが開かれ、翔の新しい秘書である姫宮静香が現れた。長い黒髪に美しい容姿の女性だ。「お久しぶりでございます、会長」「ああ、そうだな。どうだ? 姫宮。翔の新しい秘書になって。何か意見はあるか?」「はい、まだお若いながら中々のやり手のお方だと感じました。私もこの方の下で色々学ぶことが出来そうです」姫宮は深々と頭を下
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-17
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8-10 小さな疑念 2

プルルルル……駅に向かって歩いている時に朱莉のスマホが突然鳴り響いた。その音に驚いた朱莉の肩がピクリと跳ねる。「い、一体こんな時間に誰から?」朱莉は足を止めると慌ててスマホを取り出し、息を飲んだ。(そ、そんな京極さん? な、何故突然……)京極には明日電話を入れるとメッセージを送ってある。なのに京極から電話がかかって来るとは思ってもいなかった。(どうしよう……。このまま電話が切れるのを待つ? でもそうすると京極さんをますます心配にさせてしまう)仕方が無い。出るしか無いだろう。そう思った朱莉は通話をタップした。「はい、もしもし」『朱莉さん! ああ、良かった……やっと出てくれましたね。心配しましたよ。いつもすぐに電話に出てくれる朱莉さんが何コール鳴っても中々出てくれなかったので』受話器越しから京極の安堵の声が聞こえてくる。「申し訳ございませんでした」朱莉は素直に謝罪する。『朱莉さん貴女の顔を見ながらお話したいのですが』「すみません、今は無理です!」京極の提案に思わず朱莉は強い口調で断ってしまった。『え? 何故ですか?』京極の声は驚きと、何処か悲しみが含まれているように朱莉は聞こえた。「あ、あのすみません。きつい言い方になってしまって。じ、実は今外にいるんです」『え? 何ですって? こんな夜分にですか?』京極の声が何処か鋭くなった。そして脳裏に先ほど見た光景が蘇る。「あ、あのコンビニに来ているんです。何だかお酒が飲みたい気分になって……それで買いにマンションを出て来たんです」朱莉は必死で言いわけをする。『そうですか。だから外が騒がしいんですね。でも朱莉さん。あまり夜分女性が町中を歩くものではありませんよ? 特に朱莉さんは一目を引く容姿をしているのですから、変な男に声を掛け兼ねられない』「な、何をまたおかしなことを言うのですか? わ、私は平凡な容姿ですよ」『朱莉さんは自分がどれだけ魅力的な外見をしているのかご自分で気付かれていないのですね。もう一度鏡で良くお顔を御覧になってみて下さい』京極の言葉に、朱莉は違和感を抱いた。(え……? 京極さん、どうしちゃったのかな……?)今夜の京極は何だかいつもと違うように朱莉には感じた。「もしかすると酔ってらっしゃいますか?」『何故そう思うのですか?』「い、いえ。何となくそう思っ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-17
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8-11 安西弘樹 1

 翌朝――朱莉は上野駅から徒歩5分程にあるウィークリーマンションで目が覚めた。1Kの6畳間に2畳ほどのロフト付きの部屋。1口コンロにバストイレ付。「フフ……何だか以前自分が住んでいた部屋みたい」いつも自分が過ごしてきたような広々とした部屋では無いが、朱莉にとっては何故かこの空間は居心地の良い部屋だった。「翔先輩と離婚が成立して、お母さんとまだ一緒に暮らせないなら、やっぱりこの位の広さの部屋に住もうかな」寂しげに言うと朱莉はベッドから起き上がり、着替えを始めた—― その後、近所のコンビニで朝食を買って部屋に戻り、テレビをつけた時にスマホに着信があった。相手は明日香からだった。朱莉はすぐにメッセージを開いて見た。『おはよう、朱莉さん。昨夜は無事に上野に着いたのかしら? 昨夜のうちに安西先生には連絡を入れておいたわ。9時には事務所が開いているそうだから申し訳ないけれども今日尋ねて貰える? お願いします』「明日香さん……」本当に明日香は以前に比べて別人のように変ったので朱莉は正直戸惑っていた。(それともこれが本来の明日香さんだったの……?)その時、朱莉の頭の中に翔と女性秘書が親し気に並んで歩いてい写真が蘇ってきた。朱莉は悲しい気持ちになったが、それでもあの女性秘書と翔が結ばれることだけは想像したくなかった。明日香を安心させる為にも、自分の為にも、何としても翔と秘書の関係を明白にしておかなければと改めて朱莉は思うのだった。9時になり、朱莉がウィークリーマンションを出ると外は冷たい小雨が降っていた。「あ、雨……。そ、それに肌寒い……。沖縄とは大違いね」朱莉は両手で自分の身体を抱きしめると、一度部屋に戻り、折り畳み傘と念の為に持って来たコートを羽織ると再び外に出た。そして玄関先で明日香にメッセージを打った。『おはようございます。これから安西弘樹先生の興信所へ行ってきます。また後程ご連絡致します』短くそれだけ打つと、朱莉はコートの襟を立てて傘をさすと住所を頼りに興信所へと向かった――**** 安西弘樹興信所――そこは上野駅不忍改札口から徒歩5分程の雑居ビルの3Fにあった。朱莉は雑居ビルを見上げながら呟いた。「まさか自分の人生の中で興信所を使うなんて夢にも思わなかったな……」このビルにはエレベーターが無かった。朱莉は狭い階段を上り、事務
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-18
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8-12 安西弘樹 2

「え?」一体明日香は安西に朱莉のことをどのように説明したのだろうか?「とても愛らしい女性だと、だから羨ましいと明日香君が言っていましたよ?」安西はニコニコしながら朱莉に説明する。「え? その話本当ですか?」「ええ、本当ですよ」朱莉には信じられなかった。あの明日香が自分のことをそんな風に思っているとは今迄考えてもいなかったのだ。(明日香さん……私達これから少しずつ歩み寄っていけるでしょうか……?)朱莉は心の中で沖縄にいる明日香に問いかけた。「ところで、朱莉さん。ご主人の浮気調査と言うことでよろしいのですよね?」明日香はどうやら朱莉の夫の浮気調査と言う事で安西に話を持ちかけていたらしい。「は、はい。そうです。あまり長くは時間をかけられないので出来れば3日程で調べていただけないでしょうか?」(そうだ、安西先生に不審がられないようにしっかりしなくちゃ)朱莉は背筋を正しながら尋ねた。「実は今朝、明日香君から調査費用の前払いとしてすでに50万円受け取っているんですよ。いや~流石、売れっ子イラストレーターですよね? そこで既にうちの若いスタッフ2名に昨夜から調査を始めさせているんですよ。先程、連絡が入ってきたところです」安西は机の上に載っていたノートパソコンを手に取ると、再び朱莉の前に腰を下ろした。「どうぞ、御覧になって下さい」「は、はい」朱莉は恐る恐るPC画面を見た。そこには翔と新しい女性秘書が立派な門の前でベンツに乗り込もうとする写真が映っていた。写真を見る限りでは夜のようである。「!こ、これは……?」朱莉は息を飲んだ。「これは鳴海邸の前でうちのスタッフが取った昨夜の写真です。どうも何処かのホテルで開催された記念式典に参加したようですよ。ああ、そうだ。こちらの写真も御覧になって貰わなくてはなりませんでしたね。少し、失礼します」安西は朱莉の側でPCを操作すると、次の写真を出した。そこに写っていたのは……。「え! も、もしかすると鳴海……会長……?」一度しか会った事が無かったが、画面に映る顔には見覚えがあった。実は朱莉は少しでも鳴海家の会社について学んでおこうと思い、ビジネス雑誌に鳴海グループの特集が組まれていた際には購入して読んでいたので顔はよく覚えていたのだ。圧倒的なカリスマ性、まるで鷹の目のような鋭い瞳……。画面を食い入
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-18
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