19時―― 琢磨はエントランスのソファでスマホを見ながら航を待っていると、突然背後から航に声をかけられた。「琢磨、来たぞ」「待っていたぞ、航。それでどこで酒を飲む? このホテルのバーにでも行くか?」「いやぁ……俺にはバーみたいなかしこまった店は似合わないって。大体見ろよ、俺の格好」琢磨は航の格好を見た。真っ黒のTシャツに『海人』とでかでかと白抜きの文字で書かれたTシャツを着ている。上には縦じまのストライプ柄のシャツを羽織り、ジーンズにスニーカーというラフな格好である。一方の琢磨はTシャツに黒のジャケット、紺のボトムスにカジュアルシューズという出で立ちだ。「う~ん……確かにその服装はバー向きではないかな?」「だろう? そういうわけだから居酒屋行こうぜ。ここから歩いて10分ほど行ったところに繁華街があって、そこに居酒屋が何件かあるんだ」「よし、やっぱり俺達には居酒屋があってるかもな。早速行こう」琢磨はソファから立ち上った――**** 航と琢磨は居酒屋に来ていた。この居酒屋は古くからある店で、メニュー表などに写真は無く、全て御品書きは木の札に手書きされて壁にぶら下げられている。店内は古くからある沖縄民謡の歌が流れており、店内にいる客は見るからに観光旅行客らしい人物ばかりだった。航と琢磨は当然いつものごとく、お座席テーブルに座っていた。すでに2人の前には沖縄名物料理に、オリオンビールのジョッキが目の前に置かれている。「よし、それじゃ乾杯するか?」航はジョッキを持った。「乾杯? 何に? まさか朱莉さんと各務修也の結婚を祝ってか?」琢磨の言葉に航は顔をしかめた。「はぁ? そんなわけないだろう? 今だって飛行機に飛び乗って朱莉と2人、誰にも知られない場所に連れて逃げ出したい位なのに……」航は溜息をついた。「随分ロマンチックなことを言うな……。けど俺だって同じだ。生まれて初めて自分から好きになった女性に振られるんだからな。朱莉さんに会いでもしたら……各務と別れてくれって縋りついてしまいそうだ……」そして琢磨も深いため息をつく。「うわ! 女々しい奴だな。よし、それじゃ俺とお前の再会を祝して乾杯しようぜ」航は割り切った笑顔でジョッキを持った。それを見て琢磨は呆れたように肩をすくめる。「航。お前随分踏ん切りがつくの早いな? ひょっとして誰
Last Updated : 2025-07-18 Read more