Semua Bab 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした: Bab 671 - Bab 680

712 Bab

4-24 終息へ向けて…… 2

「会長! それは一体どういうことですか!?」ついに翔は我慢できず、声を荒げた。「朱莉さんを偽装婚から、そしてお前から開放する。そして蓮は私が自分の息子として引き取る。私はな……ぎりぎりまで待つつもりだったんだ。お前が私に本当のことを話してくれるのを。なのに、お前は先ほど修也の話を遮ろうとしたな?」「!」翔の肩がビクリと跳ねる。「全く往生際が悪い……。そんなずる賢い人間に、この巨大グループを任せるわけにはいかないな。役員会議にかけるまでも無い。翔、お前は社長になれるだけの器の人間ではない。弱者を踏みにじり、私の目をごまかすために嘘を塗り固めてきた人間に、この会社を任せることは出来ない。アメリカへ戻れ。そして次期社長になる修也の為に尽力しろ。それが嫌なら、一族の名を捨てて出て行け」「あ……」翔は力なく項垂れた。それは……まさに翔にとっての死刑宣告に等しかった。今、この瞬間……猛の言葉によって翔と朱莉の偽装結婚は終わりを告げたのだった――**** その頃……。解熱剤のおかげで少しだけ元気が出た蓮はベッドの上で朱莉におかゆを食べさせてもらっていた。「どう、蓮ちゃん。卵のおかゆ、美味しい?」すると蓮は嬉しそうに笑う。「うん、とっても。僕ね……お母さんが大好き。お母さんの作る料理も大好きだよ。だから……」突然、蓮の目に涙が滲んでくる。「ぼ、僕には……お母さんが2人いるけど……一番好きな人は……お母さんだよ……っ!」そして蓮は朱莉に抱きつくと、声を殺して泣き始めた。「蓮ちゃん……!」朱莉も蓮を強く抱きしめた。「お母さんも……蓮ちゃんが大好きよ……。蓮ちゃんには本当のお母さんがいるけど……お母さんも、蓮ちゃんのこと……本当の子供だと思ってるから……」そして血の繋がらない母と息子はいつまでも抱きしめあって、涙を流すのだった。その様子を偶然訪ねて来た明日香に見られていることにも気づかずに――**** この日、明日香は朝早くからイラスト作成の仕事をしていた。しかし、なかなか良いイラストのアイディアが浮かばず、気分転換にバルコニーに出て外の景色を眺めていた時、朱莉が蓮を抱きかかえて慌ててマンションから出て行く姿を目にしたのだ。「え? 朱莉さん……それに蓮?」走り去っていく姿を偶然見た明日香はすぐにピンときた。恐らく蓮が熱を出したのだろ
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<終章>  明日香との別れ 1

 同日19時――突然朱莉のスマホに猛から着信が入ってきた。(え!? 会長から……?)朱莉はすっかり動揺してしまった。相手は巨大産業グループの創設者のトップなのだ。緊張しないはずがない。深呼吸するとスマホをタップした。「はい、もしもし」『こんばんは、朱莉さん。今、電話いいかね?』「はい、大丈夫です」『実は今、翔と修也が我が家に来ているんだ。朱莉さんも来ないか? 迎えの者を寄こすから』「い、いえ……申し訳ありませんが今夜は無理です。実は蓮ちゃんが風邪をひいて熱を出したんです」『な、何だって!? 蓮は大丈夫なのか? 今から主治医を呼んで蓮の診察を頼もう!』珍しく猛の慌てた様子を電話口で聞いた朱莉は少しだけ猛に人間味を感じて緊張が解けた。「いえ、大丈夫です。午前中にかかりつけの小児科へ連れて行きましたので。今はすっかり熱も下がりました。先程うどんを食べたところなんです。今はリビングのソファで横になってテレビを見ています。でも明日は念のために幼稚園はお休みさせますけど」『そうか……それなら良かった。そうだ、朱莉さん。明日蓮の体調が良ければ、我が家へ来ないか? 19時に迎えを寄こすから』「そうですね。では明日の蓮ちゃんの体調次第でお邪魔させていただきます」『ああ、会えるのを楽しみにしてるよ。では、またな』「はい、失礼いたします」そして電話は切られた。「ふう…」朱莉は溜息をつくと、スマホをテーブルの上に置いた。(会長の家に呼ばれるってことは何か重大なお話があるんだろうな……。やっぱり蓮ちゃんのことだよね)朱莉にはもうどうすることも出来なかったし、翔も明日香も、そして修也も逆らうことが出来ない。絶対的な存在であることは十分承知していた―― ****鳴海家本宅―― 「蓮が……今日熱を出したそうだ」電話を切った猛はため息をついた。「え!?」「蓮君が?」翔と修也がほぼ同時に声を上げた。「本日は幼稚園を休んだそうだ。今は熱が無いらしいが……蓮は身体が弱いのだろうか?」「いえ。今まで僕の知る限り、蓮君は殆ど風邪をひいたことがありません。熱だって1年に1回しか引いたことがありませんでした」修也が言うと、翔は修也を睨みつけた。「修也、お前は随分と蓮のこと詳しいんだな?」すると猛が言った。「翔、言いたいことがあるなら修也にではな
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-29
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<終章>  明日香との別れ 2

翌朝、7時――――ピンポーン突然朱莉の部屋にインターホンが鳴り響いた。(あ……明日香さんかな?)蓮の熱は昨夜のうちに下がっていたが、今朝はまだベッドで眠っている。「はい」朱莉は玄関へ向かいドアを開けると、やはり現れたのは明日香がだった。しかも大きなキャリーケースを手にしている。「おはよう、朱莉さん」笑顔で明日香は挨拶してきた。「おはようございます。あの……明日香さん。その荷物はどうしたんですか?」すると明日香が突然頭を下げてきた。「今までごめんなさい、朱莉さん」「えっ!? 突然どうしたのですか?」いきなりの謝罪で朱莉は目を見開く。すると明日香は頭を下げたまま言った。「今更、蓮の母親面して……朱莉さんから蓮を奪うような真似をしてしまったこと、本当に反省してるわ」「明日香さん? 何をおっしゃってるのですか? だって蓮ちゃんは明日香さんの実のお子さんじゃありませんか?」「それは……ただ私が生んだだけよ。蓮がお母さんと慕ってるのは朱莉さん、貴女だけよ」「明日香さん……」「私ねえ……やっぱり長野に戻ることにしたの」明日香は顔を上げた。「え?」その言葉に朱莉は我が耳を疑った。「実は長野に住んでいる別れた恋人が、どうしても私とやり直したいって以前から連絡が入っていたのよ。結婚を申し込まれていたの……」「まあ……結婚ですか?」「ええ。それにね……長野には生き別れになった母が住んでるのよ。これから行方を捜してみようかと思っているの。だけど、朱莉さん。離れていても蓮のこと絶対に忘れないし、必ず年に数回は会うわ。いいえ、会わせてちょうだい。だって……私は蓮を……あの子を愛してるの……」明日香の眼に涙が浮かぶ。「ええ……。分かっています。明日香さんがどれほど蓮ちゃんを愛しているか。だって、私はずっと傍で二人を見てきましたから」すると明日香は笑顔になる。「鍵、返しておくわ。それじゃ新幹線の時間があるから、もう行くわね」「あ、待ってください。蓮ちゃんには会わないのですか?」朱莉は慌てて引き留めようとした。「会うと……別れがたくなってしまうから……会わないで行くわ」「……分かりました」不意に明日香が朱莉の右手を取ると言った。「朱莉さん。今度は貴女が幸せになる番よ?誰を選ぶかは分からないけど、私は貴女の幸せを祈っているから」 
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<終章>  昨夜の話と今 1

 話は前夜に遡る―― 「来たか、明日香」応接室に現れた明日香を見て真正面のソファに座っていた猛は声をかけた。「御爺様……お久しぶりでございます」明日香は青ざめた顔でお辞儀をし……左側に座る翔をバツが悪そうに見た後、右のソファに座っていた修也を見てギョッとした顔になった。「え……? 翔が2人……?」数年ぶりに翔に再会した明日香にとって、修也は双子に見える程によく似て見えた。すると修也は立ち上がってお辞儀をした。「初めまして、明日香さん。僕は翔のいとこの各務修也と申します」すると猛が言った。「彼が次の鳴海グループの社長に決まったから、明日香。きちんと挨拶をしろ」「は、はじめまして……鳴海明日香と申します……」そして翔を見た。「翔。貴方……社長に選ばれなかったのね……」そして明日香は思った。(馬鹿みたい……私達、6年間何していたのかしら。全ては翔が社長になるために偽装結婚を考え付いたのに……)しかし、実際は予想を覆す結果となってしまったのだ。明日香は翔に見切りをつけ、翔はアメリカへ行かされ……挙句の果てに社長に決まったのは、今日始めた会った青年、各務修也だったのだから。尤も初めて会ったと思っているのは明日香のみで、修也は入れ替わった時に明日香と会っているし、その事実を猛も知っている。「まあいい、明日香。とりあえず座りなさい。今夜はお前に大事な話があってここへ呼んだのだ」猛は向かい側の空いているソファに座るように促した。「……」明日香が無言で座るのを見届けると、猛は言った。「明日香……そして翔。2人の子供である蓮は、私が親権を取ることにした。朱莉さんと翔は離婚だ」「な、何ですって!? 御爺様! あの子は……蓮は私の子供ですよ!?」すると猛は反論した。「明日香。お前にそれを言う資格があるのか? 一番子供を育てるのに大変な時期に朱莉さんに自分の子供を押し付けて、お前は長野で恋人と2人で悠々自適に暮らしていただろう? それが何だ? 蓮が4歳になった時に不意に現れて、折角良好な親子関係を築けていた朱莉さんと蓮を引き裂くような真似をして。大体、戸籍上は蓮は朱莉さんの子供になっているのだ。お前が蓮の母親と名乗る資格など無いのだよ。思い上がるな!」猛に一括され、明日香は悔しそうに唇を噛むと翔を見た。「翔! 黙っていないで何とか言いなさ
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<終章>  昨夜の話と今 2

「翔……。そうよ、そこが問題なのよ……貴方のそういう所が嫌になったから私は貴方に見切りをつけたのよ!」明日香がヒステリックに叫ぶと、ついに我慢が出来なくなったのか、猛が声を荒げた。「うるさい! 2人とも! 痴話喧嘩をさせるためにお前を呼んだのではない! 蓮の話を伝える為に呼んだのだ! これは決定事項だ! 蓮のことも、修也が次期社長になるのも……誰にも覆すこと等出来ない!」「「……」」猛の言葉に2人はすっかり静かになった。「明日にでも蓮と養子縁組手続きを取る。分かったな? だがお前たち2人は蓮の実の両親だからな……望めばいつだって会わせてやるし、蓮が承諾すれば数日位、一緒に過ごさせてもやる。行事だって出たいなら参加すればいい。ただし、全ては蓮を尊重する。蓮が拒めばそれまでだ。そして第一優先は朱莉さんだ。蓮に会える一番の資格を持つのは他でもない朱莉さんだからな。朱莉さんが望むなら蓮と週の半分は一緒に暮らさせても良いと考えている」猛は淡々と語るが……翔はもうどうでもよかった。(結局……俺は社長の座を逃し、朱莉さんを自分の妻にすることも出来なかったのか……)朱莉を本気で愛してしまっていた翔に取っては、もはや絶望しか無かった。挙句にこの先ずっと今まで自分が見下していた修也に今度は従わざるを得ない立場になったことが悔しくて仕方がなかった。 一方の明日香は悔し気に猛の話を聞いていたが……その反面、朱莉の部屋で偶然聞いてしまった2人の様子を思い出していた。蓮と朱莉は抱き合って泣いていた。そして、その涙の原因を作ってしまったのは他でもない、自分なのだ。「……分かりました。御爺様……。蓮の親権は……どうぞ御爺様が貰って下さい。私は長野へ……帰ります。「そうか……お前も大分聞き分けが良い人間になれたな。やはりそれは蓮のおかげかもしれん」猛の言葉に明日香は尋ねた。「蓮に会いたい時は……本当に会わせてくれるんですよね?」「ああ、勿論だ。お前の息子だからな」「ありがとうございます。……それでは荷造りがあるので失礼させていただきます」明日香は立ち上がった。「……」しかし、翔は何も言わずに目を伏せている。「明日香さん……!」修也が明日香の名を呼んだ。「各務さん……だったかしら? 次期社長、頑張って下さい。御爺様も……お元気で」「ああ、お前もな」明日香
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<終章> 月の夜、美しい日本庭園で 1

「……蓮? 蓮なのか……?」翔はソファから立ち上り、蓮をじっと見つめると声を震わせた。「え……? お父さん……?」蓮は驚いたように修也を見上げる。「どう……して……? 修ちゃんが2人いるの……?」蓮は驚いたように目をぱちぱちさせる。やはり幼い蓮の目から見ても翔と修也は見分けがつかないほどによく似ていた。すると修也は言った。「蓮君、驚いたかい? 僕と蓮君のお父さんは、いとこ同士なんだよ。しかも蓮君のお父さんと僕のお父さんは双子の兄弟だったから、余計に似ているんだよ。……でもこの話はまだ蓮君には難しいかな?」すると蓮は首を振った。「ううん! そんなこと無いよ! だってね、幼稚園でも双子の女の子がいるんだ。そっくりで見分けがつかないくらいなんだよ。そっか……だから……修ちゃんとお父さんは……」蓮は照れたように朱莉の手を握り締めながら翔を見た。「蓮ちゃん。お父さんはね、蓮ちゃんが赤ちゃんの時にとっても可愛がってくれていたのよ」朱莉は蓮に語る。「蓮……お父さんの処へ、おいで」翔はしゃがむと両手を伸ばした。「……」蓮は照れて行こうとしない。そこで朱莉は蓮に言い聞かせた。「蓮ちゃん。お父さんの処へ行ってあげて?」「う、うん」蓮は朱莉から離れるとゆっくりと翔に近付いていき、翔の目の前でピタリと止まった。翔は蓮をじっと見つめた。「うん……覚えている……まだ蓮が赤ん坊だった頃の面影が良く……残っている……」翔は震えながら蓮の頬に触れた。翔の目には薄っすら涙が浮かんでいたが……。「れ…蓮っ!」翔は蓮を強く抱きしめると、嗚咽した。一方の蓮はどうすればよいのか全く分からなかったが、翔が自分の良く知っている修也と同じ顔をしているので、されるがままになっていた。「全く……翔。お前は本当に愚かな父だな……」ずっと成り行きを黙って見ていた猛はポツリと言うと、修也と朱莉に声をかけた。「悪いが、2人に大事な話があるから修也と朱莉さんは少し席を外してくれないか。そして修也、お前は例の件を朱莉さんに伝えるんだぞ?」「はい。分かりました。それじゃ行きましょう。朱莉さん」「あ、あの……各務さん。例の件って言うのは一体……?」「その事は後程お話しますよ」修也は朱莉をじっと見つめた――****  とても月の美しい夜だった 朱莉と修也は鳴海家の庭
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<終章> 月の夜、美しい日本庭園で 2

「実は……翔と朱莉さんの契約婚は明日で終了になります……」修也は声を振り絞るように言う。その言葉を聞いた朱莉の肩がビクリと跳ねる。「そう……ですか。それで蓮ちゃんはどうなるのですか? やっぱり明日香さんが引き取るのですか? それとも翔さんですか?」朱莉は修也に背中を向けたまま尋ねる。「蓮君の親権は……会長が持つことになりました」修也はグッと両手を握り締めながら苦し気に言う。修也はこの時ばかりは猛を呪いたくなった。(会長……どうして僕にこの役目を押し付けたのですか? 僕は朱莉さんが悲しむ姿なんか見たくないのに……!)「分かりました……。それでは蓮ちゃんとは今夜、ここでお別れなのですね……」しかし、朱莉は淡々としている。「朱莉さん……?」「それでは、私はいつ今のマンションを出ればいいですか? できれば次に住む場所が決まるまでは、おいていただきたいのですが…。…蓮ちゃんの荷物整理などもありますし。1カ月程猶予をいただけませんか?」「朱莉さん? どうしたのですか?」何だか朱莉の様子がおかしい。そう感じた修也は朱莉に声をかける。「母の入院費はこれからは私が支払っていきますので、今のまま入院させて下さい。後……それと……」「朱莉さん!」修也は朱莉の右手を掴んで自分の方を振り向かせ……ハッとなった。朱莉の大きな両目からは涙がとめどなく溢れていたのだ。「朱莉さん、泣いていたのですか?」すると……。「う……っ……か、各務さん……。わ、私……」「!」修也は朱莉を引き寄せると強く自分の胸に抱きしめた。「朱莉さん……」「わ、私……覚悟してたんです……。蓮ちゃんが生まれた時から……初めて自分に託された時から、いつかは別れがくるって……分かり切っていたのに……4年も前から……な、なのに……こんなに辛いことだったなんて……!」「もういい! 朱莉さん……これ以上、何も言わなくていいんだ!」修也はますます力強く朱莉を抱きしめる。「朱莉さん……僕の話を黙って聞いて欲しいんだ。実は……」そして修也は腕の中の朱莉に優しく語り掛けた。それを聞いた朱莉は増々泣きじゃくり、修也はそんな朱莉を黙って抱きしめ髪を撫で続けるのだった――**** その頃――蓮は猛の膝の上に座り、話を聞かされていた。「いいか、蓮。お父さんはこれからもずっと外国で仕事をしていか
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<終章> 別れの手続き 1

 その日の夜――応接室に全員が揃っていた。朱莉の向かい側の席には翔が座り、その様子を左右のソファに座って見届けているのは修也、そして蓮を膝に乗せた猛である。「朱莉さん、ここに名前を記入してくれ」翔が力なく朱莉に差し出したのは離婚届けだった。すでに翔の名前が記載されている。「翔さん……」ガラステーブルの前に置かれた離婚届と翔の顔を朱莉は交互に見ると、翔が言った。「6年間、本当に色々とありがとう。蓮のことも……」そして翔は頭を下げた。(くそ……! 見張られていなければ自分の気持ちを朱莉さんに告げることが出来たのに……俺にはそれすら許されないってことなのか……)翔は自分の置かれた立場が惨めで、今すぐここを立ち去りたい気持ちと、朱莉に愛を告げ、その手を取って今すぐアメリカに連れ帰りたい気持ちで揺れ動いていた。が……そのどちらも翔には許されないのだ。黙って離婚届に自分の名前を記入して朱莉との6年間の全てを、今この場で清算させる。それが猛からの命令だったからだ。これに歯向かえば翔は鳴海グループから追い出されてしまう。だが翔は一縷の望みを持っていた。ひょっとすると朱莉は自分との離婚を拒否してくれるのではないか? 少なくとも偽装結婚を始めた頃は朱莉は自分に気が合ったのではないかと……そのほんのわずかな希望に縋りたかった。だが目の前で淡々と離婚届にサインをする朱莉の姿を見て、自分の希望が打ち砕かれたことを改めて知ったのだ。(考えてみれば当然だよな……思えば結婚当時は朱莉さんに対して酷い態度ばかり取っていた。離婚することに朱莉さんが抵抗しないのは当たり前だ。俺は今更ながら何て愚かな人間だったのだろう。結婚当初から優しく接していればこんな惨めな結果にはならなかったのに……)偽装結婚することが出来たばかりのあの時、翔は自分の望むもの全てを手に入れたかの様気持ちになっていた。しかし、それは全くの逆だった。偽装結婚などをしたばかりに、翔は全てを失ってしまったのだ。明日香を、朱莉を……蓮を。そして時期社長の座を……。 朱莉が離婚届に記入を終えると猛は翔に告げた。「明日、お前は朝のうちにアメリカへ戻れ。私が代わりに2人の離婚届を役所に提出しておこう」猛は朱莉が記入を終えた離婚届の書類を手に取った。「え……? もうアメリカへ戻るのですか?」朱莉は翔を見
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<終章> 別れの手続き 2

「翔さん? どうかしましたか?」翔の様子がおかしいことに気づいた朱莉は首を傾げた。「いや、何でもない。元気でね……。さよなら、朱莉さん。6年間、ありがとう」「こちらこそ、ありがとうございました」最後に朱莉はもう一度深々と翔に頭を下げると猛を見た。「それでは蓮ちゃんをよろしくお願いします」「ああ。幼稚園はこちらから連れて行くよ。実はな……もう蓮の幼稚園の制服を手配してあるんだ」猛はいたずらっ子のように笑みを浮かべた―― **** 鳴海家の帰りの車内――朱莉を助手席に乗せた修也は夜の町を走らせていた。「すみません、各務さん。お疲れのところ車で送っていただいて」「いえ、いいんですよ。これくらい気にしないで下さい」修也はカーステレオをつけると、ある音楽が流れ始めた。その曲は『美しき青きドナウ』だった。「「あ……」」この時、何故か朱莉と修也が同時に声を上げた。何故ならその曲は高校時代、朱莉と当時翔のふりをしていた修也が一緒にホルンの練習をした曲だったからである。「あの、この曲がどうかしたのですか?」朱莉は修也に尋ねた。「いえ、ただ……このクラシック曲は好きな曲だったからですよ」修也は曖昧に笑った。「そうですか……」朱莉はポツリと言ったが、やがて意を決したかのように口を開いた。「各務さん……私の高校時代の話、聞いてもらえますか……?」「いいですよ」修也は緊張した面持ちでハンドルを握り締めながら返事をした。「私と翔さんの出会いは高校生の時だったんです。入学式の時吹奏楽部の演奏を見て、憧れて入部したんです。そして私はホルンを担当することになったのですけど……少しもうまく演奏出来なくて……。それで当時私が憧れていた翔さんが個人レッスンをしてくれることになったんです」「そう……なんだ」(朱莉さんは一体何を言うつもりなんだろう……?)「それで、私……練習中に金属アレルギーを起こして意識を失ってしまったみたいなんです。そしたら翔さんが救急車を呼んでくれて……ずっと付き添ってくれたんです。病院にもお見舞いに来てくれました」その時、車が止まった。朱莉の住むマンションへ着いたのだ。修也は溜息をついた。本当は話の続きを聞きたかったのだが、もう朱莉の住むマンションへ着いてしまったのだからここで断念するしかなかった。「朱莉さん。マンショ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-30
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<終章> 2人の夜 1

「どうぞ、上がってください」真っ暗なマンションの部屋の玄関の電気をつけると、朱莉は修也に声をかけた。「お邪魔します」修也が部屋へ上がると、朱莉はリビングの部屋の電気をつけた。「今、お茶を入れますので各務さんはリビングで待っていて下さい」「ありがとうございます、朱莉さん」修也は笑みを浮かべ、リビングのソファに座った。リビングに置かれたケージの中にはネイビーがいて、おもちゃで遊んでいる。「……可愛いな……」修也は呟くと、改めて部屋の中を見渡した。リビングは蓮の持ち物で溢れかえっていた。テレビの脇に置かれているのは修也と一緒に買いに行った蓮の本棚で、明日香が描いた絵本が丁寧に並べられている。出窓には蓮が幼稚園で作ったと思われる紙粘土の作品や、綺麗に額縁に収められてクレヨンで描いた蓮のイラストが壁のコルクボードのフックにかけられ、飾られている。それらを見て修也は思った。朱莉にとって蓮は大事な存在で、朱莉の生活の中心は全て蓮に向けられているかを感じた。(こんなに愛情を持って4年間大切に育ててきた蓮君を手放さなくてはならないなんて……今朱莉さんは、どんなに辛い思いをしているのだろう…)朱莉と蓮が引き離される……そのことを考えるだけで修也は朱莉が気の毒で哀れでならなかった。その時。「お待たせいたしました。各務さん」その声に振り返ると朱莉がお盆にお茶が入った湯呑を持って現れた。「コーヒーかお茶にするか……迷ったんですけど、たまにはお茶にしてみました」そして修也の目の前にコトンと置く。「ありがとう、朱莉さん」修也は笑顔を向けるとお茶を一口飲んだ。それは抹茶の含まれた玄米茶だった。「うん。とても美味しいですよ」「良かったです。お口にあって」そして朱莉は修也の左隣のソファに座った。少しの間、2人の間に沈黙が降りたが……やがて朱莉が口を開いた。「各務さん……先ほどの話の続きですけど……」「話……? ああ、翔の話ですよね。どうぞ」修也の心は穏やかではなかった。本当は今すぐにでも告白したい。あの時、朱莉の練習に付き合ったのは翔ではなくて自分だと。救急車に乗って付き添い、お見舞いに行ったのも自分だと告げたかった。だが、朱莉は翔と修也の入れ替わりの事実を知らない。今そんな話をしても朱莉を混乱させてしまうだけだろう……そう思うと修也は真実を告げる
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-01
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