「私が金属アレルギーだってこと、覚えていたらプレゼントに純金製の腕時計なんかくれませんよね?」朱莉は寂し気に笑う。「朱莉さん……」(どうしよう、何と言って慰めてあげればいいんだろう…?)修也はただじっと朱莉を見つめるしかできなかった。しかし、朱莉は意外なことを口にした。「あ、あの……私、初めて各務さんにお会いした時……何故か懐かしい感じがしたんです」「え?」「翔さんに似ているからそう思っていたのかなって思ったりもしたのですけど……。でも、似てたんです……」「似てた?」「はい。あの、高校時代の翔さん……全体練習の時に顔を出していた時と、私の為に個人レッスンをしてくれて金属アレルギーで倒れた私を救ってくれた翔さんは……まるきり別人のように感じてしまって……」「朱莉さん……」「私が翔さんを好きになったきっかけは、私の命を救ってくれたからなんです。でも今になって思うんですけど、あの時の翔さんは……本当は別人だったのじゃないかなって……え!?」気づけば朱莉は修也に強く抱きしめられていた。修也は朱莉の髪に自分の顔をうずめると言った。「朱莉さん……ごめん。僕と翔は……朱莉さんを騙していたんだ……」「え……? 騙していた……?」(ま、まさか……やっぱり……?)修也に強く抱きしめられたまま、いつしか朱莉の頬は赤く染まり……心臓はドキドキと早鐘を打っていた。「僕は……あの頃、翔の命令で時々入れ替わっていたんだ。あの時も……」修也は朱莉を抱きしめたまま話を続ける。「音楽室で初めて朱莉さんを見た時、何て可愛い人なんだって思ったよ。だから僕は心の中で翔に感謝した。だって翔の提案が無ければ僕は違う学校の生徒だったから……こんな事でもなければ朱莉さんと知り合えなかったんだし。朱莉さんが心配だったからお見舞いにも行ったし、この先も2人で練習できるだろうと思ったからマウスピースもプレゼントしたんだ。なのに朱莉さんは学校をやめてしまった。あの時……僕がどれほど悲嘆にくれたか……」「か、各務さん……」朱莉は耳を疑った。ずっと……好きだった相手は本当は修也だったのだ。「好きだよ、朱莉さん」「!」それは突然の修也からの告白だった。「翔に朱莉さんを紹介された時、すぐに気が付いたよ。そして酷く落ち込んだ。いくら偽装結婚だからと言って、朱莉さんは翔と結婚してしま
Last Updated : 2025-07-01 Read more