「あの、貴方の名前と連絡先を教えて下さい」岩崎茜は航に頭を下げてくる。「別に連絡先位教えてもいいけど……何でだよ?」「それは勿論、後日何かお詫びを……」「あー、そんなものいらねぇから」航はフイと視線をそらせた。「そう……ですか……」俯く茜の姿が何となく朱莉の姿とかぶってしまった航は溜息をついた。「ハア……。でもまあ、そっちが名刺を渡してきたんだから俺も渡すべきかもな」航はシャツの胸ポケットから名刺入れを取り出した。職業柄、航はいつでも名刺を渡せるように持ち歩いているのだ。「ほらよ、これが俺の名刺だ」航が名刺を差し出すと茜は丁寧に両手で受け取り、じっと名刺を見つめた。「安西……航さん。興信所兼便利屋さんですか」「ああ、そうだ。もっとも本業の興信所の方は依頼がさっぱりだけどな。まあそれも仕方がないけどな。一か月前に沖縄に移り住んだばかりだから」そこまで言って、航は茜がじっと自分を見つめていることに気が付いた。(しまった! 俺としたことが初対面の女に余計なことをぺらぺらと……)「じゃあな、クリーニング代とかは気にするな。お互い様だから」そう言って航は背を向けるとコンビニを後にした。(どうせもう会うことも無いだろうしな……)航はそう思っていた。少なくともその時までは――**** 住居兼事務所に戻った航は電気をつけ、部屋の窓のブラインドをしめるとまずは自室へ向かった。タンスから新しいTシャツを取り出すと、コーヒーで汚れたシャツとTシャツを脱ぎ、先ほど出したTシャツに着替えた。汚れた衣類をバスルームへ持っていき、洗濯機に放り込むと次に航はキッチンへ向かった。ヤカンに水を入れてコンロに火をつけて湯を沸かす。その間に箸と皿を背後にある食器棚から取り出すと、カットサラダを皿に開け、小型冷蔵庫からドレッシングを取り出して事務所のテーブルへと運ぶ。ピーッ!ヤカンが鳴ってお湯が沸いたことを知らせる音が聞こえ、カップ麺にお湯を注いで事務所のデスクへと運んだ。出来上がりまでの5分間の間、航はスマホのメッセージのチェックをした。「え……と、明日は1人暮らしの爺さんの弁当配達と……ばあさんの買い物か……。全く雑用ばかりだな……。もうそろそろ興信所の依頼が入って来てもいい頃なのに……。おっと、もう時間かな?」航は壁にかけてある時計を見ると、手
Terakhir Diperbarui : 2025-07-08 Baca selengkapnya