しかし飯塚の願いもむなしく、臼井と一緒にいた男性が飯塚に興味を示した。「へえ~君、咲良ちゃんて言うんだ。可愛い名前だね。君にぴったりだ」男は嘗め回すような視線で飯塚をジロジロと見つめる。「ちょ、ちょっと……何してるの? 勇さん」臼井は男の名を呼ぶ。一方の飯塚は男のぶしつけな視線が嫌でたまらなかった。服役する前の飯塚なら男が自分を見つめて来る視線を心地よいと感じていたかもしてないが、3年間刑に服した今の飯塚は、たとえそれが子供の視線だろうと人の視線が嫌でたまらなくなっていたのだ。「あの……私、それじゃ帰ります」臼井と勇という男に背を向けて立ち去ろうとすると、突然勇が声をかけてきた。「ねえ、咲良ちゃん」その言葉に飯塚はピタリと足を止めると振り向いた。「……人前で名前を呼ぶの、やめていただけますか?」「そう? 名前呼ばれるの嫌なんだ? それよりさ、ちょっと3人でお茶でも飲んでいこうよ」どうやら勇は飯塚にすっかり興味をもってしまったようだ。「いいえ、結構です」はっきり断ると臼井も会話に加わってきた。「そうよ、飯塚さんは用事があるんだから。大体今日はこれから映画を観に行くんでしょう? ほら、チケットだって用意してあるのよ?」臼井のその様子に飯塚はぴんときた。恐らく入れ込んでいるのは臼井の方で、男はさほど彼女に対しては興味を持っていない……と言うか、そもそも付き合っているという感覚すら持ち合わせていないのではないだろうかと。すると案の定、勇は言った。「映画に行きたければお前1人で行ってくればいいだろう? 俺は咲良ちゃんの方が興味ある」そして飯塚をじっと見つめる。「な? 30分でいいからさ? 一緒にコーヒー飲もうよ。それだけでいいからさ」すると臼井も説得してきた。「ええ、そうね。30分だけ一緒にコーヒーを飲みましょう? 奢ってあげるからっ! 勿論……断るはずないわよね?」その目は飯塚にとってはこう語っているように見えた。もし言うことを聞かなければ、刑務所に入っていたことをばらしてやる……と。(駄目だ……きっと断れば臼井さんは私が元受刑者だったってことをばらすかもしれな!)「わ、分かりました。30分だけ……なら……」飯塚は観念するしかなかった――****――10分後飯塚は半ば無理やりカフェに連れてこられていた。3人で丸テ
Terakhir Diperbarui : 2025-08-07 Baca selengkapnya