(ん? あの親子は……?)水道場に向かう途中、琢磨は他の保護者たちとは少し離れた場所にレジャーシートを敷き、仲良くお弁当を食べている母子の姿を見つけた。そこに座っていたのは先ほど琢磨が朱莉だと勘違いした女性であった。彼女の傍らには体操着を着た男の子が座り、美味しそうにおにぎりを食べていた。2人はとても仲がよさそうで、大きな声で会話しながら食事を楽しんでいた。すると不意に2人の会話が琢磨の耳に飛び込んできた。「舞ちゃん。このおにぎり、すっごく美味しいね?」「そうでしょう~? レンちゃんの為にねぇ……大好きなタラコを入れたんだよ?」「うん! 僕タラコだ~いすき!」レンと呼ばれた少年はニコニコ笑っている。その会話を聞いて琢磨は首を傾げた。(妙だな……母親のことを名前で呼んでいるのか? それに父親もいないように見えるし)その時――女性は顔を上げ、琢磨と視線が合ってしまった。(うっ! ま、まずい……! あまりにもぶしつけにジロジロ見てしまったか!?)すると女性は軽く会釈をしたので、琢磨も慌てて会釈をし、足早にその場を立ち去った。(ふう~驚いた……まさか目が合ってしまうとは……でも……)琢磨は思った。綺麗な女性だった――と。**** お昼休みも終わり、プログラムも終盤に差し掛かろうとしていた。「琢磨、もうお前帰ってもいいぞ」突如競技を見物していた二階堂が琢磨に視線を向けることなく言った。「え……? ええ! い、いいんですか!?」思わず琢磨の声が喜びで声が弾む。「何だ? 随分嬉しそうじゃないか?」ぐるりと首を回して琢磨を見る二階堂。「い、いえ。気のせいですよ?」「ふ~ん……そうか?」しかし、琢磨には理由が分からなかった。まだ運動会のプログラム終了までは演目が残っているはずなのに、何故突然帰るように言い出したのか理由を尋ねたくなった。「あの、でも……何で帰るように言ってるんですか?」すると二階堂は溜息をつくと、琢磨に運動会プログラムを差し出してきた。「ほら。プログラムの最後の演目を見て見ろよ」「?」受け取った琢磨プログラムを眺め、尋ねた。「この一番最後の演目ですよね?」「ああ、そうだ。」「親子でペアダンス……ってなっていますけど? これがどうかしたんですか?」すると二階堂は急に不機嫌そうな顔つきになった。「どう
Last Updated : 2025-08-17 Read more